静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~
63.死?
「本物のクリシは、どうしたの……?」
エク様が、僕のふりをした化物に問う。
「本物?
そうですね、もうこの世界で【本物のクリシ】と呼べる存在は、私だけですよ。
【前のクリシ】は死にました。
メイドのくせに、奉仕者としての心構えがわからないようでしたので、
殺しました。
今は私の【力】でクリシの死体を操っています。
自分のメイドくらい、ちゃんとしつけろよクソ王女。」
僕の口が、エク様を汚い言葉で罵る。
胸が痛む。
「クリシを、殺した……?」
「ああそうだ。
殺したといっても、心を壊しただけで、体は生きてるがな。
だから今は俺が【生きている本物のクリシ】ってわけだ。
ほら、見た目はとても死んでいるようには見えねえだろ?
おっと、お前には見た目なんてわからなかったか!
ギャハハハハ!」
やめろ。
僕の口を使って、エク様を傷付けるな。
「お前、クリシちゃんに面白い物を持たせてたな。
【拳銃】って言ったか?
あれはどうやって作った?」
「知りません。
うちの技術者が開発したもので……
ウッ!」
僕の拳が、エク様を殴る。
やめろ。
「嘘つくな。
お前が知らないわけないだろ。
お前が人の前世を見て設計したんだからな。」
「なんで、そのことを?」
「ああ、お前の可愛いクリシちゃんが話してくれたよ。
最初は抵抗していたけど、ちょっといたぶってやったらすぐに吐いたよ。
人間の意思なんて、その程度のもんだ。
お前も意地とかプライドとか、くだらないもんはさっさと捨てとけ。
時間の無駄だからな。」
嘘をつくな。
僕は何も話してなどいない。
エク様の目から、涙がこぼれる。
「ごめんね。クリシ。
私のせいで、苦しんで。
私が間違えたせいで、死なせてしまって。」
騙されないでください。
そんなことはありません。
あなたは何も、間違えてなどいません。
僕のような醜い獣は、遅かれ早かれ、こういう死に方をしていたのです。
だから、あなたのせいではありません。
むしろ、あなたのおかげで、僕は幸せでした。
昔の僕には、想像すらできなかったほど、幸せでした。
あなたには感謝しかありません。
ですから、謝らないでください。
僕なんかのために、泣かないでください。
「いえ、エク様のせいではありません。
私が頑固だったことが悪いのです。
ですから、エク様はどうか素直に全てを話されてください。
そうしてくだされば、私はエク様の間違えてしまった罪を許します。」
僕の意思を無視して、あまりにふざけた言葉が、僕の口から語られる。
僕の体を操る、化物によって。
許すとか、許さないとかじゃないだろう。
エク様には、何の罪もないだろう……!
「ごめんね、クリシ。
【拳銃】の作り方は……」
エク様が正直に話す。
まるでそれが、僕への贖罪であるかのように。
何なんだこれは。
こんなの、あんまりじゃないか……
「……最後に引き金を引くと、弾が飛び出します。
ですが弾は狙いから外れますし、威力も大したことはありません。
ですから、ゼロ距離から一切抵抗しない相手を撃つのでない限り、死にません。」
「よく話してくれたな。
褒美に殺さないでおいてやるよ。
お前には色々やって欲しいこともあるしな。
それに、物わかりのいい女は嫌いじゃないぜ。」
僕の唇が、エク様の唇を強引に奪う。
舌をねじ込む。
やめろ。
気持ち悪い。
「お前、メイドにどんなしつけをしてたんだ?
この体、ずいぶんと敏感な口してるぜ?
