精霊と共に
黒い会議
━???━
コツ・・・コツ・・・
静寂の中響き渡る誰かの歩く音。その音の主はどこかもわからない闇の中を進んでいた。
コッ・・・
音の主が立ち止まる。その者の目の前には闇に溶け込む黒い扉があった。音の主が扉をゆっくりと開けると、中は外の静寂とは打って変わって賑やかだった。そこには丸い会議机が置いてあり、そこに座る1人が大きな声をあげた。
「お?ルシファーじゃねーか!相変わらずテメーは時間通りに来る真面目ちゃんだなぁ?てかまたそのローブかよ!たまにはそれ脱げ!」
真っ先にしゃべり出したのは、まるで針山のように尖っており、赤色に黒を混ぜたような色の髪。頭からは悪魔の特徴とも言える螺旋状に曲がった黒い角が2本生えている。体は細身ながらもしっかりとした筋肉が引き締まっている。腰の辺りからは細長いしっぽがヘビのように動いている。彼こそが悪魔アシュタルトである。
「・・・そういう君こそ、うるさいところは何も変わらないんだね、アシュタルト」
続いて口を開いたのが肩より少し長いまるで女性のような長さに、青に黒を混ぜたような色をした髪。目は湖のように深い青色で、頭からはアシュタルトと同じく螺旋状の黒い角が2本生えている。体は痩せており、今にも折れそうなうな手足で、腰の辺りからは細長いしっぽが。彼の周りには数匹のクロバエ(ハエの魔物)が飛び回っている。彼も悪魔の1人、ベルゼだ。
「あ?誰がうるさいだ?オレサマはテメーのそのジメジメした性格が嫌いなんだよ!ベルゼ!」
真反対の性格の2人が睨み合っている。
そう、ここにいるのが邪神セルケトスに使える12人の悪魔達なのだ。
「・・・そこまでです。これでは話が進まないでしょう」
そしてこの声の主こそ12の悪魔を統率する悪魔。邪神セルケトスの右腕とも言われる悪魔ルシファーなのだ。その体は灰色のローブに包まれており、顔を見ることが出来ない。
「・・・チッ」
「・・・ふん」
さすがの2人もルシファーに言われて従わざるをえない。それほどの実力がルシファーにはあった。
「てか他のヤツらははどこいったんだよ?まだ6人しかいねーじゃねーか」
そう、今この場の席には6人しか座っていないのだ。
「それについても今から話すとしましょう・・・では始めます。まずは互いの復活を祝いましょう。先に復活したものは既にアークライトに手を出しているようですが・・・それはよいでしょう。他の方々がお見えにならないのは、ご自分の仕事から手が離せないとの事です」
「んだよ、遅刻どころか欠席かよ!おい、いいのかよルシファー!」
「問題はありません。ここでの会話も後に伝えますので。それよりも皆様が気になっているのはヴィネア様のことでは?」
「キヒヒヒヒ!それなら僕知ってるよー!先走って例の銀狼にやられたんでしょー?キヒヒヒヒ!」
奇妙な笑い方をするのは少年のような見た目をした悪魔フォルネウスだった。短髪で、黄色に黒を混ぜたような色をした髪。頭からは少し小さい黒い角が2本生えている。腰からは細く短いしっぽが生えている。それ以外は普通の少年と同じだが、彼の笑みは一種の狂気を感じる。そんな笑みだった。
そして━━例の銀狼。その単語が出た瞬間に場の空気が変わったが、アシュタルトによってその空気はかき消される。
「・・・ハハハハ!!その話本当かよフォルネウス!クックック、あのクソアマ!姿がねぇと思ったらそういうことかよ!先走ってやられるとは悪魔の面汚しだなぁ?」
「フォ、フォ、フォ。やつは我らの中でも力は弱かったからのぉ。あやつの自業自得じゃ。のお?ルシファー殿」
そうルシファーに言うのは老人の悪魔フラウロス。白く長い髭が伸びており、顔は黒いフード付きのマントで隠れて見えないが、フードの奥に見える銀色の目は暗闇の中で鈍く光っている。
「・・・ええ。ヴィネア様の空いた席には後ほど考えるとしましょう。問題は例の銀狼です」
「あらまあ、その狼ちゃんはそんなに強いのかしら?」
その場にとろけるような甘い声が広がる。
「あたし、最近目覚めたばかりなのよねぇ。だからその狼ちゃんのこと知らないのよ」
