精霊と共に
平和な日常と謎の影
「ふぁぁ・・・、おはようアーサー」
「ああ、おはよう。随分寝てたな」
「まぁねぇ・・・」
サラが眠そうに欠伸をしている。
あれからもう一年近くが経とうとしている。俺も12歳になり、楽しい学院生活を送っている。だが、少し気がかりなことがある。まだ父さん達が帰ってこないのだ。一年は帰らないと聞いていたが、やはり不安になる。早く帰ってきて欲しいものだ。
「アーサー、メシ行くぞ」
「おう」
あれからというもの、ロットはよく喋るようになった。というか人を避けていただけで、本当はかなり話したがりな性格らしい。
食堂に着くと、朝早くにもかかわらず多くの生徒で賑わっていた。俺達も一通り食べ物を取ってどこに座ろうかと見渡すと、少し離れた所でこちらに手を振っている人物がいた。
「2人とも〜!こっちこっち!」
手を振っているのはセリアだった。前は周りからの視線が痛かったが、今ではもうそんなことはない。
ロットと席につく。
「うわぁ・・・。ロット、たまには野菜も食べたら?お肉しかないじゃない」
ロットのトレイを見ると、肉、肉、肉。まさに肉の絨毯だった。
「ははっ、確かに。肉しかないな」
「野菜を食べないと病気になるわよ?」
「俺は体は丈夫だからいいんだよ。それに肉を食わないと筋肉がつかないぞ?」
そう言いながら肉にかぶりつくロット。傍から見ているとものすごく美味そうだ。
「アーサーを見なさいよ。バランスの良いメニューよ」
「あはは・・・そうかな?」
・・・前世で偏った食事して体壊したからなんて言えない。正直狼の本能なのか、肉を見るとかぶりつきたくなる。今もほら、ロットの皿に肉汁たっぷりの肉が・・・
「アーサー?どうしたの?」
「ふぇ!?い、いや、何でもない・・・」
あ、危なかった・・・。気を抜くとすぐこうなる。気をつけないと。
「おいサラ、この肉もうちょっと焼いてくれ」
「あのねぇ、精霊を肉焼き機にしないでくれる?・・・・・・『フレイム』」
と、言いつつ焼いてあげるサラだった。
ロットにもサラが見えるようにしてもらったのだが、見えるようになるといつもロットがサラに肉を焼かせている。自分で焼けばいいのに。
「ところでさ。父さん達からの連絡とかないのか?」
「・・・ないわね。でも大丈夫よ。あの人達は強いし。あなたがよく分かってるんじゃない?」
「うーん、そう言われてもな。俺、父さん達が戦っているところはあんまり見た事ないからな。稽古の時ぐらいだし」
「心配症ね。時期に帰ってくるわよ」
「そうだな・・・父さん達は人間の国に調査に言ってるんだっけ?」
「うん。なにか反応があったらしいわ」
「そうか・・・。でも一体何だろう・・・?ロットはどう思う?」
「んが?にやぁんふぁ?」
思わずずっこけそうになった。なぜなら肉にかぶりつきながらこっちを向いてきたのだから
「いや・・・やっぱ食べてていいぞ」
「?ほうか」
首を傾げたロットだったがまた肉にかぶりつき始めた。
「ま、私たちが気にしてても仕方ないわ。帰りを待ちましょう」
「そうだな」
「あ、サラ。私のお肉も焼いてくれない?」
「・・・・・・はぁ」
それでも焼くのか。
朝食を食べて俺達は教室に戻り、授業を受けていた。俺たちの前で猫人族のクルト先生が教鞭をとっている。ちなみに俺の席の右にはセリアがいるが・・・
「アーサー、ここどういう意味だ?」
「そこは・・・」
左にはロットが座っている。元々ロットは隣のクラスだったのだが、ロットが俺の近くで勉強したいと言うため、学院長に無理を言って移動させてもらったのだ。
ちなみにロットは意外と勉強できるタイプだ。正直そうは見えなかった。
「・・・と、言うわけで。はるか昔にアークライトに攻めてきた悪魔たちを倒すためにアークライトを見守る始祖の精霊たちが立ち向かったというわけだ」
今、この世界アークライトの神話の話をしているのだが、俺の後ろにその始祖の精霊がいるんだよな
「なるほどね・・・(サラ。どうなんだ?実際のところ)」
「うーん。大体あってる・・・かな」
「(そうなの!?じゃあ本当に悪魔っていたのね!)」
「(強い奴らだったのか?)」
ふたりの質問攻めがサラを襲う。
「そこ!こそこそ話さない!」
「「「す、すみません・・・」」」
さすが、犬人族のクルト先生・・・。聴力がすごい。
「3人とも静かにね。・・・実はあまり詳しくは言えないんだ。ごめんね」
「(ふーん。まぁ言えないなら仕方ないな)」
「(ちょっと詳しく聞きたかったなー)」
「(強いやつなら戦いたいぞ)」
ふむ。この世界は悪魔もいたのか。まぁ魔物とかもいるしおかしくはないと思うが。
