精霊と共に

キリくん

ノアの謝罪と提案

窓からのソル(太陽)の日差しでアーサーは目を覚ました。


「・・・あれ?俺確かロットと戦って・・・・あ!」


倒れる前のことを思い出した俺はベッドから飛び起きた。


「ここは・・・邸?誰かが運んでくれたのか?・・・・・ロットはどうなったんだ?おい!誰かいないのか!」


邸なら誰かいると思い、呼んでみるとすぐに部屋の扉が開いた。


「アーサー様!お目覚めになられたのですね!」
「メルト!」


入って来たのはメルトだった。


「2日も目を覚まさないので心配いたしました」
「2日も!?そうだ!ロットは?ロットはどうなったんだ!?」
「落ち着いてください。ロット様は街の病院でお休みになられてます」
「そうか・・・、良かった・・・」


とりあえずロットが無事で良かった・・・。安堵していると、部屋の外からドタバタと足音が近づいて来る。


「「「アーサー!目が覚めたか(のね)!」」」


案の定、父さんと母さん。ついでに兄さんだった。


「もう大丈夫か?何かおかしな所はないか?」
「う、うん。大丈夫・・・」
「あぁ良かった!やっぱり私の息子ね!」
「大丈夫なんだなアーサー?痛い所があったら兄さんに言ってみなさい」
「わかったわかった!大丈夫だから静かに!!」


そう言うと全員がシン・・・と静かになった。


「いやーごめん。アーサーが起きたと聞いてつい・・・」
「そんなことより何があったか聞かせてくれません?」
「そうだな、起きたばかりだもんな。えーっと、お前とロット君が倒れたことはわかってるか?」
「うん。だいたい」
「そのあとノアがお前たちの戦いが終わったことを察知してな。転移魔法で飛んでから、お前たちを抱えて戻ってきたよ」
「なるほど・・・。というか、あの人そんなことまで出来たのか」
「それはそうよ。あの人、ああ見えても『エルフの賢者』なんて言われてるのよ?ま、私だってそれぐらい強いけど」


へぇー、あの人そんな二つ名があったのか。それに対抗する母さんも相変わらずだ。


「何があったか理解できたか?」
「うん。ありがとう」
「それはそうとアーサー。ノア様が動けるようになったらロット君と一緒に城に来て欲しいらしいぞ」


ロットも一緒に?なんだろう?


「わかった。後でロットの所に行ってから決めるよ。ところでサラがいないんだけど知らない?」


みんな知らないのか、全員がメルトの方を見る。


「サラ様なら外の光を浴びると言ってお出かけにな・・・」
「アーサー!目が覚めたんだね!」


メルトの言葉を遮ってサラが俺に向かって抱きついてきた。


「ゴフッ!・・・お、おはようサラ。悪いけど少し苦しいから離れてくれ・・・」
「あ、ごめん」


すぐに離れてくれたので、何とか落ち着いた。


「なかなか起きないから心配したよ。もう大丈夫?」
「うん、もう大丈夫。ありがとうサラ。君がいなかったら俺何も出来なかったよ」


するとサラの顔が少し赤くなる。


「そんな急に・・・。ちょっと恥ずかしいよ・・・」
「サラ?顔赤いけど大丈夫か?」
「なっ!?何でもないよ!」
「ごほん。アーサー、まだ少し話があるんだが・・・」
「え?あ、うん。何?」
「実は、俺と母さんしばらく家を空けるから、そのつもりでいてくれ」
「・・・・・・え?」


予想もしてなかった話が飛んで来て固まってしまった。とりあえず落ち着いて話を続ける。


「何かあったの?」
「ちょっとノアからの頼みでな。内容は言えないんだが、一年は帰ってこないと思う」
「一年!?そんなにかかるのかよ!」
「うん・・・まぁそういうことだ。もし今日お前が目を覚まさなかったら、何も言えずに出ないといけなかったからな。ギリギリだったよ」


それにしても一年もかかるとは。一年も2人の顔が見れないのは寂しいな。


「・・・わかった。無事に帰ってきてよ」
「心配ご無用!私とアストは超強いから!」
「留守の間は家はラースとメルトに任せておくから何かあったら言うんだぞ」
「了解」
「アーサー!何かあったら兄さんに・・・」
「さ、ラース様。お仕事があるのでそろそろ戻りましょう」
「ちょっ・・・メルト!まだ俺はアーサーと・・・あああァァァ・・・」