聞いた者を堕落させるようなその声の主は悪魔グレモリーだ。赤紫色のミディアムヘアに、他の悪魔同様の黒い角。他の悪魔と比べてより細長いしっぽが生えており、男なら魅了されてしまうであろう美しい容姿。絶世の美女と言っても誰も異議を唱えないだろう。だが、彼女の笑みは人を堕とす魔性を秘めていた。
「そうですね、グレモリー様を含めて知らない方もいるでしょうから説明しましょうか。例の銀狼・・・彼は創造神シアの加護を受けた者。人の言う勇者になりうる存在です。つまりそれはセルケトス様に歯向かう最大の敵となるものです」
少しの沈黙が訪れたが、それはすぐに終わる。
「は!シアの加護を受けた者だ?ホントにそんなヤツがいんのかよ?」
「ええ」
「どこからの情報だってんだ!」
「セルケトス様です」
「なっ!?」
まさかセルケトスの名前が出るとは思わなかったのだろう。アシュタルトは何も言えなかった。
「どうやらセルケトス様はその身は動けずとも思念を飛ばすことはできるようです。セルケトス様は私に例の銀狼のことを告げられたのです」
「けっ、気に入らねぇ」
「・・・少しは黙りなよアシュタルト。気に入らないのは共感するけど、あの方の言葉なのは確かなんだから」
「テメーに言われなくてもわかってんだよ。バカにすんな!」
今にも爆発しそうな2人だが、他の4人はやれやれといった表情で眺めている。この場にいる者にとって、このやり取りは日常茶飯事なのだろう。
「お二人共静粛に。例の銀狼に関してはすぐにでも対処したいところですが・・・彼のいるシャングリラは現在強力な結界に守られています。迂闊には手を出せないでしょう」
「あら、それじゃあどうするのかしら?」
「彼は創造神の加護を受けしもの。やがてシャングリラから出るはずです」
「なるほどなぁ?」
アシュタルトがバシッと自分の拳を手のひらで受け止めて立ち上がる。
「そこでそいつをぶち殺しちまえばいいってことだな?」
「・・・いいえ」
「は?なんでだよ」
「・・・彼の元には始祖の精霊がいるようです」
「・・・なんだと?」
再び場の空気が一変する。
「・・・キヒヒ!始祖の精霊!僕達を封印に追いやったアークライトの守護者!・・・許さない。絶対に許さねぇ!!!!」
先程の少年のようなフォルネウスの振る舞いは一切なくなり、代わりに怒りをあらわにした。
「落ち着きなさいフォルネウス。素が出てるわよ?」
「ふー、ふー。・・・キヒヒ!!僕としたことがこんなことで怒っちゃうなんて。キヒヒヒヒ!」
落ち着いたのかフォルネウスは再び少年のような振る舞いに戻っていた。
「ふむ・・・」
代わりに口を開いたのはフラウロスだった。
「始祖の精霊がいるとなるとそう簡単に手は出せませんな。何より我らは封印の影響で弱っておる。数百年前のようにはいきますまい」
「フラウロス様のおっしゃるとおりです。なので当面の動きとしましては皆様の力の回復が最優先となります。それと同時にアークライトへの侵略も各自進めてもらいます。例の銀狼に関しては私の方で策を考えましょう。異論のある方は?」
その場の誰もがルシファーの話に納得していたが、1人だけ手を挙げていた。
「ひとつ、質問させてくれ」
手を挙げたのはアシュタルトだった。
「もしもその銀狼が俺たちの侵略の邪魔になるようなら・・・その時は殺ってもいいんだよなぁ?」
「・・・・・・ええ。もちろんお好きになさっても構いません。ただし、負けるなどという失態はありませんように」
「はっ!誰に言ってやがる。オレサマはアシュタルトサマだぜ?そんなガキに負けるわけねぇだろうが!」
「・・・・・・どうだか」
「ああ?もっかい言ってみろテメー!!」
この2人のやり取りにルシファーは頭を抱えるが、今更どうしようもない事だと言い聞かせる
「それでは皆様、今回はこれで解散と致しましょう。全てはセルケトス様のために」
「「「「「セルケトス様のために」」」」」
いつかもどこかもわからない空間で。復活した悪魔たちは自分たちの主のために動き始める。悪魔たちが座っていたその席は、闇に溶けるように姿を消したのだった。
コツ・・・コツ・・・
