気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

味噌村 幸太郎

23 ミハイルの趣味


「なあ、タクトってどこに住んでいるんだ?」
「俺か? 真島まじまだ」
「マジか! オレいったことあるぞ!」
「さいでっか……」
 駅のホームで博多行きの下り列車を待つ。

 なぜ俺はこの金髪ハーフで天使のような女の子……だったらよかったな。
 の、男の子。古賀 ミハイルと肩を並べているのだろうか?
 隣りに立っているこの子が、本物の女の子なら赤飯ものだが……。

 プシューッと列車が動きを止める。

 自動ドアが開くと旧式の列車、つまり横並びのイスタイプとわかる。
 こういう席並びは本当に嫌いだ。
 隣りにびっしりと人と人が肩をくっつけ、膝もすり寄せる。
 おまけに反対側の人間ともよく目があう。
 あと、俺が座っているとよく女子は「キモッ!」みたいな顔で座ることをやめ、直立不動を選びがちである。


「タクト? どうしたんだ? 座ろうよ」
 キラキラと輝くエメラルドグリーンの瞳が俺を誘う。
「ああ……」
 半ば言いなりになると、二人して座る。
 ため息をつき、リュックサックを床にドサッと置く。
 やはり肩がこっているな……。
 
 対してミハイルはリュックサックを隣りの席に置き、俺に膝をすり寄せる。
 なにこれ……噂に聞くキャバクラですか!?
 ピッタリとくっついて、スマホを取り出す。

「古賀。お前のスマホケースって……」
「これか? いいだろ☆」
 そう言って「宝物だよ☆」みたいに自慢げに見せるは、クッソ可愛いネズミのキャラだ。
 俗にいう『ネッキー』である。夢の国からきた救世主である。
 ピンクのズボン履いちゃってさ、超かわいいよな。
 こういうのってJKがよくしているヤツだよな。
 なんで男のミハイルがつけているんだ?

「お前、それって……『ネッキー』だろ?」
「うん☆ ネッキー大好きだからな」
 めっさ笑ってはるよ……。
「そ、そうか……」
「タクトはどんなケースしているんだ?」
 よくぞ聞いてくれました!

「フッ……俺はこれだ!」
 取り出すは、ビジネスマン向け、利便性重視の手帳型ケース。
 色は紺色。ザ・シンプル。
「うわっ……だっさ!」
「なんだと!? これは俺がアマゾンで2時間もかけて選んだコスパ良し、機能性良し、しかもカードが10枚も入るんだぞ!」
「だから? デザインがカワイくない」
「……」
 クッ! この天才少年の琢人様が、おバカなミハイルに論破されるとは!

「フン! お前にこの崇高なデザインはわからんのだ!」
「お、怒らなくてもいいじゃん」

 腹を立てた(けっこう)俺はリュックサックからイヤホンを取り出す。
 スマホに接続するとお気に入りのプレイリストを流す。
 疲れた鼓膜にはこの音楽が最高だ。
 『パンプビスケット』『ランキンパーケ』『システムオブアシステム』など……。
 ラウドロックがズラリだ。
 
 日々の怒りが、うっぷんが……彼らのシャウトで俺を癒してくれる。
 重低音こそが聴く『抗うつ剤』だな。

「なあ……クト……」
 肩をチョンチョンと、遠慮がちにつつくミハイル。

「どうした?」
 片耳を外して、ミハイルの言葉を待つ。
「なに聴いているの?」
「フッ……今、聴いているのは最高のバンドの一つ。‟パンプビスケット”だ」
「ふ~ん。なんかすっごくいい顔で聴いているから気になるなぁ……」
 上目遣いをしてはいけません! 
 思わず唇に触れたくなるでしょ!

「ほれ」
 片方のイヤホンを差し出す。
「ありがと☆」
 ニッコリ笑って、大事そうにイヤホンを自身の右耳にそっとつける。
 自然と肩と肩がくっつく。
 ミハイルの髪から甘いシャンプーの香りが漂う。
 思わず俺の心臓さんもバックバク……。
 と、余韻に浸っているのも束の間。

「うわっ!」

 ミハイルはイヤホンを投げ捨てるように放り投げた。
 そのせいで俺のイヤホンまで外れてしまった。
 耳に痛みを感じ、イラつく。

「なにをする!」
「わ、わりぃ……うるさすぎて……」
 申し訳なさそうにモジモジしている。
 聖水なら早くお花を摘みにいきなさい。

「うるさいだと? この崇高な音楽をお前は『うるさい』だと?」
 怒りの琢人がログイン!

「わ、わりぃって……まさかタクトが、こんなうるさい曲聴いているとか思わなくて……」
「おい、また『うるさい』といったな?」
「わりぃってば……」
 少し涙目になってはる。

 ギャラリーが『ざわざわ……』と音を立てる。

「ねぇ、アイツ。ヒドくない?」
「だよね……ドン引き」
 
 声の持ち主を辿れば、三ツ橋高校の制服組のJKね。

「ま、まあ音楽の趣味は人さまざまだからな……」
「う、うん……代わりにオレの曲も聞いてよ☆」
 え? そんなの望んでないから。
「ほら☆ いい曲ばっかり」
 そう言って、イヤホンもなしに音楽を大音量でかける。
 電車の中はおうちじゃないのよ? ミハイルさん。

「ん? この曲って……」
「そうだよ☆ 『デブリ』の『ボニョ』!」
 え~、可愛すぎません、オタクの趣味。

「ボニョ~ ボニョ~ ボンボンな子♪ 真四角なおとこのこ~♪」
 ニコニコ笑いながら大声で歌いだすミハイル。
 電車内では静かにしなさい!

「カワイイよね、あの子。ホモショタかな?」
「マジ? 尊いやん……」

 制服組じゃなくて、腐り組じゃねーか!

「なあ……古賀、なんでそんなカワイイもんばっか好きなんだ?」
「だってカワイイじゃん☆」
 んなことは見ればわかる。

「一応、お前もティーンエイジャーの一人だろ? もっとなんというか……男ならカッコイイものに憧れないか?」
「うーん……オレは小さい頃からねーちゃんと一緒にいて、ねーちゃんとDVDとか見て育ったからな。あんま、そういうのわかんないな」
 シスコンかよ。
 ねー、ちゃんと風呂入ってんの?
 わからんな……ヤンキーという生態は。

 BGM、名作曲家のジョーさん。

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