精霊と共に

キリくん

悪魔

次の日の朝。目が覚めた俺は、体をほぐすために学院の周りを軽く走ろうと外に出た。外はまだ少し暗く、ソルが少しづつ昇り始めていた。


「アーサー、体調はどう?おかしいところはない?」
「問題ないよ。むしろ体が軽いぐらいだ」
「そっか。よかったー」


サラ・・・こうしてみるとただの少女にしか見えないが、正直彼女のことはわからないことが多い。なぜ俺の前世を知っているのか、どうして俺に力を貸してくれるのか。何度も聞いてみたが、いつもはぐらかされてしまう。けど、サラはいつも俺を助けてくれるし、いつかは話してくれると言ってくれた。俺はそれを信じようと思う。それに・・・彼女を見ているとあいつの事を時々━━━


「━━ーサー、アーサー!聞こえてる?」
「え?あ、ああ、ごめん。考え事してた」
「もう、今日は大事な日なんだから、ぼーっとしてたらダメだよ!」
「わかってるよ。だからもし何かあったらよろしく頼むよ」
「まっかせなさい!この辺り一帯吹っ飛ばしてあげる!」
「冗談でもそういうことを言わない!」


そんな会話をしながら入口に戻ると学院長が立っていた。


「おはようございます、アーサー君。体の調子はどうですか?」
「おかげさまで、すっかり良くなりました」
「それは良かったです。それはそうとアーサー君。昨日の件なのですが」


セレナの調査についてか。


「調べたところ、特に目立ったことありませんでした」
「そう・・・ですか」
「ただ、彼女を見た街の人はいつもと何かが違うような気がしたと言っていました」


でもそれだけでは情報が少ない。やはり直接・・・。


「念の為、ノアに連絡を入れました。すぐに返事はこないとは思いますが・・・」
「でもこんな不確定なことをノアさんに言うのは・・・」
「いえいえ、ノアに君から気になることを聞いたら教えてくれと頼まれているのですよ」


え、何それ?あの人そんなこと頼んでいたのか?


「とにかく、今の私にできるのはここまでです。あとは君次第です」
「・・・はい。ありがとうございます先生」
「ですが、もし何かあれば私も手を貸します。ですから、この決勝を楽しんでください」
「はい!頑張ります!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


そして・・・ついにその時が来た。


「皆様お待たせ致しました!!シャングリラ大会決勝戦!開・幕です!!」


━━━うぉぉぉぉおおお!!!!!


闘技場は昨日とは比べ物にならないほどヒートアップしている。


「よし!準備はいいかサラ?何か感じたら教えてくれ」
「うん!任せて!」


そして俺は闘技場に足を踏み入れた。正面からはセレナが同じように歩いてくる。


「それでは皆様、決勝戦に勝ち進んだ二人の軽い紹介をしましょう!まずはアーサー選手です!」


また紹介入れるのかよ・・・。


「アーサー選手はご存知の通りあのフェンリル家のご子息であり、今大会初参加のルーキー!前大会優勝者のセリア様を打ち破り、見事!決勝戦に進出しました!」


とはいえ流石プロ。やる時はちゃんとやるんだな。


「続いてセレナ選手の紹介です!セレナ選手はどうやら平民の生まれのようで、アーサー選手とはクラスメイトのようです!竜人族の強敵ロット選手を破り、決勝進出です!」


ひととおり紹介が終わり、俺はセレナに話しかけてみた。


「・・・よう。すごいな、ロットを倒すなんて」
「えへへ、そうかな?まぐれだと思うよ。自分でも驚いたし。アーサー君だってセリアを倒したじゃん」
「まぁな。ここまで来たんだ。手加減しないからな」
「手加減なんてしたら怒るよ!お互いに悔いのないようにね?」


いつもと変わらないないセレナだ。なのにこの心臓を掴まれているような感覚はなんだ?


「それではそろそろ始めたいと思います!両選手の準備はよろしいでしょうか?」


そこで俺たちは武器を構える。俺は剣を、セレナはナイフを構える。


「両者ともに準備完了のようです!それではカウントしましょう!3・・・2・・・1・・・試合開始!!!」
「先手必勝・・・!」


開始と同時にセレナに迫る。剣を上段に構えて振り下ろす。が・・・


「おっとっと・・・。危ない危ない」
「いつの間に・・・!?」


セレナを捉えていたはずの剣は空を切っていた。


「今度はこっちが行くよー!『フレイムブラスト!』」
「まずい・・・!」


急いで後ろに飛び、距離をとると、さっきまで立っていた場所で爆発が起きる。


「危なかった・・・。ん?セレナはどこに・・・上か!?」
「そーれ!!」
「どわ!?」


上からセレナがナイフを構えながら落下してきた。避けられないと判断して剣で受け止める。


「兎族特有の跳躍力か!」
「不意打ち成功かと思ったんだけどなーっと」


押し切れないと判断したのか、セレナは後ろに下がった。


「(どうだサラ?なにか感じるか?)」
「・・・・・・」
「(サラ!?)」
「・・・!ご、ごめん。確証はないけど、この感覚には覚えがあるような気がする」
「(知ってるのか!?)」
「うん・・・。でも実際に確かめてみないと・・・」


