精霊と共に

キリくん

決着

父さんたちが戦闘態勢をとる。そして父さんがこちらを向いた


「アーサー!その子を連れてみんなと安全な場所に行くんだ!」
「けど・・・!」
「大丈夫だ!それとも父さんたちが信じられないか?」


父さんがこちらを向いてニッと笑う。母さん達の方を見ると「心配するな」と言うように頷いた


「くっ・・・ロット!セリア!行こう!」
「・・・わかった」
「・・・わかったわ。お父様!どうかご無事で!」


本当は父さん達と戦いたい・・・。けどセレナを早く安全な場所に連れて行かないといけない・・・!
俺たちは急いで出口に向かう。


「あたしから簡単に逃げられると思ってるのかい!!」


そう言うとヴィネアが槍に魔力を込めて投げつけてきた。
まずい!今の俺たちにはあの攻撃は防げない!


キンっ!!


思わず目を閉じたが槍はこちらに届く前に父さんが叩き落としていた。


「今のうちだ!早く!」
「ありがとう父さん!」


父さんに感謝して俺たちは出口に向かった






━━アスト━━


よし、全員行ったな。


「人狼風情が・・・調子に乗ってくれるねぇ!」


先程投げた槍がヴィネアの元に戻る。どうやら持ち主のところまで戻るようだ。


「貴様らを消してあの方の命令を遂行する!『デモンフレイム』!!」


ヴィネアの手から黒いヘビのような炎がとぐろを巻いてこちらに向かってきた。


「全員避けろ!!」


俺の指示で3人はいっせいに避ける。しかし、炎のヘビは消えずに1人を━━ノアに迫っていた。


「ノア!」
「━━『アクア』」


ノアの目前まで迫った炎のヘビだったが、ノアの放った水魔法にかき消された。


「なっ!?初級魔法で『デモンフレイム』をかき消しただと!?」
「全く・・・僕を誰だと思ってるんだ?あれぐらいの炎なら初級魔法で十分だよ」
「ははっ、さすが『エルフの賢者』だ」


ノアが『エルフの賢者』と言われてるのはその圧倒的な魔力量だ。そもそも魔法は精霊に自分の魔力を与え、それを対価に様々な現象を引き起こせる。魔力量が多ければ多いほどその対価も大きくなる。ノアはその魔力量が人間はもちろん、エルフの中でも群を抜いている。その結果があの『アクア』ということだ。


「なるほどねぇ・・・その魔力量・・・それが貴様の異名の所以かい」
「そういうこと。僕はあなたのお目にかかったかな?初級魔法に負けた悪魔様?」
「━━━━━━っ!!!!」


明らかな挑発だ。あいつ相当怒ってるな。


「・・・フ、ふふははは!!決めた・・・決めたぞ!貴様たちは死よりも恐ろしい痛みを味あわせて殺してや━━━」
「━━させるか」


喋りに夢中になっている隙に背後から愛用の剣を振るう。だが、そう甘いわけでもなく、槍で簡単に止められてしまうが━━━


「リース!今だ!」
「『ライトスピア!』」


俺の合図でリースが光魔法を放つ。


「しまっ━━!!」


光の槍は目にも止まらぬ速さでヴィネアの肩を貫いた。


「くっ・・・がはっ!!」
「光魔法は悪魔には毒だと聞いた。お前にはさぞ効いたはずだ」
「・・・・・・『ブラックインパクト』」
「ぐぁ!!??」
「きゃあ!!!」


突然黒い衝撃波が放たれ俺たちは吹き飛ばされた。


「・・・舐めるなよ亜人。我は悪魔。貴様ら如きに遅れを摂るようなものでは無い」


さっきまでと雰囲気が違う。あれが本性ということか。


「キール!もちろんあれを持ってきてるよな?」
「もちろんですよ!まさかあれが役に立つ日が来るとは思いませんでした!」


あんなにウキウキしているキールは久しぶりだな・・・。そんなに試したかったのか?


「キールは準備だ!俺たちが隙を作る!2人とも、いいな?」
「ええ!」
「わかったよ」


まずは俺が先陣を切る!