まさかイリンイのお姫様に、こんな趣味があったなんてな!」
僕の体を支配する化物が、わかったようなことを言う。
違う。
こいつは何もわかってなどいない。
確かに僕は、エク様との触れ合いの中で、
あれほど忌避していた肉体的な接触を、受け入れるようになった。
むしろ、心地良いとさえ思うようになっていた。
しかしそれは、僕がエク様を心から信じられたからだ。
エク様がただ純粋に、僕の言葉を理解しようと、
心のつながりを持とうとするための行為だったからだ。
会話とは騙すか騙されるかだと思っていた僕にとって、
エク様と言葉を交わす行為は、本当に心地良くて気持ちの良いものだった。
それは決して、こんな一方的な行為ではない。
確かに体は何かの反応を示しているかもしれない。
だけど、僕とエク様が触れあった日々を、お前のような醜い化物の発想で汚すなよ。
「あなたには、クリシが何を感じるのか、他人が何を感じるのか、わかるの?」
「ああ、わかるぜ。
操っている体が、何を感じているか。
便利なもんだよ。
死ぬ瞬間の痛みがどれだけ苦しいか、どうされると本能的な恐怖を感じるのか、
わかるからな。
おかげでお前みたいな奴なら、心を壊すまでもなく操れる。」
エク様の表情が変わる。
目の前の化物が、どれほど度し難い存在か、理解したように。
「ようやくわかったよ。
あなたは間違ってる。
あなたのような人達がいたから、悲しいことが起こった。
あなたがいるせいで、これからも起こってしまう。
でも、私なら間違わなかった!
絶対に……!」
僕の手がエク様の首を絞め、呼吸を止める。
言葉を止める。
「いきなりどうした?
まぁ痛い目にあいたいなら望みどおりにしてやるよ、可哀想なお姫様。
目と耳が不自由というだけでも哀れなのに、その上今では囚われの身だ。
さすがに同情するぜ。
俺も少しくらいは悲劇のヒロインの望みを聞いてやらないとな!
冷静に考えてみろ。
俺がワルモノだなんてこと、とっくにわかってんだろ。
それで、お前は正しいからどうなんだ?
必ず勝つのか?
ハッ!
やってみろよ。
もしかしたら慈悲深いヒドリオ様が、奇跡を起こしてお前を助けてくれるかもな!
だが現実は違う。
お前と一緒にいた【癒し主】も、最後はお前を見捨てて消えたらしいな。
他にお前を哀れんで助けてくれる奴はいるのか?
いねえだろ?
ここに無力なお姫様を助けようとしてくれる存在は、いねえんだよ。
結局、今この時を支配しているのは、俺みたいなサイコ野郎ってことだ。
残念だったな。」
ふざけるな。
この身は今までずっと、エク様を助けるためのものだったんだ。
僕の口を使って、そんなことを言うなよ。
僕の存在を否定するなよ。
「何を思って心変わりしたか知らねえが、
素直になった方がいいことぐらいわかるだろ。
それともお前も、こいつと同類の馬鹿なのか?
ああ、クソムカついてきた。
だがまだお前を殺すわけにはいかねえからな。
聞き分けろよ、馬鹿王女。」
僕の口が、エク様を汚す言葉を並べ立てる。
己の無力さを思い知らされる。
エク様は決して、間違ってなどいない。
間違ってるとしたら、この化物と、無力な僕だ。
エク様の言葉に同意することもできず、
ただエク様が苦しむ姿を眺めることしかできない、僕こそが間違った存在だ。
エク様の手が、僕の右太ももに伸びる。
いつも拳銃を隠し持っていた場所だ。
しかし、もう拳銃はそこにはない。
抵抗しようとしたのだろうか?
しかし、あれは自由に動ける相手に致命傷を与えられるような武器ではない。
つい先ほど、エク様が言った通りだ。
エク様は、怒りに任せて無意味な抵抗をするような方ではない。
それじゃあ、何を撃とうとしたのか?
明らかだ。
もう、終わりにされたいのですね……
この化物は僕の【心を殺した】と思い込んでいるようだが、
どうやら僅かながら生き残っているようだ。
ほんの少し、指先くらいなら、動かせるかもしれない。
僕は指先に力を入れ、エク様の脈に触れる。
その鼓動が、少しずつ弱まっていき、途絶えた。
おやすみなさい。
しばらくして、僕の体が崩れ落ちる。
そして、この監禁部屋に男が飛び込んでくる。
化物本体のお出ましだ。
男はエク様の脈を調べる。
「このクソメイド、やりやがったな!」
男は崩れ落ちた僕の体を蹴り飛ばす。
何本もの骨が折れただろう。
「何のために生かしておいたと思ってんだ!
これじゃ台無しだろうが!」
僕の体に、殺意のこもった容赦のない暴行が加えられる。
これならすぐに死ぬだろう。
こういう死に方をするのは、僕のような人間の役目だ。
エク様は、楽に逝けただろうか?
エク様の苦しみを、痛みを、少しは肩代わりできたのだろうか?