・・・こうなったら直接問い質してみるか。


「なあセレナ。一つ聞かせてくれ」
「何ー?」
「・・・・・・お前本当にセレナか?」


一瞬、セレナが固まった。


「何言ってるのアーサー君。私はセレナだよ」
「ならお前から出ている気持ち悪い感覚はなんだ?セレナはそんな気配を出したりしない!」
「何言ってるの?私はそんなに・・・・・ゔ!!?」


俺たちの会話に会場がざわついている。すると、セレナは突然頭を抱えて苦しみ出した。


「うっ、ああああああ!!!」
「セレナ!!?」


膝を着いて倒れたセレナは俺に向かって手を伸ばす。


「アー・・・サー・・くん・・・、おね・・がい・・・、たすけ・・・・て・・・」


セレナの伸ばした手を掴もうとしたが・・・


「アーサー!!セレナから離れて!!」


セレナの体から突然溢れ出した黒いオーラのようなものに弾かれてしまった。


「アーサー大丈夫!?」
「ぐっ・・・。大丈夫・・・なんだこれは・・・」


突然の出来事に観客席は大騒ぎになっている。
黒いオーラはだんだんと収まっていき、セレナの姿が見える。だが、そこにいたのはセレナであって、セレナではなかった。


「・・・クク。アハハハハハハハ!!!!!流石はあの方が危険視するだけはあるねぇ。気配だけでバレるとは思わなかったよ」


姿は普段のセレナと変わりない。だが、その体からは邪悪な気配が溢れ出している。


「誰だお前は!セレナに何をした!!」
「あたしかい?あたしはヴィネア。我らが偉大なる神に使える悪魔の一人だよ」


悪魔だと?確か悪魔は神話の時代に精霊たちと争った存在のはず。この世界を創造した神と始祖の精霊たちによって滅ぼされたはずだ。


「どういうことだサラ!悪魔たちは滅ばしたんじゃ・・・」
「・・・ううん。違うの滅ぼせなかったの。だから私たちは悪魔を封印した。誰にも知られない場所に」
「ならどうして・・・」
「わからないよ・・・。誰かが封印を解いたのかも・・・」


サラも詳しいことは分からないようだ。ひとつ分かるとすればこいつはそうとうヤバいやつということだけ。この場にいるだけで汗が止まらない。


「アハハハハハ!始祖の精霊様も驚いてるみたいだねぇ。ああ、そうそう。この娘なら安心しな。意識は眠ってるだけだからねぇ」
「どういうことだ!」
「簡単な話さ。あたしはお前に近づくためにここに来たのさ。そしたらたまたまこの娘が目についてねぇ。頭の中を覗いたらお前の友達だってわかったから体に潜り込んだのさ。後はこの大会に参加するように意識を変えたのさ」
「そんな・・・。なら俺に近づいたのはなぜだ!」
「それはもちろんお前を殺すためさ」


俺を殺すだと!?一体何の目的で・・・


「本当はここでお前のことを調べてからやるつもりだったんだけどねぇ。バレたなら仕方ない。ここにいる亜人共を全員皆殺しにするとしようかねぇ」
「なっ!?」
「『プリズンバリア』」


聞いた事のない魔法名とともに黒い光が天に昇ると、闘技場の真上で弾けて黒い壁のようなものがドーム状に広がっていく。


「何をした!」
「この学院の周りに結界を張っただけさ。逃げられたら困るからねぇ。中からも外からも出入りすることは出来ないのさ。まああの厄介な王と人狼族の騎士と魔法使いはいないのは分かりきってることだけどねぇ」


こいつ・・・ノアさんと父さん達がいないことを知った上でここに来たのか。


「さあ、これで舞台は整ったねぇ。殺戮の始まりだよ!」


ヴィネアはナイフを捨てると、何も無い空間から黒い槍が出現した。それを持ち、構える
俺も剣を持ち直し構える。


「おや?それで戦う気かい?それじゃあ私を切ることは出来ないよ。本物の剣を取りに行ったらどうだい?最もこの娘の体を切れるならの話だけどねぇ」


やつの言う通りだが、今取りに行けば観客達が殺される。俺があいつを抑えないと・・・


「ダメですアーサー君!!セレナ君に取り憑いているのが本物の悪魔なら危険すぎます!早く逃げてください!!」


学院長が初めて見る焦った表情で叫ぶ。


「先生!俺がここで逃げたらここにいる全員が殺されるだけです!!だから早くみんなをここから避難させてください!」
「しかし・・・」
「早く!!」
「・・・わかりました」


既に何人かは逃げているが、そこから次々に闘技場から避難していった。


「おやおや、いいのかい?ここにいる全員で挑めばあたしに勝てたかもしれないよ?」
「みんなを危険にさらすわけにはいかない!」
「アハハハ!!本当に聞いてた通りの男だねぇ。後悔しても遅いよ?」
「後悔なんてするものか!行くぞサラ!」
「うん!」


剣を片手に俺たちはヴィネアに向かって走り出した。

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