「よし、今日はここまで。お疲れ様!」
「うぅーん!終わったー!」
「ふぅ。疲れたわねー」
「アーサー、今日もやるだろ?」
「ん、そうだな。そろそろ近いしな」
「やる・・・?ああ、大会ね?私も行っていい?」
「おう、じゃあ行こうか」
そう。もうすぐ去年参加できなかった大会が始まるのだ。今年はロットも出る気みたいだから一緒にトレーニングしているのだ。
「あ!セリア達どこか行くの?」
「あ、セレナ」
話しかけてきたのはクラスメイトのセレナだった。
「ちょっと大会のトレーニングをね」
「そっかー、もうすぐだもんねー。去年はセリアが優勝だったよねー」
「まぁね」
そう。去年の優勝者はなんとセリアだったのだ。それを聞いた時は驚いたものだ。
「セレナは参加しないのか?」
「え?私?私はいいよー。3人が出るって聞いただけで無理だって思ったもん」
「そうか?セレナのナイフさばきはなかなかのものだと思うけどな」
前にセレナがナイフを振るう姿を見たことがあるが、まるで踊るようにナイフを振るうのでおもわず見とれたものだ。
「とにかく、私は応援するから頑張ってね」
「ありがとう。頑張るわね!」
「それじゃあ私買い物に行かないといけないから。またねー」
「また明日ー!」
笑顔で手を振りながら走っていった。
「そろそろ行こうぜー」
「悪い悪い。行こうか」
「えぇ」
寮に戻った俺たちは、寮のそばにある広場にいた。ここは生徒が訓練することができる場所になっている。いつもは何人かいるが、今日は珍しく誰もいない。
「それで?いつもどんなことをしてるの?」
「そうだな・・・。その日によって変えてるけどまずは基本的なところからやるか」
「なら私もやろうかしら」
「わかった。まず初めは・・・」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「・・・ねぇ」
「ん?どうした?」
「いつまで走るのよー!!」
セリアがものすごい形相で後ろを走っていた。それもそうかもしれない。今俺たちは寮の裏手にある小さな山道を走っている。俺やロットはそこまで苦ではないのだが、女の子には辛い道だろう。
「なんだ?もう限界か?」
「うぅぅ・・・。そんなわけないでしょ!まだまだァァ!」
ロットに軽く煽られて維持になるセリア。まぁあれだけ元気なら大丈夫か。
しばらくして寮に戻ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ。も、もう限界・・・」
「オイオイ、まだ腕立てとかもあるぞ?」
「うるさいわね!私はあなたたちみたいな体力バカじゃないのよ!」
「まぁまぁ。セリアは今日が初めてなんだぞ?それでここまで走りきるのはすごいじゃないか」
「・・・まぁそうだな」
未だに女子のことがよく分からないみたいだ。それがロットらしいとも思うが。
「それじゃあ今日は短めにするか。少し休憩したら始めよう」
「わ、私・・・水飲んでくる・・・」
そう言ってフラフラと寮の方へ歩いていった。
「俺は腕立てしとくぞ」
「いや、休めよ」
お前は休むという概念がないのか・・・
思わず突っ込んでしまった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数分後、セリアは生き返ったかのような顔をして戻ってきた。ちなみにロットは逆立ちしながら腕立てをしていた。
「お待たせー・・・ってロットは何してるのよ」
「ん?これか?逆立ちしながら腕立てしてるんだよ。見たらわかるだろ?」
「それはわかるけど、逆立ちする意味あるの?」
「なんでも『ばらんすかんかく?』を鍛えることもできるってアーサーに聞いたんだ」
「なにそれ?アーサーが教えたの?」
「あ、あぁ・・・。本とか読んで知ったんだ」
「ふーん。よくわかんないけど鍛えた方がいいのね」
別に嘘じゃないぞ?前世でそんな本があったから見ただけだ。ちょっとそういうのに興味があった時期でもあったし・・・。
「よーし!アーサー、次は何するの?」
「ん?そうだな・・・サラ!」
「はいはいー。呼んだ?」
「ああ、この前の訓練のやつ頼めるか?」
「あれね、わかった!」
そう言うとサラは少し離れた所に移動した。
「よーし!じゃあやるよー!この前のやつより数増やすからね!」
「え?え?え?何?何するの?」
「構えろよセリア。あいつ見た目に反して鬼畜だぞ・・・」
「え?どういう・・・」
「いっくよー!『フレイムショット連続発射!』」
サラの前に大量の魔法陣が浮かび上がる。そして・・・
ドドドドドド!!!!!!