最期に少しだけ、正しい選択ができた気がした。
エク様が、僕のふりをした化物に問う。
「本物?
そうですね、もうこの世界で【本物のクリシ】と呼べる存在は、私だけですよ。
【前のクリシ】は死にました。
メイドのくせに、奉仕者としての心構えがわからないようでしたので、
殺しました。
今は私の【力】でクリシの死体を操っています。
自分のメイドくらい、ちゃんとしつけろよクソ王女。」
僕の口が、エク様を汚い言葉で罵る。
胸が痛む。
「クリシを、殺した……?」
「ああそうだ。
殺したといっても、心を壊しただけで、体は生きてるがな。
だから今は俺が【生きている本物のクリシ】ってわけだ。
ほら、見た目はとても死んでいるようには見えねえだろ?
おっと、お前には見た目なんてわからなかったか!
ギャハハハハ!」
やめろ。
僕の口を使って、エク様を傷付けるな。
「お前、クリシちゃんに面白い物を持たせてたな。
【拳銃】って言ったか?
あれはどうやって作った?」
「知りません。
うちの技術者が開発したもので……
ウッ!」
僕の拳が、エク様を殴る。
やめろ。
「嘘つくな。
お前が知らないわけないだろ。
お前が人の前世を見て設計したんだからな。」
「なんで、そのことを?」
「ああ、お前の可愛いクリシちゃんが話してくれたよ。
最初は抵抗していたけど、ちょっといたぶってやったらすぐに吐いたよ。
人間の意思なんて、その程度のもんだ。
お前も意地とかプライドとか、くだらないもんはさっさと捨てとけ。
時間の無駄だからな。」
嘘をつくな。
僕は何も話してなどいない。
エク様の目から、涙がこぼれる。
「ごめんね。クリシ。
私のせいで、苦しんで。
私が間違えたせいで、死なせてしまって。」
騙されないでください。
そんなことはありません。
あなたは何も、間違えてなどいません。
僕のような醜い獣は、遅かれ早かれ、こういう死に方をしていたのです。
だから、あなたのせいではありません。
むしろ、あなたのおかげで、僕は幸せでした。
昔の僕には、想像すらできなかったほど、幸せでした。
あなたには感謝しかありません。
ですから、謝らないでください。
僕なんかのために、泣かないでください。
「いえ、エク様のせいではありません。
私が頑固だったことが悪いのです。
ですから、エク様はどうか素直に全てを話されてください。
そうしてくだされば、私はエク様の間違えてしまった罪を許します。」
僕の意思を無視して、あまりにふざけた言葉が、僕の口から語られる。
僕の体を操る、化物によって。
許すとか、許さないとかじゃないだろう。
エク様には、何の罪もないだろう……!
「ごめんね、クリシ。
【拳銃】の作り方は……」
エク様が正直に話す。
まるでそれが、僕への贖罪であるかのように。
何なんだこれは。
こんなの、あんまりじゃないか……
「……最後に引き金を引くと、弾が飛び出します。
ですが弾は狙いから外れますし、威力も大したことはありません。
ですから、ゼロ距離から一切抵抗しない相手を撃つのでない限り、死にません。」
「よく話してくれたな。
褒美に殺さないでおいてやるよ。
お前には色々やって欲しいこともあるしな。
それに、物わかりのいい女は嫌いじゃないぜ。」
僕の唇が、エク様の唇を強引に奪う。
舌をねじ込む。
やめろ。
気持ち悪い。
「お前、メイドにどんなしつけをしてたんだ?
この体、ずいぶんと敏感な口してるぜ?