静寂の中響き渡る誰かの歩く音。その音の主はどこかもわからない闇の中を進んでいた。
コッ・・・
音の主が立ち止まる。その者の目の前には闇に溶け込む黒い扉があった。音の主が扉をゆっくりと開けると、中は外の静寂とは打って変わって賑やかだった。そこには丸い会議机が置いてあり、そこに座る1人が大きな声をあげた。
「お?ルシファーじゃねーか!相変わらずテメーは時間通りに来る真面目ちゃんだなぁ?てかまたそのローブかよ!たまにはそれ脱げ!」
真っ先にしゃべり出したのは、まるで針山のように尖っており、赤色に黒を混ぜたような色の髪。頭からは悪魔の特徴とも言える螺旋状に曲がった黒い角が2本生えている。体は細身ながらもしっかりとした筋肉が引き締まっている。腰の辺りからは細長いしっぽがヘビのように動いている。彼こそが悪魔アシュタルトである。
「・・・そういう君こそ、うるさいところは何も変わらないんだね、アシュタルト」
続いて口を開いたのが肩より少し長いまるで女性のような長さに、青に黒を混ぜたような色をした髪。目は湖のように深い青色で、頭からはアシュタルトと同じく螺旋状の黒い角が2本生えている。体は痩せており、今にも折れそうなうな手足で、腰の辺りからは細長いしっぽが。彼の周りには数匹のクロバエ(ハエの魔物)が飛び回っている。彼も悪魔の1人、ベルゼだ。
「あ?誰がうるさいだ?オレサマはテメーのそのジメジメした性格が嫌いなんだよ!ベルゼ!」
真反対の性格の2人が睨み合っている。
そう、ここにいるのが邪神セルケトスに使える12人の悪魔達なのだ。
「・・・そこまでです。これでは話が進まないでしょう」
そしてこの声の主こそ12の悪魔を統率する悪魔。邪神セルケトスの右腕とも言われる悪魔ルシファーなのだ。その体は灰色のローブに包まれており、顔を見ることが出来ない。
「・・・チッ」
「・・・ふん」
さすがの2人もルシファーに言われて従わざるをえない。それほどの実力がルシファーにはあった。
「てか他のヤツらははどこいったんだよ?まだ6人しかいねーじゃねーか」
そう、今この場の席には6人しか座っていないのだ。
「それについても今から話すとしましょう・・・では始めます。まずは互いの復活を祝いましょう。先に復活したものは既にアークライトに手を出しているようですが・・・それはよいでしょう。他の方々がお見えにならないのは、ご自分の仕事から手が離せないとの事です」
「んだよ、遅刻どころか欠席かよ!おい、いいのかよルシファー!」
「問題はありません。ここでの会話も後に伝えますので。それよりも皆様が気になっているのはヴィネア様のことでは?」
「キヒヒヒヒ!それなら僕知ってるよー!先走って例の銀狼にやられたんでしょー?キヒヒヒヒ!」
奇妙な笑い方をするのは少年のような見た目をした悪魔フォルネウスだった。短髪で、黄色に黒を混ぜたような色をした髪。頭からは少し小さい黒い角が2本生えている。腰からは細く短いしっぽが生えている。それ以外は普通の少年と同じだが、彼の笑みは一種の狂気を感じる。そんな笑みだった。
そして━━例の銀狼。その単語が出た瞬間に場の空気が変わったが、アシュタルトによってその空気はかき消される。
「・・・ハハハハ!!その話本当かよフォルネウス!クックック、あのクソアマ!姿がねぇと思ったらそういうことかよ!先走ってやられるとは悪魔の面汚しだなぁ?」
「フォ、フォ、フォ。やつは我らの中でも力は弱かったからのぉ。あやつの自業自得じゃ。のお?ルシファー殿」
そうルシファーに言うのは老人の悪魔フラウロス。白く長い髭が伸びており、顔は黒いフード付きのマントで隠れて見えないが、フードの奥に見える銀色の目は暗闇の中で鈍く光っている。
「・・・ええ。ヴィネア様の空いた席には後ほど考えるとしましょう。問題は例の銀狼です」
「あらまあ、その狼ちゃんはそんなに強いのかしら?」
その場にとろけるような甘い声が広がる。
「あたし、最近目覚めたばかりなのよねぇ。だからその狼ちゃんのこと知らないのよ」