「な・・・何よこれー!!」
魔法陣からとてつもない量の炎の弾が発射された。
「来るぞ!弾を打ち消し続けるんだ!」
「えぇ!?嘘でしょ!?・・・やるしかないわね」
「『アクアショット!』」
これは敵の魔法に対応するための反射神経を鍛える訓練だ。最初はロットと交代でやっていたのだが、突然サラが「私がやってあげるわ!」って言い出したからやらせてみたらノリノリになってしまい、ついには鬼畜レベルの難易度になってしまったのだ。
「そらそらそらー!どんどん行くよー!」
「ねぇ!ちょっと!多すぎない!?辛いんだけど!」
「話す余裕があるならまだ大丈夫だろ?ロットを見てみろよ」
俺の横には魔法ではなく剣で炎の弾を切っていた。
「・・・・・・っ」
少し辛そうだが、ロットの動きは止まらない。
「あれ?ロットなかなか頑張るね。なら数増やしちゃおうかなぁ・・・よっと」
「なっ・・・!?ちょっ・・・」
やはりサラは鬼畜だった。弾の数が増えてロットの周りだけ地獄絵図になっている。
「どわああああああ!!!あっつ!熱い!」
ついにロットの体制が崩れ始めた。本人は火には強いから大丈夫とは言っていたが・・・
「あっつ!止めろとめろぉ!!」
「あれ?もう限界?残念」
サラは残念そうにロットへの攻撃を止めた。
「ぜェ、ぜェ・・・。ま、魔物だ・・・。精霊の皮を被った魔物がいる・・・」
「むぅ!失礼だよ!もう1発くらえ!」
サラがロットに特大の一撃を放つ。
「どわあぁ!あっぶねぇな!何すんだよ!」
「変な事言うのが悪いんだよ!」
「なんだとぉ!」
「やる気?」
火花がバチバチしているのが目に見える・・・。
「はい、そこまで!」
「なん・・・!ちっ・・・」
「ふん!」
全く、この2人は・・・
「いつもこんな感じなの?」
「そうなんだよ。でも仲が悪い訳じゃないんだよね」
「それは何となくわかるわね。よく話してるし」
「さて、今日はここまでにしようか。たいー・・・じゃなかった。ソルも沈みそうだし」
「そうね、今日は疲れたわ。それじゃ、また明日」
「ああ、また明日」
手を振りながら寮に戻っていった。さて・・・
「そもそもあなたは・・・!」
「お前だって・・・!」
とりあえずこの2人をなだめるか。
━━???━━
ソルが沈みかけている時、シャングリラ上空に謎の影が現れた。
「ここがシャングリラ・・・。ようやくたどり着いたねぇ」
時間はかかったけどようやく成功した。落ち着け・・・あの方の命令だ。失敗はできない。
「さて、どうやって潜り込むかねぇ」
亜人共に気づかれないようにしなければ行けないからねぇ。
「ん?あれは・・・」
その視線の先には兎族の少女が暗い路地をカゴを手に歩いているのを捉えていた。
「あの女・・・ほう、使えそうだねぇ」
影はとてつもない速さで急降下すると少女の前に降り立つ。
「あ、あなただれ!」
「悪いけどあんたの体使わせてもらうねぇ」
「な、何を・・・。きゃあああ!!」
少女の悲鳴は誰にも届かなかった。
「・・・う、うーん、あれ?私何してたんだっけ?ってもうこんな時間!?早く戻らないと!」
少女は何事も無かったかのように走り去っていった。自分の異変に気づかないまま・・・。
(ふふふ。上手くいったねぇ。待ってなよ、銀髪の人狼族)
「ああ、おはよう。随分寝てたな」
「まぁねぇ・・・」
サラが眠そうに欠伸をしている。
あれからもう一年近くが経とうとしている。俺も12歳になり、楽しい学院生活を送っている。だが、少し気がかりなことがある。まだ父さん達が帰ってこないのだ。一年は帰らないと聞いていたが、やはり不安になる。早く帰ってきて欲しいものだ。
「アーサー、メシ行くぞ」
「おう」
あれからというもの、ロットはよく喋るようになった。というか人を避けていただけで、本当はかなり話したがりな性格らしい。
食堂に着くと、朝早くにもかかわらず多くの生徒で賑わっていた。俺達も一通り食べ物を取ってどこに座ろうかと見渡すと、少し離れた所でこちらに手を振っている人物がいた。
「2人とも〜!こっちこっち!」
手を振っているのはセリアだった。前は周りからの視線が痛かったが、今ではもうそんなことはない。
