気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

味噌村 幸太郎

38 待ち合わせはいつもの場所で


 ミハイルは俺に告白したあと、フラれたショッックから落ち込んでいた……と、思っていた。
 どうやら、一週間の音沙汰なしは、妹のかなでと裏でなにやら、コソコソと連絡をとりあっていたらしい。
 詳しい経緯については、またかなでから事情聴取するとして……果たして、あの変態妹が俺の問いに正常に答えられるだろうか。

 例の電話、(土曜日に会う約束)以来、またピタッとミハイルからの連絡がとまった。
 あいつのことだ……またなにか、良からぬことでも考えているに違いない。
 知らんけど。

 
 数日後、金曜日の夜のことだった。
 スマホのアラームが鳴る。着信名はミハイル。
「もしもし」
『あ、オレだけど☆』
 でしょうね。

「明日のことか?」
『うん☆ 博多駅のしろだぶしのぞうに朝の10時な☆』
「え? ぞう?」
『じゃあ明日な☆』

 ブツッと一方的な切り方が耳障りだった。
 しろだぶしのぞう?
 ……あ、『黒田節の像』のことか。
 バカだから困るわ~ ないわ~
 
 まったくミハイルのやつときたら、必要事項以外は、愛想のないやつだ……。
 と、思っても、別に俺とヤンキーのあいつとでは、交わす言葉なぞないがな。


 翌日、俺は『世界のタケちゃん』のギャグ(キマネチ)がおしゃれな『タケノブルー』のTシャツとジーンズを着て、真島駅まで向かった。
 もちろん、いつもの小説専用ノートPCが収納されたリュックサックを背負っている。
 
 駅のホームに立ち、スマホに目をやると『8:58』
 
 約束の時刻よりも、一時間も前に列車に乗った。
 フッ、今度こそ、俺が先に待ち合わせ場所につくだろう。

 思えば、博多駅なんぞ映画を見に行くこと以外、なにもなかったな。
 しかしなぜ待ち合わせ場所が、わざわざ遠方の博多なんだ?
 俺が住んでいる真島駅からも30分ほどだ。
 ミハイルが住んでいる席内駅から、したら40分もかかる。
 都会に興味でもあんのかな?


 列車に揺られること数十分、車掌の声が車内に響き渡る。

『次は博多~ 博多~ 博多駅です』

 列車内の人々は大概この駅で全員おりる。
 福岡市に住んでいる住民は、博多駅に必ずと言ってなにかを求める。

 それは博多が福岡市において『入口』や『玄関』ともいえる都市部だからだろう。
 仕事にいく人もいれば、勉学や娯楽、出会い、買い物、その他多種多様なもの、目的が全て揃うのが博多という街だ。

 福岡ビギナーの方々には、ぜひとも博多駅に観光にいくべきだ。
 一日あっても遊び足りないぐらいの複合商業施設なのだから!
 
 まあ人間嫌いな俺からしたら、『今』の博多駅は好きではないが。
 むかしのきったねー頃の、博多駅の方がなにかといいな。
 綺麗な建物に建て替えれば、おのずと人も入れ替わる。
 慣れしたんだ人や店も全て消え失せるのだ。

 
 と、個人的な想いにふけるのはさておき、博多駅の改札口を降りれば、西側が表口と思ってもよい、『博多口』が見える。
 そして、反対の東側には裏口と思ってもよい、『筑紫口』がある。

 ミハイルが指定したのは、主に待ち合わせ場所として多用される、一番わかりやすい『博多口』だ。
 博多口から出れば、広々としたロータリーやイベント、テレビなんかもよく取材に来る賑やかな場所だ。

 駅舎から博多口に足を進める、季節は春から初夏にむけて日差しが強くなってきている。
 だが、いい天気だ。
 こんな日に友人と博多駅を悪くないと思えるのは、相手がミハイルだからだろうか?

 しかし、ミハイルのやつ。
 いとこなんて、俺に会わせてどうする気だ?
 まさかとは思うが、いとこと一緒に俺をボコボコにしちまう気か……告白をフッた怨恨で。
 いや、笑えない。

 そうこうしているうちに、博多駅のマスコットといえる『黒田節の像』こと、『母里ぼり太兵衛たへえ』様とご対面。
 俺にはようとわからん存在だが、盃と槍を持つ粋なおっさんだということは理解している。

 『彼』の足元には一人の少年が立っていた。
 迷彩柄のショートパンツに、胸元ザックリ開いたタンクトップ。
 金色の髪を首元で束ねている。
 緩やかな風と共に、左右に垂らした前髪がゆれる。
 地面を寂しそうに見つめている。
 まるで、迷子のように心細い顔をしていた。

「ミハイル」
 俺が声をかけると、彼はエメラルドグリーンの瞳を見開いて、口元を緩める。
 はにかんだ顔がとても愛らしい。
「タクト~☆」
 そげん大声をださんでもよか!