「はぁぁぁ!!」
「フンっ!」


剣と槍がぶつかり鈍い音が響き渡る。押し負けないように足に体重を乗せる。


「王国最強の騎士ってのはこの程度かい?」
「人狼族を舐めてもらっては困る・・・な!!」
「まさか押し負けると━━━がっ!!」


無理やり押し返し、顎にサマーソルトを食らわせる。悪魔の体の構造は知らないが、俺たちと同じなら暫く動けないはずだ。


「リース!ノア!」
「『アクアカッター』!!」


2人の発動した魔法は水の刃となってヴィネアの片翼と尻尾を切り裂いた。そこに追撃で横腹に回し蹴りを叩き込む。


「ぎゃあああ!!!!」


ヴィネアは勢いよく吹き飛び、壁に打ち付けられて動かなくなる。


「よし!キール!行けるか!?」
「準備完了です!」


キールを見ると長い筒状のものを持っていた。


「魔力を込めるのに少し時間がいりますが、悪魔には効果的のはずです!対悪魔用魔道具『破魔砲』!発射!!」


筒に光が集まり、そこから光の槍がヴィネアに向かって発射された。


「こ、これは!!があああああ!!!!!」


光はヴィネアを飲み込み、姿が見えなくなった。


「やったなキール!お前のおかげだ!」
「当たり前ですよ!この破魔砲は聖水で清められ、神聖国の神官たちの祈りが込められた魔道具です!聖なる力が増幅された光の槍は神に歯向かう悪魔には効果抜群です・・・よ・・・?」
「キール?・・・・・・な!?」


キールの顔が蒼白に染まる。キールが何を見ているのかと振り向くとそこには消えたはずのヴィネアが立っていた。


「ククククっ・・・。やってくれたねぇ。聞いてた以上の力だよ。まさかあたしがこんなに追い詰められるとはね・・・」


驚いていると、ノアが走り出した。


「ノア!」
「やつは満身創痍だ!すぐにとどめを━━」
「あたしからのプレゼントだよ『ブラックエクスプロージョン』!!」
「!!!?みんな!全力で防御するんだ!」


俺の指示で全員が魔力の壁を展開する。
その瞬間ヴィネアを中心に大爆発が起きた。
闘技場を飲み込むように爆発が広がっていく。


「くっ・・・これは・・・もう・・・耐えられない・・・ぐあああ!!」


爆発に魔力壁が耐えきれず、吹き飛ばされる。






爆発が収まった。瓦礫が体に乗っているが生きているようだ。瓦礫をどけるが、体にかなりダメージを受けて満足に動かせない。何とか立ち上がり、周りを見渡す。闘技場は見る影もない状態になっており、地面がへこんでいた。


「これは・・・。そうだ、リース!ノア!キール!どこだ!」
「イタタタ・・・。私はここよ・・・。あなた、大丈夫?」
「リース!ああ、大丈夫だ」


リースもかなりのダメージを受けたようだが、何とか無事のようだ。


「・・・まさかこんな魔法があったとはね」
「・・・ええ、迂闊でした」
「ノア!キール!無事だったか」


2人も何とか無事のようだ。


「ところであいつはどこに?」
「まさか自爆だったのか?」


周りにはヴィネアの気配はない。まさか本当に・・・


「あーはっはっは!!貴様ら生きていたのかい!しぶといねぇ」
「ヴィネア!!」


声か頭上から響き渡る。空を見ると、ワイバーンに乗ったヴィネアがいた。


「本当なら全員始末したいけどあたしも限界でねぇ。申し訳ないけど今回は撤退させてもらうよ」
「『ウインドブラスト』!!」


ノアが魔法を放つが、避けられる。


「危ない危ない。流石王様だねぇ。まだ動けるのかい?」
「お前は僕の国に手を出した。逃すわけにはいかない!」
「けど体は言うことをきかないようだねぇ。それじゃああたしは止められないよ」
「くっ・・・」


まずい、このままでは逃げられる・・・!


「アハハハハハ!それでは一旦退くとしよ━━━━」
「逃がすかァァァ!!!!」
「なっ!?」


その声は学院の方から聞こえてきた。その声は黒い竜の頭に乗ったアーサーだった。






━━数十分前


━━アーサー━━


父さん達と別れた俺たちは急いで学院に向かっていた。
闘技場からは轟音が鳴り響いていた。


「父さん・・・母さん・・・ノアさん・・・先生・・・」


4人が気になり、つい振り向いてしまう。


「アーサー!今は振り向かないで!」
「けど・・・」
「お父様達なら大丈夫よ!だってあの人達は最強のパーティなんだから!」


さ、最強のパーティ?よく分からないが、そうだよな。俺が今することはセレナを安全な場所に連れていくことだ。


「・・・そうだよな。よし、急ごう!」




学院と闘技場は同じ敷地にあるとはいえ、それなりに距離がある。学院にたどり着くまでに時間がかかった。


「━━アーサー?それにセリアにロットか!」


学院に着くとクルト先生が待っていた。


「先生!?どうしてここに?」
「俺はお前たちの担任だぞ?生徒の帰りを待ってたらおかしいか?」
「先生・・・」
「そんなことより、セレナはどうしたんだ!?」
「あ!先生、セレナを保健室で安静にさせてください」


セレナを先生に預ける。


「あ、ああ、わかった・・・ってお前たちはどうするんだ?」
「俺はすぐに向こうに戻ります」


俺がそう言うとセリアが驚いた。


「何言ってるのアーサー!今戻ったら危ないわよ!」
「けど、父さん達を助けないと!」
「けど・・・!」
「それに・・・俺は大切な人を失いたくないんだ・・・」
「・・・・・・」