ロットと席につく。
「うわぁ・・・。ロット、たまには野菜も食べたら?お肉しかないじゃない」
ロットのトレイを見ると、肉、肉、肉。まさに肉の絨毯だった。
「ははっ、確かに。肉しかないな」
「野菜を食べないと病気になるわよ?」
「俺は体は丈夫だからいいんだよ。それに肉を食わないと筋肉がつかないぞ?」
そう言いながら肉にかぶりつくロット。傍から見ているとものすごく美味そうだ。
「アーサーを見なさいよ。バランスの良いメニューよ」
「あはは・・・そうかな?」
・・・前世で偏った食事して体壊したからなんて言えない。正直狼の本能なのか、肉を見るとかぶりつきたくなる。今もほら、ロットの皿に肉汁たっぷりの肉が・・・
「アーサー?どうしたの?」
「ふぇ!?い、いや、何でもない・・・」
あ、危なかった・・・。気を抜くとすぐこうなる。気をつけないと。
「おいサラ、この肉もうちょっと焼いてくれ」
「あのねぇ、精霊を肉焼き機にしないでくれる?・・・・・・『フレイム』」
と、言いつつ焼いてあげるサラだった。
ロットにもサラが見えるようにしてもらったのだが、見えるようになるといつもロットがサラに肉を焼かせている。自分で焼けばいいのに。
「ところでさ。父さん達からの連絡とかないのか?」
「・・・ないわね。でも大丈夫よ。あの人達は強いし。あなたがよく分かってるんじゃない?」
「うーん、そう言われてもな。俺、父さん達が戦っているところはあんまり見た事ないからな。稽古の時ぐらいだし」
「心配症ね。時期に帰ってくるわよ」
「そうだな・・・父さん達は人間の国に調査に言ってるんだっけ?」
「うん。なにか反応があったらしいわ」
「そうか・・・。でも一体何だろう・・・?ロットはどう思う?」
「んが?にやぁんふぁ?」
思わずずっこけそうになった。なぜなら肉にかぶりつきながらこっちを向いてきたのだから
「いや・・・やっぱ食べてていいぞ」
「?ほうか」
首を傾げたロットだったがまた肉にかぶりつき始めた。
「ま、私たちが気にしてても仕方ないわ。帰りを待ちましょう」
「そうだな」
「あ、サラ。私のお肉も焼いてくれない?」
「・・・・・・はぁ」
それでも焼くのか。
朝食を食べて俺達は教室に戻り、授業を受けていた。俺たちの前で猫人族のクルト先生が教鞭をとっている。ちなみに俺の席の右にはセリアがいるが・・・
「アーサー、ここどういう意味だ?」
「そこは・・・」
左にはロットが座っている。元々ロットは隣のクラスだったのだが、ロットが俺の近くで勉強したいと言うため、学院長に無理を言って移動させてもらったのだ。
ちなみにロットは意外と勉強できるタイプだ。正直そうは見えなかった。
「・・・と、言うわけで。はるか昔にアークライトに攻めてきた悪魔たちを倒すためにアークライトを見守る始祖の精霊たちが立ち向かったというわけだ」
今、この世界アークライトの神話の話をしているのだが、俺の後ろにその始祖の精霊がいるんだよな
「なるほどね・・・(サラ。どうなんだ?実際のところ)」
「うーん。大体あってる・・・かな」
「(そうなの!?じゃあ本当に悪魔っていたのね!)」
「(強い奴らだったのか?)」
ふたりの質問攻めがサラを襲う。
「そこ!こそこそ話さない!」
「「「す、すみません・・・」」」
さすが、犬人族のクルト先生・・・。聴力がすごい。
「3人とも静かにね。・・・実はあまり詳しくは言えないんだ。ごめんね」
「(ふーん。まぁ言えないなら仕方ないな)」
「(ちょっと詳しく聞きたかったなー)」
「(強いやつなら戦いたいぞ)」
ふむ。この世界は悪魔もいたのか。まぁ魔物とかもいるしおかしくはないと思うが。
「よし、今日はここまで。お疲れ様!」
「うぅーん!終わったー!」
「ふぅ。疲れたわねー」
「アーサー、今日もやるだろ?」
「ん、そうだな。そろそろ近いしな」
「やる・・・?ああ、大会ね?私も行っていい?」
「おう、じゃあ行こうか」
そう。もうすぐ去年参加できなかった大会が始まるのだ。今年はロットも出る気みたいだから一緒にトレーニングしているのだ。
「あ!セリア達どこか行くの?」