「お前、また早くついたのか?」
 スマホの画面を見れば『9:22』
「え? 遅刻したら悪りぃからさ……ちょっと早く来ちゃった☆」
 来ちゃった☆ じゃねー!
「どれぐらい前からだ?」
「えっと、家を出たのが朝の6時前ぐらい……だから、着いたのは6時半ぐらい☆」
「はぁ!?」
 俺がまだ朝刊配達しているころじゃねーか!

「す、すまない……以後気をつける」
 いや気をつけるって……もう俺ではキャパオーバーだがな。
「いいって☆ 待つの楽しいし」
 え? ストーカーですか? 帰ってもいいですか?
 ちょうど、交番が『黒田節の像』の近くにありますけど?

「ところでミハイル。お前のいとこってのは?」
「あ……あいつ、もうすぐ着くらしいんだ。ちょっと田舎のやつでさ」
「ほう」
「だから……方向音痴なんだ。オレがちょっと迎えにいってくるからさ。タクトはここで待っててくれよ!」
「へ?」
「すぐ呼んでくっから☆」
 ええ!? 俺ってば放置?
 めっさ笑顔で走り去るミハイル。
 いったい、どういうことだってばよ!?


 ~1時間後~

「おっせぇぇぇぇぇ!」
 どんだけ待たせるんだよ、ミハイル!
 聖水か? それとも、お前が方向音痴で迷子になったのか? 夢の国の『ネッキー』の着ぐるみにでも会えたか?

「はぁ……」
 スマホを取り出し、初めて俺からミハイルに電話をかけた。

『トゥルルル……おかけの電話番号は……』

「出ないな」
 数回電話したが、一向に出る気配がない。
「どういうことだ?」

 ピコン! と通知音が鳴る。
 ミハイルからのメールだ。

『タクト、わりぃ! オレ、ねーちゃんの手伝いしないといけなくなった。また今度な☆』 
「はぁぁぁぁぁ!?」
 おめーが呼び出しといて、そりゃねーぜ!
 かっぺムカつく、ぶちムカつく。
 怒りを通り越して、呆れかえっていた。
 ため息をつき、「せっかくだし映画でも見るか」とポジティブな考えにシフトチェンジする。

「アホらし」
 そう捨て台詞を吐いて、その場を立ち去ろうとした、その時だった。

「あ、あの……」

 とてもか細い声だった。
 聞き取りにくく、ひそひそ声のよう。

「え?」
「あ、あの……わたし……」

 その子は、こちらと地面をチラチラと交互に上下して見つめている。
 どうやらかなり緊張? それとも怖がっているような仕草がうかがえる。

「タクトさん……ですよね?」

 目の前には妖精、天使、女神……どの言葉でも表現が足りなぐらいの美人が立っていた。
 胸元に大きなリボンをつけて、フリルのワンピースをまとった女の子。
 カチューシャにも、同系色のリボンがついている。
 美しい金色の髪を、肩から流すようにおろしていた。
 時折、風でフワッと揺れる。
「キャッ」とスカートの裾を手で必死に押さえる姿は、とても女の子らしい仕草だ。
 
「あの……ミーシャちゃんから呼ばれてきました」
「え!?」

「わたしじゃ……ダメですか?」

 脅えた表情が、また男心をくすぐる。
 守ってあげたい、この子を!

「ダメですか?」
 全然!
「いや、ミハイルはどうした?」
「ミーシャちゃんは……おうちのことで帰ったみたいですよ☆」

 初めて見る笑顔だ。
 エメラルドグリーンの瞳がとても美しい。
 フリルのワンピースは可愛らしいが、丈が膝上とけっこうミニだ。
 色白の美脚が大いに楽しめるからして、男の俺からしたらなんてご褒美だ。
 この子を見ているだけで、数時間は待ちぼうけしてもいい。

「は、はじめまして。わ、わたしは古賀 アンナです☆」
「アンナか、認識した。俺は……」

 ていうか、アンナちゃん?
 お前、ミハイルだろ!
 一体どうなってんの?
 まさか死んで転生してきちゃったの?

「俺は新宮 琢人だ。よろしく」
 手を差し出すと、彼女が白く細い手で俺を包み込む。
「はい☆ タクトさん、今日は一日、よろしくお願いします☆」
「了解した」

 って……なに了解しちゃってんの俺!
 ど、どうしよ~ なにこれ~
 
「ま、まかせろ。博多のことなら、どんとこいだ!」
「嬉しいです☆」

 ひょえ~ もう俺は知らん!

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