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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

56.思い出

[昔話をしても、いいでしょうか?]
クリシが私の意思を聞く。

したければ、すればいいのに。
まだメイドごっこを続けるんだろうか?
それとも、本当にクリシは私のことを大切に思ってくれるメイドなんだろうか?

[いいよ]
[ありがとうございます。
 僕の親は、盗人でした。
 人を殺して奪うことが仕事で、僕もそのおかげで生きていました。
 それが当たり前で、正直、家族以外のことは考えたことがありませんでした。

 ですが、そんな生活が長続きするわけはなくて、僕の家族たちは自警団に殺されました。
 僕は家族を見捨てて、一人で逃げました。
 逃げた先に、何があるかもわからないまま。
 そうしてさまよっているときに、この屋敷の近くの街に辿り着きました。
 そこには多くの人がいて、僕のような怪しい人間にも優しく声をかけてくれる人がいました。
 でもそれは、僕が【女】だから、利用価値があると見ての行為でした。
 薄っぺらい優しさの裏側では、僕を【物】としか見ていませんでした。
 だから僕は、家族以外の人間は、醜悪で身勝手な欲望の塊なんだと思いました。
 僕はそいつらの隙を見つけて、金目の物を盗んで逃げ出しました。
 それからは、周りの人間が全て敵に見えました。
 僕は他人に隙を見せないように、【男】のふりをして、殺意を振りまきながら、
 心の中では怯えながら過ごすようになりました。
 そして、他人の隙を探しては、盗んだり、騙したり、殺したりして、生きていました。

 ごめんなさい。
 僕は本当は、あなたに「信じて」なんて言えるような、潔白な人間ではありません。

 あなたと出会ったのはその頃でした。
 多くの大人たちに守られながら、僕に優しく声をかけるあなたを見て、
 最初は正直【騙しやすそうな人間】だと思ってました。
 そうやって【優しい人間】を装っているけど、絶対にどこかに【闇】がある。
 僕ならきっと、その【闇】を見つけて、利用して、騙して、殺して、盗める。
 そしてまた逃げ出せばいい。
 そう思ってました。

 あなたと共に過ごすようになってからすぐ、「殺せる」と思いました。
 ごめんなさい。

 ですが、そうしませんでした。
 どれだけあなたと共に過ごしても、あなたの【闇】を見つけることができなかったからです。
 僕はあなたのことが、あまりに理解できなくて、恐かったんです。
 そして僕が怯えて何もできないまま、あなたと共に過ごしているうちに、
 僕にも段々とわかってきました。
 僕が生まれつき失ってしまったものが、どれだけ優しくて美しくて温かいのか……

 苦しかったです。
 何もかも忘れて、そのまま消えてしまいたいくらい、胸が痛みました。
 実際に何度か、何もかも捨ててあなたのところから逃げ出そうとしたこともありました。
 ですが、あなたは辛抱強く、何度も僕をあなたのところに招き入れてくれたのです。

 僕はあなたに、言葉も文字も、人の心も、感情の意味も、全てを教わりました。
 僕が今こうして静かに暮らせているのは、間違いなくあなたのおかげなのです。
 僕にとってあなたは、何度命を懸けても返しきれないほどの恩人なんです。
 あなたのためなら、僕は何だってします。
 だからどうか、生きてください。
 あなたがくださったこの恩を、少しでも返させてください。]

私の頬に水滴が落ちる。
嘘にしては、あまりに大げさだ。
本気で言っているんだろうか?
クリシが私に丁寧に言葉を教えてくれるのも、
こうして私に信じて欲しいと、涙を流して自分の心をさらけ出してくれるのも、
ただ、私への恩返し?

クリシの顔に触れ、その涙をぬぐう。
イメージが流れ込んでくる。

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