精霊と共に

キリくん

入学試験とメルトの秘密

あの事件から4年。10歳になった俺はある準備をしていた。


「これでよし。サラ、準備はいい?」
「準備もなにもとっくに行けるよ!」
「じゃあ行こうか・・・シャングリラ学院に」


そう。10歳になった俺は学院に行くことになったのだ。
部屋を出て玄関に向かうと父さんと母さん。そしてメルトが待っていた。兄さんは仕事で来られなかった。


「アーサー、がんばってね。あなたならきっと合格できるわ」
「お前は自慢の息子だ。信じてるぞ」
「ありがとう母さん。父さん」
「アーサー様。私から言うことはありません。ご自分の力を信じなさい」
「うん、ありがとうメルト。━━行ってきます」


3人に見送られながら俺は学院に向かった




シャングリラ学院。数百年の歴史を持つ有名な施設だ。他の国からも毎年多くの人達がここ、シャングリラに集まる。
学院に入るには魔法の試験に受かる必要があるのだ。


学院に着くと多くの人達が集まっていた。人混みをなんとか抜けて受け付けまでたどり着いた


「すいません、試験を受けに来たのですが」
「はい、ではこちらに名前と適正属性を書いてください」
「わかりました。・・・・・・どうぞ」
「ありがとうございます。えー、アーサー・フェンリル様ですね。適正は火、水、風、光、闇・・・ですか。もしかしてあなたはフェンリル家のご子息ですか?」
「はい、その通りです」
「まぁ!あなたのことは何度か聞いてますよ」
「そ、そうなんですか。あはは・・・」


多分、4年前の事だろう。あれ以来この国で俺の事を知らない人はほとんどいなくなった


「では、金貨15枚を」
「はい」
「ピッタリですね。ではこのカードの番号が呼ばれるまでお待ちください」


この世界のお金は鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・白金貨にわけられており、
鉄貨十円、銅貨百円、銀貨千円、金貨一万円、白金貨十万円という感じだ


「えーっと、155番か」
「それにしても人が多いよね。あんまり慣れないな」
「あんまりこういう所に来たことは無い?」
「そもそも街に来たことが今まで無かったから」


あれからサラとは仲良くなった。彼女のことはまだわからないことが多いが少なくとも悪い奴ではないことは確かだ。それに俺の前世の名前まで知っていた。これもいつか聞かないとな


「ところで・・・ほんとに私の力を使わなくていいの?」
「うん、俺の力だけでやりたいんだ。サラの力使ったら怪しまれるかもしれないし。それに何だかズルしてるみたいだし」


この4年の間でサラの力をある程度は使いこなせるようになった。ただ、サラの力は強力な分長く続かない。俺の体が持たなくなるのだ。だからサラの力を借りなくても戦えるように鍛えてきた。その力をここで発揮するときだ


「アーサーがそこまで言うなら私は応援するよ!がんばってね!」
「もちろん!俺の努力の成果を見せてやるさ!」
「155番の方ー、こちらへどうぞー」
「お、俺だ。じゃあ行こうか」


担当の人に呼ばれて試験会場に向かった






会場に着くと既に何人かが椅子に座っていた。案内されて俺も座った。
俺の向かい側には先生達が座っていた。


「えー、それでは試験を始めます。内容はあの的に向かって得意な魔法を放ってください。では━━」


先生の支持に従い、番号を呼ばれた人から魔法の詠唱を始めた。基本的には中級の魔法を詠唱している人が多かったが、1人だけ他の人よりレベルの高い少年がいた


「火よ、風よ。荒ぶる炎の嵐となれ『フレイムストーム』」


詠唱と同時に的から竜巻のような風が巻き起こり、中心から火が燃え上がって炎の竜巻となった。凄まじい威力の竜巻によって的は粉々に砕かれ燃えて灰となった。


「これは・・・火と風の複合魔法ですか。その年で複合魔法を使えるとは見事です。合格!」


少年は合格をもらったが何も言わずに出ていった。
複合魔法はかなり難易度の高い魔法だ。成功させるには2つの属性を同じレベルで使えるようにならないといけない。
俺と同い年ぐらいだと思うが、一体何者だろう。フードのせいで顔が見えなかった


「次、155番」
「はい」


さて、どの魔法を使おう。上級の魔法はサラがいないと使えない。だからなるべく下級の魔法を使わないといけない


「・・・よし。 火よ、水よ・・・『フレイムレイン』」


詠唱と同時に的の上に火の玉が現れた。火の玉はそのまま弾けて複数の弾丸のようになり、一気に的に降り注いだ
火の雨が止むとそこにあった的はどこにもなかった


「こ、これは・・・火と水の複合魔法!?しかも詠唱が短い・・・。一体どうやって?」
「えーっと、実はこれ偶然できたんですよ。火と水を組み合わせられないか試してたらできたものでして」
「なんと!偶然とは!いや、しかし詠唱の方は?」
「一応初級ならある程度は詠唱なしでできます」


試しに光魔法を打ってみた


「『ライトアロー』」


手から光の矢がとてつもない速さで放たれた


「こんな感じです」
「無詠唱・・・その年で出来るとは・・・。皆さん。異論はないですね?」


先生達は全員揃って頷いた


「よろしい!合格!」
「ありがとうございます!」


なんとか合格できた。かなり緊張したが問題なくてよかった


「やったねアーサー!まあ、私は信じてたけどね」
「ありがとうサラ。これで胸を張って帰れるよ」
「・・・そういえばさっきの男の子」
「あぁ、あのフードの子?どうかした?」
「あの子の周りに精霊がいたの。多分あの子に付いてるんだね」