兄さんがメルトに引きずられながら部屋を出ていった。ナイスだメルト。


「じゃあ俺たちも行くから」
「寂しくなるけどまた会えるからね。それまで待っててね」
「うん。いってらっしゃい」


続いて父さん達も俺に抱きついてから部屋を出ていった。


「さてと。着替えたらロットの所に行くか」
「そうね。多分彼も目が覚めてるんじゃないかな」


そうしてロットのところへ行くためにベッドから降りて着替えを始めた。




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着替えて家を出た俺はシャングリラでも1番大きいシャングリラ病院に来ていた。


「いつ見てもでかい建物だなー」
「そういえばアーサーって病気とかにはならないから病院とかに来ることないよね」
「言われてみれば確かに。病院の中とかは見たことないしな」


恐る恐る中に入ってみると、外見通りに中も広かった。正面に受付があり、白衣の人と患者と思われる人があちこちにいる。


「おお、凄いな。予想以上の場所だよ」
「私も初めて見るけど綺麗なところだね」
「とりあえず受付に聞いてみるか」


ロットがどこにいるかわからないので、受付に尋ねることにした。
受付の担当の人は背の高い女性だった。


「すみません。ロットという人を探しているんですが」
「ああ、あなたがアーサー様ですね。国王陛下からお話は聞いております。どうぞこちらへ」


ノアが連絡していたらしく、すぐに案内された。


そのままついて行くと、かなり広い部屋に着いた。たくさんのベッドが並んでいて、何人かの患者が寝ている。


「あちらの奥のベッドです。それでは私はこれで」
「ありがとうございます」


受付さんと別れてロットの方へ向かった。
近づくとロットがベッドの上で座っていた。


「よう、おはようロット」
「・・・ああ、おはよう」
「もう体は大丈夫か?」
「問題ない。そっちこそ大丈夫なのかよ」
「問題なし!昔から鍛えられてる俺を舐めるなよ?」
「・・・ふっ。相変わらずだな。・・・・・・アーサー。改めて言わせてくれ。・・・ありがとう」
「・・・!」


ロットが素直にお礼を言ったことに少し驚いてしまった。2日前にも言われたのは覚えているが、改めて聞くと少し面白い。ちょっとからかってみるか。


「すまん。ちょっと今お前との戦いで耳が聞こえにくくてな。悪いがもう1回言ってくれないか?」


するとロットは恥ずかしそうに顔を下げた。


「だ、だから・・・その・・・ありがとう」
「すまんもう1回」
「・・・おい!いい加減にしろ!絶対聞こえてるだろ!人狼族の耳がそんなに悪いわけないだろ!」


からかいすぎたか、怒らせてしまった。さすがにやりすぎたな。それでもちょっと可愛かったな。


「ははは、悪い悪い。ちょっと魔が差してな」
「いい性格してるな・・・全く・・・」


落ち着いたところで本題に入る。


「ところでロット。ノア・・・国王に動けるようになったら2人で城に来て欲しいって言われたんだが・・・どうする?」
「・・・・・・国王ね」


「国王」と聞いて、ロットの表情が曇った。それもそうだろう。国王と言えば貴族の元締めのようなもの。貴族を恨んでいたロットからすれば、あまり良いものではないはずだ。


「・・・無理しなくてもいいぞ?」
「いや、行こう」
「大丈夫か?嫌なら断っておくが・・・」
「心配すんなって。もう貴族には何にも思ってねーよ。俺が行くって決めたんだ。決めたからには貫くのが俺なんでね」


ロットがニヤッと笑った。


「よし!わかった。じゃあいつ行く?」
「俺はもう動けるぞ。治りは早いほうだからな」
「じゃあ今から行くか」
「おう」


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病院から出て城にたどり着いた。


「・・・ここで父さんは働いていたのか」


ロットの目にうっすらと涙が浮かぶ。


「・・・行こうか」


城の騎士には事情を説明するとすぐに通してくれた。
そのまま案内されて広めの部屋に通されると「しばらくお待ちください」と言われたので待つことにした。
少しすると扉が開き、入って来たのはノアだった。ノアは俺たちの前のソファーに腰をかけた。


「さてと、お疲れ様アーサー君。そして君がカルロット君だね?大きくなったね」
「・・・!俺のこと知ってるんだな」
「もちろん。君のお父さんには僕もお世話になったよ」
「・・・・・・」