まさかイリンイのお姫様に、こんな趣味があったなんてな!」
僕の体を支配する化物が、わかったようなことを言う。
違う。
こいつは何もわかってなどいない。
確かに僕は、エク様との触れ合いの中で、
あれほど忌避していた肉体的な接触を、受け入れるようになった。
むしろ、心地良いとさえ思うようになっていた。
しかしそれは、僕がエク様を心から信じられたからだ。
エク様がただ純粋に、僕の言葉を理解しようと、
心のつながりを持とうとするための行為だったからだ。
会話とは騙すか騙されるかだと思っていた僕にとって、
エク様と言葉を交わす行為は、本当に心地良くて気持ちの良いものだった。
それは決して、こんな一方的な行為ではない。
確かに体は何かの反応を示しているかもしれない。
だけど、僕とエク様が触れあった日々を、お前のような醜い化物の発想で汚すなよ。
「あなたには、クリシが何を感じるのか、他人が何を感じるのか、わかるの?」
「ああ、わかるぜ。
操っている体が、何を感じているか。
便利なもんだよ。
死ぬ瞬間の痛みがどれだけ苦しいか、どうされると本能的な恐怖を感じるのか、
わかるからな。
おかげでお前みたいな奴なら、心を壊すまでもなく操れる。」
エク様の表情が変わる。
目の前の化物が、どれほど度し難い存在か、理解したように。
「ようやくわかったよ。
あなたは間違ってる。
あなたのような人達がいたから、悲しいことが起こった。
あなたがいるせいで、これからも起こってしまう。
でも、私なら間違わなかった!
絶対に……!」
僕の手がエク様の首を絞め、呼吸を止める。
言葉を止める。
「いきなりどうした?
まぁ痛い目にあいたいなら望みどおりにしてやるよ、可哀想なお姫様。
目と耳が不自由というだけでも哀れなのに、その上今では囚われの身だ。
さすがに同情するぜ。
俺も少しくらいは悲劇のヒロインの望みを聞いてやらないとな!
冷静に考えてみろ。
俺がワルモノだなんてこと、とっくにわかってんだろ。
それで、お前は正しいからどうなんだ?
必ず勝つのか?
ハッ!
やってみろよ。
もしかしたら慈悲深いヒドリオ様が、奇跡を起こしてお前を助けてくれるかもな!
だが現実は違う。
お前と一緒にいた【癒し主】も、最後はお前を見捨てて消えたらしいな。
他にお前を哀れんで助けてくれる奴はいるのか?
いねえだろ?
ここに無力なお姫様を助けようとしてくれる存在は、いねえんだよ。
結局、今この時を支配しているのは、俺みたいなサイコ野郎ってことだ。
残念だったな。」
ふざけるな。
この身は今までずっと、エク様を助けるためのものだったんだ。
僕の口を使って、そんなことを言うなよ。
僕の存在を否定するなよ。
「何を思って心変わりしたか知らねえが、
素直になった方がいいことぐらいわかるだろ。
それともお前も、こいつと同類の馬鹿なのか?
ああ、クソムカついてきた。
だがまだお前を殺すわけにはいかねえからな。
聞き分けろよ、馬鹿王女。」
僕の口が、エク様を汚す言葉を並べ立てる。
己の無力さを思い知らされる。
エク様は決して、間違ってなどいない。
間違ってるとしたら、この化物と、無力な僕だ。
エク様の言葉に同意することもできず、
ただエク様が苦しむ姿を眺めることしかできない、僕こそが間違った存在だ。
エク様の手が、僕の右太ももに伸びる。
いつも拳銃を隠し持っていた場所だ。
しかし、もう拳銃はそこにはない。
抵抗しようとしたのだろうか?
しかし、あれは自由に動ける相手に致命傷を与えられるような武器ではない。
つい先ほど、エク様が言った通りだ。
エク様は、怒りに任せて無意味な抵抗をするような方ではない。
それじゃあ、何を撃とうとしたのか?
明らかだ。
もう、終わりにされたいのですね……
この化物は僕の【心を殺した】と思い込んでいるようだが、
どうやら僅かながら生き残っているようだ。
ほんの少し、指先くらいなら、動かせるかもしれない。
僕は指先に力を入れ、エク様の脈に触れる。
その鼓動が、少しずつ弱まっていき、途絶えた。
おやすみなさい。
しばらくして、僕の体が崩れ落ちる。
そして、この監禁部屋に男が飛び込んでくる。
化物本体のお出ましだ。
男はエク様の脈を調べる。
「このクソメイド、やりやがったな!」
男は崩れ落ちた僕の体を蹴り飛ばす。
何本もの骨が折れただろう。
「何のために生かしておいたと思ってんだ!
これじゃ台無しだろうが!」
僕の体に、殺意のこもった容赦のない暴行が加えられる。
これならすぐに死ぬだろう。
こういう死に方をするのは、僕のような人間の役目だ。
エク様は、楽に逝けただろうか?
エク様の苦しみを、痛みを、少しは肩代わりできたのだろうか?
最期に少しだけ、正しい選択ができた気がした。
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