「あ、セレナ」
話しかけてきたのはクラスメイトのセレナだった。
「ちょっと大会のトレーニングをね」
「そっかー、もうすぐだもんねー。去年はセリアが優勝だったよねー」
「まぁね」
そう。去年の優勝者はなんとセリアだったのだ。それを聞いた時は驚いたものだ。
「セレナは参加しないのか?」
「え?私?私はいいよー。3人が出るって聞いただけで無理だって思ったもん」
「そうか?セレナのナイフさばきはなかなかのものだと思うけどな」
前にセレナがナイフを振るう姿を見たことがあるが、まるで踊るようにナイフを振るうのでおもわず見とれたものだ。
「とにかく、私は応援するから頑張ってね」
「ありがとう。頑張るわね!」
「それじゃあ私買い物に行かないといけないから。またねー」
「また明日ー!」
笑顔で手を振りながら走っていった。
「そろそろ行こうぜー」
「悪い悪い。行こうか」
「えぇ」
寮に戻った俺たちは、寮のそばにある広場にいた。ここは生徒が訓練することができる場所になっている。いつもは何人かいるが、今日は珍しく誰もいない。
「それで?いつもどんなことをしてるの?」
「そうだな・・・。その日によって変えてるけどまずは基本的なところからやるか」
「なら私もやろうかしら」
「わかった。まず初めは・・・」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「・・・ねぇ」
「ん?どうした?」
「いつまで走るのよー!!」
セリアがものすごい形相で後ろを走っていた。それもそうかもしれない。今俺たちは寮の裏手にある小さな山道を走っている。俺やロットはそこまで苦ではないのだが、女の子には辛い道だろう。
「なんだ?もう限界か?」
「うぅぅ・・・。そんなわけないでしょ!まだまだァァ!」
ロットに軽く煽られて維持になるセリア。まぁあれだけ元気なら大丈夫か。
しばらくして寮に戻ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ。も、もう限界・・・」
「オイオイ、まだ腕立てとかもあるぞ?」
「うるさいわね!私はあなたたちみたいな体力バカじゃないのよ!」
「まぁまぁ。セリアは今日が初めてなんだぞ?それでここまで走りきるのはすごいじゃないか」
「・・・まぁそうだな」
未だに女子のことがよく分からないみたいだ。それがロットらしいとも思うが。
「それじゃあ今日は短めにするか。少し休憩したら始めよう」
「わ、私・・・水飲んでくる・・・」
そう言ってフラフラと寮の方へ歩いていった。
「俺は腕立てしとくぞ」
「いや、休めよ」
お前は休むという概念がないのか・・・
思わず突っ込んでしまった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数分後、セリアは生き返ったかのような顔をして戻ってきた。ちなみにロットは逆立ちしながら腕立てをしていた。
「お待たせー・・・ってロットは何してるのよ」
「ん?これか?逆立ちしながら腕立てしてるんだよ。見たらわかるだろ?」
「それはわかるけど、逆立ちする意味あるの?」
「なんでも『ばらんすかんかく?』を鍛えることもできるってアーサーに聞いたんだ」
「なにそれ?アーサーが教えたの?」
「あ、あぁ・・・。本とか読んで知ったんだ」
「ふーん。よくわかんないけど鍛えた方がいいのね」
別に嘘じゃないぞ?前世でそんな本があったから見ただけだ。ちょっとそういうのに興味があった時期でもあったし・・・。
「よーし!アーサー、次は何するの?」
「ん?そうだな・・・サラ!」
「はいはいー。呼んだ?」
「ああ、この前の訓練のやつ頼めるか?」
「あれね、わかった!」
そう言うとサラは少し離れた所に移動した。
「よーし!じゃあやるよー!この前のやつより数増やすからね!」
「え?え?え?何?何するの?」
「構えろよセリア。あいつ見た目に反して鬼畜だぞ・・・」
「え?どういう・・・」
「いっくよー!『フレイムショット連続発射!』」
サラの前に大量の魔法陣が浮かび上がる。そして・・・
ドドドドドド!!!!!!