気まずい空気になってきた・・・。


「あ、あの・・・」


喋ろうとしたがノアに手を出すなと言うように首を振られた。


「だからこそ、君には言わないといけないね」


そう言うとノアは立ち上がり、なんとロットに頭を下げた。


「なっ!?」
「ちょっ、ノアさん!?」
「いいんだアーサー君!」


一国の王が個人に対して頭を下げるなど、普通は考えられないことだ。ロットもわかっているからか、目を見開いて驚いている。


「王という立場でありながら貴族たちの悪事に気づけなかった。ウェインさんが亡くなったあとも君を捜索することもしなかった。全ては私の責任だ。何を言われても文句は言えない。君が望むなら私を殺しても構わない」
「そんな!ダメですよノアさん!」
「いや、これは私の罪だ。罪は償い、背負わないといけないものだ」
「・・・・・・」


ノアの言葉に胸が少し痛くなる。


「・・・・・・」
「ロット・・・」


目を瞑り考えていたロットだったが、目を開くと、何かを決めたような顔をしていた。


「顔を上げてくれ」
「ロット?」
「俺に頭を下げてくれたのは嬉しかったよ。けどもういいんだ。俺はもう復讐のために動くのはやめたんだ。過去に囚われていたら前に進めない。アーサーが俺に教えてくれたんだ。こんなことしても父さんも母さんも喜んだりしないだろうからさ・・・」
「ロット・・・」


さすがにそう言われると恥ずかしい。


「・・・そうか。君は強いな」
「いや、俺は弱いよ。弱いけど友達がいるから強くなれたんだ」
「ありがとう。カルロット君」
「俺はロットだ。もうカルロットじゃないからさ」
「そうか・・・。ウェインさん。あなたの息子は立派に育ってますよ」


・・・・・・・・・あれ?俺来る意味あった?
話も終わったようなので、俺が呼ばれた理由を聞いてみる。


「あのー・・・、俺が呼ばれたのは何故でしょう?」
「ん?ああ、そうだね。アーサー君も呼んだのは相談があるからなんだ」
「相談?」
「これはロット君にも関係のあることだ。よく聞いて欲しい」
「わかった」


ノアは再び腰を下ろすと、真剣な表情で話し始めた。
 

「相談というのはね。この国で悪事を働く貴族をまとめて捕らえるのを手伝わないかい?という話なんだ。元々この国は人間たちと戦争などするつもりは無い。平和的な解決を求めているんだ。だが一部の貴族たちは納得してなくてね。裏で色々動いているらしい。ロット君たちを狙ったのもその貴族たちという訳だ」
「なるほど・・・。けど、貴族をまとめて捕まえるって・・・そんなことできるんですか?」
「うん。ある話を持ち出せば貴族達はなんの疑いもなく全員城に来るだろう」
「つまり、餌をまいて食いついたところを捕まえるって事だな」
「その通り。アーサー君も知っての通りこの国にはバーキンス家のように何か秘密裏に行っているもの達がいる。前からこの作戦は考えていたが、なかなかしっぽを出さないからね。決行出来なかったんだ。けど今まさに機会が巡ってきた。作戦は3日後に行う。どうだい?」


俺とロットは顔を見合わせて頷く。


「わかりました。やらせてください」
「うん。2人ならそう言うと思ったよ」
「ところで具体的には何をすればいいんだ?」
「それは簡単だよ。貴族たちが逃げないようにしてくれればいいだけさ。後は騎士たちが捕える」


そこで疑問が浮かぶ。


「それならノアさんだけでもできるのでは?何故わざわざ俺たちに頼むのです?」
「君たちはこの問題の関係者だからね。それに・・・ロット君からすればご両親の仇になるかと思ったんだけど・・・必要なかったかな?」
「・・・いや、もう復讐とかは考えてないけど・・・・・・少しは仕返ししても誰も文句は言わないよな」


少し嬉しそうにロットが笑う。


「うん・・・そうだね。それじゃあ3日後の日が落ちるまでに城に来てくれるかい?」
「わかりました。・・・ところで貴族を集める話とは何なのですか?」
「それは俺も気になるな」


するとノアにしては珍しくイタズラめいた顔をしていた。


「フフフ。それは3日後のお楽しみだよ」

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