聞いた者を堕落させるようなその声の主は悪魔グレモリーだ。赤紫色のミディアムヘアに、他の悪魔同様の黒い角。他の悪魔と比べてより細長いしっぽが生えており、男なら魅了されてしまうであろう美しい容姿。絶世の美女と言っても誰も異議を唱えないだろう。だが、彼女の笑みは人を堕とす魔性を秘めていた。
「そうですね、グレモリー様を含めて知らない方もいるでしょうから説明しましょうか。例の銀狼・・・彼は創造神シアの加護を受けた者。人の言う勇者になりうる存在です。つまりそれはセルケトス様に歯向かう最大の敵となるものです」
少しの沈黙が訪れたが、それはすぐに終わる。
「は!シアの加護を受けた者だ?ホントにそんなヤツがいんのかよ?」
「ええ」
「どこからの情報だってんだ!」
「セルケトス様です」
「なっ!?」
まさかセルケトスの名前が出るとは思わなかったのだろう。アシュタルトは何も言えなかった。
「どうやらセルケトス様はその身は動けずとも思念を飛ばすことはできるようです。セルケトス様は私に例の銀狼のことを告げられたのです」
「けっ、気に入らねぇ」
「・・・少しは黙りなよアシュタルト。気に入らないのは共感するけど、あの方の言葉なのは確かなんだから」
「テメーに言われなくてもわかってんだよ。バカにすんな!」
今にも爆発しそうな2人だが、他の4人はやれやれといった表情で眺めている。この場にいる者にとって、このやり取りは日常茶飯事なのだろう。
「お二人共静粛に。例の銀狼に関してはすぐにでも対処したいところですが・・・彼のいるシャングリラは現在強力な結界に守られています。迂闊には手を出せないでしょう」
「あら、それじゃあどうするのかしら?」
「彼は創造神の加護を受けしもの。やがてシャングリラから出るはずです」
「なるほどなぁ?」
アシュタルトがバシッと自分の拳を手のひらで受け止めて立ち上がる。
「そこでそいつをぶち殺しちまえばいいってことだな?」
「・・・いいえ」
「は?なんでだよ」
「・・・彼の元には始祖の精霊がいるようです」
「・・・なんだと?」
再び場の空気が一変する。
「・・・キヒヒ!始祖の精霊!僕達を封印に追いやったアークライトの守護者!・・・許さない。絶対に許さねぇ!!!!」
先程の少年のようなフォルネウスの振る舞いは一切なくなり、代わりに怒りをあらわにした。
「落ち着きなさいフォルネウス。素が出てるわよ?」
「ふー、ふー。・・・キヒヒ!!僕としたことがこんなことで怒っちゃうなんて。キヒヒヒヒ!」
落ち着いたのかフォルネウスは再び少年のような振る舞いに戻っていた。
「ふむ・・・」
代わりに口を開いたのはフラウロスだった。
「始祖の精霊がいるとなるとそう簡単に手は出せませんな。何より我らは封印の影響で弱っておる。数百年前のようにはいきますまい」
「フラウロス様のおっしゃるとおりです。なので当面の動きとしましては皆様の力の回復が最優先となります。それと同時にアークライトへの侵略も各自進めてもらいます。例の銀狼に関しては私の方で策を考えましょう。異論のある方は?」
その場の誰もがルシファーの話に納得していたが、1人だけ手を挙げていた。
「ひとつ、質問させてくれ」
手を挙げたのはアシュタルトだった。
「もしもその銀狼が俺たちの侵略の邪魔になるようなら・・・その時は殺ってもいいんだよなぁ?」
「・・・・・・ええ。もちろんお好きになさっても構いません。ただし、負けるなどという失態はありませんように」
「はっ!誰に言ってやがる。オレサマはアシュタルトサマだぜ?そんなガキに負けるわけねぇだろうが!」
「・・・・・・どうだか」
「ああ?もっかい言ってみろテメー!!」
この2人のやり取りにルシファーは頭を抱えるが、今更どうしようもない事だと言い聞かせる
「それでは皆様、今回はこれで解散と致しましょう。全てはセルケトス様のために」
「「「「「セルケトス様のために」」」」」
いつかもどこかもわからない空間で。復活した悪魔たちは自分たちの主のために動き始める。悪魔たちが座っていたその席は、闇に溶けるように姿を消したのだった。
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