「な・・・何よこれー!!」
魔法陣からとてつもない量の炎の弾が発射された。
「来るぞ!弾を打ち消し続けるんだ!」
「えぇ!?嘘でしょ!?・・・やるしかないわね」
「『アクアショット!』」
これは敵の魔法に対応するための反射神経を鍛える訓練だ。最初はロットと交代でやっていたのだが、突然サラが「私がやってあげるわ!」って言い出したからやらせてみたらノリノリになってしまい、ついには鬼畜レベルの難易度になってしまったのだ。
「そらそらそらー!どんどん行くよー!」
「ねぇ!ちょっと!多すぎない!?辛いんだけど!」
「話す余裕があるならまだ大丈夫だろ?ロットを見てみろよ」
俺の横には魔法ではなく剣で炎の弾を切っていた。
「・・・・・・っ」
少し辛そうだが、ロットの動きは止まらない。
「あれ?ロットなかなか頑張るね。なら数増やしちゃおうかなぁ・・・よっと」
「なっ・・・!?ちょっ・・・」
やはりサラは鬼畜だった。弾の数が増えてロットの周りだけ地獄絵図になっている。
「どわああああああ!!!あっつ!熱い!」
ついにロットの体制が崩れ始めた。本人は火には強いから大丈夫とは言っていたが・・・
「あっつ!止めろとめろぉ!!」
「あれ?もう限界?残念」
サラは残念そうにロットへの攻撃を止めた。
「ぜェ、ぜェ・・・。ま、魔物だ・・・。精霊の皮を被った魔物がいる・・・」
「むぅ!失礼だよ!もう1発くらえ!」
サラがロットに特大の一撃を放つ。
「どわあぁ!あっぶねぇな!何すんだよ!」
「変な事言うのが悪いんだよ!」
「なんだとぉ!」
「やる気?」
火花がバチバチしているのが目に見える・・・。
「はい、そこまで!」
「なん・・・!ちっ・・・」
「ふん!」
全く、この2人は・・・
「いつもこんな感じなの?」
「そうなんだよ。でも仲が悪い訳じゃないんだよね」
「それは何となくわかるわね。よく話してるし」
「さて、今日はここまでにしようか。たいー・・・じゃなかった。ソルも沈みそうだし」
「そうね、今日は疲れたわ。それじゃ、また明日」
「ああ、また明日」
手を振りながら寮に戻っていった。さて・・・
「そもそもあなたは・・・!」
「お前だって・・・!」
とりあえずこの2人をなだめるか。
━━???━━
ソルが沈みかけている時、シャングリラ上空に謎の影が現れた。
「ここがシャングリラ・・・。ようやくたどり着いたねぇ」
時間はかかったけどようやく成功した。落ち着け・・・あの方の命令だ。失敗はできない。
「さて、どうやって潜り込むかねぇ」
亜人共に気づかれないようにしなければ行けないからねぇ。
「ん?あれは・・・」
その視線の先には兎族の少女が暗い路地をカゴを手に歩いているのを捉えていた。
「あの女・・・ほう、使えそうだねぇ」
影はとてつもない速さで急降下すると少女の前に降り立つ。
「あ、あなただれ!」
「悪いけどあんたの体使わせてもらうねぇ」
「な、何を・・・。きゃあああ!!」
少女の悲鳴は誰にも届かなかった。
「・・・う、うーん、あれ?私何してたんだっけ?ってもうこんな時間!?早く戻らないと!」
少女は何事も無かったかのように走り去っていった。自分の異変に気づかないまま・・・。
(ふふふ。上手くいったねぇ。待ってなよ、銀髪の人狼族)
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