また・・・あの日の記憶が蘇る。


━━━ちゃん


「くっ・・・」


もう二度とあんな事になりたくない。


「セリア、アーサーはこうなったら止まらないよ」
「・・・・・・わかったわ。それなら私も・・・!」
「だめだ!セリアはセレナのそばにいてくれ」
「どうして・・・!」
「お願いだ・・・」


セリアは「はぁ・・・」と溜息をつき、困ったような顔をしている。


「わかった・・・。ならロットは連れて行って!ロットは何を言われても行くでしょう?」
「ああ、そのつもりだ」
「やっぱりね・・・。そういうわけよアーサー。あなたを一人で行かせないわ」
「ロット・・・本当に来るのか?」
「お前一人だと危なっかしいからな」
「お前が言うのか・・・」


・・・これはもう説得できないな。


「・・・わかった。先生、セリア、セレナを頼みます」
「おいアーサー!これ以上お前を危険な目には・・・!」
「先生!セレナを保健室に!」
「お、おいちょっと待て!」


セリアは先生を無理やり押していき、振り向いてウィンクをした。


「ありがとうセリア。よし、行くぞロット!」
「了解だ」


その時闘技場が爆発した。


「うお・・・!!」
「・・・なんだ!?」


爆発の余波がここまで届き、飛ばされる。


「と、闘技場が・・・」
「アーサーまずいよ、4人とも満足に動けないみたい・・・。このままだとヴィネアに逃げられる・・・」
「そんな・・・どうすればいいんだ・・・」
「どうするんだアーサー」


今から走っても間に合うかどうか・・・。


「そうだ!ロット!今ここですぐに竜になれるか!?」
「あ、ああ。そこまで時間はかからないはずだ」
「頼む!俺を乗せて闘技場まで飛んでくれ!」
「・・・わかった少し離れろ」


俺とサラはロットから距離をとる。


「ぐ・・・グォォォォオオオ!!!」


あの時と同じだ。ロットの体から鱗が、背中からは大きな翼が生える。角は長く伸び、腰からは尻尾が伸び、マズルが形成され、目は瞳が縦に割れていく。


『ふう。よし、行くぞ。乗れ』


俺が乗れるように頭を下げてくれる。俺はロットの頭に飛び乗った。すぐにロットが翼を動かす。ロットが羽ばたくと土埃が舞う。気がつくとあっという間にさっきまでの闘技場の高さと同じぐらいの所を飛んでいた。


「おお・・・」


そんな場合じゃないのはわかっているが、初めて空を飛んで興奮していた。


『大丈夫か?』
「ああ、大丈夫だ」
『よしなら行くぞ。風が激しいから魔力の壁を作っておけ』
「わかった」


言われた通りに魔力で壁を作る。


「よし、大丈夫だ。頼む!」
『おう!』


その瞬間すごいスピードで闘技場の方へ飛び立った。風が魔力に遮られているが、とてつもない勢いの風が来ているのがわかる。


『アーサー大丈夫か!』
「な、何とか・・・」
『見えてきたぞ!』


崩れた闘技場跡には傷だらけの父さん達がいた。ヴィネアはワイバーンに乗って逃げようとしているのか?


「ロット!」
『わかってる!』


さらにスピードを上げて一気に接近する。


「━━それでは一旦退くとしよう!」


やはり逃げる気か!


「逃がすかァァァ!!!!」
「なっ!?ワイバーン!早くここから離れるんだよ!!」


慌てたヴィネアが急いで逃げようとワイバーンに命じている。


「逃げられる!ロット!なにか足止めできないか!?」
『任せろ!『アイスブレス』!!』


その時ロットの口から氷のブレスが吐き出された。ブレスはワイバーンを捕え、翼を凍りつかせた。


「お、おい!ちゃんと飛びな!おい!あああああ!!!」


バランスを崩し、そのまま落下した。
今ならいける!
ロットから飛び降りて急降下し、ヴィネアに剣を向ける。


「頼むぞサラ!」
「任せて!」
「火の大精霊よ!我が剣に大いなる炎の力を!『ブレイジングソード』!!!」


空中で動けないヴィネアに炎の剣を突き刺した。


「ぎゃあああああああああ!!!!!!!」


悲鳴とともに刺した部分から体が燃え上がり、そのまま地上に落下した。
落下した時にはもうヴィネアは虫の息だった。


「く、クク・・・・・・がはっ!・・・・・・あたしを倒しても悪魔は滅びないよ。あたしの同胞が貴様たちを殺しにくるだろうからねぇ」
「それがどうした!誰が来ようと関係ない!俺の大切な人達に手を出そうとするなら誰だろうと容赦はしない!」
「はっ、せいぜい足掻くんだねぇ。あははははは!!」


ヴィネアは燃え尽き、灰となって消えた。
それを見て安心したのか、俺は気を失い、その場に倒れた。

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