なるほど。だからあんなに強力な魔法を使えたのか。機会があったら話してみたいな


「彼も合格したみたいだし、また会うこともあるだろうから聞いてみようか」
「そうだね。けど気をつけてね。彼からあんまりいい感じがしないから」
「?わかった気をつけるよ」


とりあえず家に帰ることにした






「ただいまー」
「おかえりなさい。で、どうだった?」
「もちろん、しっかり合格してきたよ」
「流石アーサー!信じてたわ。ね?あなた?」
「そりゃあもちろん。自慢の息子だからな」


2人が頭を撫でてくる。恥ずかしいけど褒めてもらえるのはやっぱり嬉しい


「おかえりアーサー。そしておめでとう。流石は俺の弟だ」
「おめでとうございますアーサー様」


声の方を見ると兄さんとメルトがいた


「兄さん!帰ってきてたの?」
「ああ、団長に休みをもらってな。「せっかく弟が合格したんだ。祝いに行ってやれ」って」
「へぇー・・・って、なんで兄さんは俺が合格したこと知ってるの?」
「王が教えてくれたんだよ。王はお前の結果を直ぐに確認してたみたいだぞ」


何やってんだかあの王様。
あ、そういえばセリアに会えなかったな。まぁ、明日会えるか


「とにかくおめでとうアーサー!お祝いにパーティーだ!準備するから待っていてくれ」
「わかった」
「じゃ、その間に兄ちゃんと遊ぼ━━」
「部屋でまってるー」
「ちょっ━━━━━」


兄さんが何か言いたそうだったが、無視した


「では、アーサーの合格を祝って。乾杯!」
「「「乾杯!」」」


みんなで乾杯をした後パーティーを楽しんでいた。が、途中から母さん達が酔っ払って絡んできたので逃げ出して外で涼んでいた


「はぁ・・・酔っ払いの相手はめんどくさい。そういえば前世の時も母さんの相手は大変だったなぁ」


前世の両親も酒をよく飲んで絡んできたことがあった。転生してもう10年。時間が経つのは早いものだ


「どうしたのアーサー?ずっと空見てるけど」
「いや、なんでもないよ。綺麗だなぁって」
「そうね・・・、今夜は星がよく見えるわ」


サラと2人で星を眺めていると誰かが近づいてきた


「誰だ?」
「私ですアーサー様」
「何だメルトか。どうした?」
「少しお話したいことがありまして。その前に━━」


メルトは真剣な表情でサラのいる場所を見つめている


「初めましてサラ様。こうして話すのは始めてですね」
「え?」
「・・・薄々感じてたけどあなた私が見えるのね?それにあなた・・・もしかして人間?」
「え?ちょっとまてサラ。メルトは━━」
「流石は始祖の精霊ですね。私の正体を見破るとは」


メルトは自分の猫耳を掴むとそのまま耳を引っ張った。すると猫耳は頭から簡単に外れた
そこには人間の女性が立っていた


「なっ!?どういうことだメルト!」


突然のことに頭が混乱する


「落ち着いてくださいアーサー様。私はこの国とアースの戦争には関係してません」


一瞬戦争のことが頭によぎったが、違うようだそれにそんなことをしていたら父さん達はすぐに気づくと思う


「私は昔魔物に襲われていたところをアスト様とリース様のお二人に助けられました。その時お二人に一緒に来ないかと誘われたのです。私はこれを了承し、それから私はここでメイドとして働かせてもらっています。・・・正確にはメイド兼秘書ですね」


そんなことがあったのか。確かにこの国は人間と戦争しているが望んでやってはいない。あちらから一方的に仕掛けているらしい。
とにかくこの国は人間をそこまで嫌っている人はいない。二人もそうだ。だからメルトを助けたのだろう


「私は昔から精霊が見えてました。サラ様のこともずっと見えていたのですが・・・黙っていてすみません。なかなか伝える機会がなくて・・・」
「気にしないよそんなこと。ところでこのことを知っているのは?」
「ここに住んでいる方はみんな知っています。あとは王と姫で、他には伏せています。人間を嫌っている方もいるので」
「そっか・・・。でもなんで今俺に?」
「・・・アーサー様が私のことを知ったらどうなるかがわからなかったのです。私は少し臆病なので・・・。けどアーサー様がそんな方ではないと気づきました。幼くも勇敢で優しさがある。そんなあなたに本当の私を知ってもらいたいと思いました」
「・・・そっか。ありがとう、話してくれて」
「いえ、私こそありがとうございます。・・・アーサー様。これを」


メルトは俺に緑の宝石が埋め込まれた銀色の腕輪を渡してきた


「これは?」
「私が昔使っていたものです。あなたを危険から守ってくれます。使ってください」
「わかった。大事にするよ」
「はい。ではそろそろ戻りましょう。皆様が心配してますよ」
「そうだな。戻ろうか」


メルトとサラと一緒にパーティーに戻った


色々あったが明日から学院生活だ。不安もあるが、頑張っていこう



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