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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

55.あなたは誰?

クリシの指先が、私の手の平に文字をなぞる。
[おはようございます]
私はそれに応え、なぞり返す。
[おはよう]
そしてクリシは、私に食事をさせてくれる。
いつも通りの、優しいメイドだ。

けど、今の私はその優しさの裏に何があるのか、疑っている。
確かに私がメイドを雇ったりできるような裕福な家の娘で、
クリシが私に仕えるメイドであることは間違いなさそうだ。
しかし、クリシは最終的に私を殺すために、メイドをしているのかもしれない。
クリシの心が見えない。
この親切で優しいメイドという外面の中に、どんな殺意が潜んでいるのか。
恐い。

ゴホッ!

そんな考え事そしていたからか、むせてしまった。
クリシは慌てるように私の胸元を拭く。

前回むせた時は、まるでむせることがわかっていたかのようだったのに。
今回は予知できなかった?

私の体を拭くクリシの手が、私の首元に触れる。
私は思わず、飛び去るようにクリシの手から逃げる!

しまった!
いくら私がクリシの中にある殺意を見抜けたとしても、盲目難聴である以上、
抵抗することはできない。
だから、私がクリシのことを警戒しているようなそぶりを見せるわけにはいかなかった。
そうすれば、たとえクリシが私を殺すつもりでも、
もうしばらくこのメイドごっこを続けてくれたかもしれない。
しかし、今こうして明らかに、私がクリシを警戒している素振りを見せてしまった。
殺意に気付いていることに、気付かれてしまった。
殺される!

私はクリシから離れようとして、ベッドから落ちる。
痛い。
けど、それ以上に恐い。
私は這うようにしてベッドから逃げる。

ベッドの外に何があるかわからない。
けど今は、とにかくクリシから離れたい。

壁にぶつかる。
手探りで壁の構造を探る。
窓がある。
私は窓を開け、身を乗り出そうとする。
しかし、クリシに腕を掴まれ、そのまま強引に床に押し倒される。

ああ。
結局、私は逃げられない。
殺される。

しかし、クリシはただ私を押さえつけるだけで、殺そうとする素振りはない。
そして、私が抵抗しないことを見て、私の手を取り、文字をなぞり始める。
[どうか、落ち着いてください。
 お辛いのはわかります。
 目が覚めたら暗闇で、記憶もなくて、きっと僕のことも見知らぬ恐い人だと感じるのでしょう。
 恐くて、苦しくて、世を儚んでしまうしれません。
 ですが、どうか、生きてください。
 僕を信じてください。
 覚えていらっしゃらないでしょうが、僕はあなたに命を救われてから、
 何年もずっと、あなたに仕えてきました。
 これからもずっと、僕は心からあなたに仕えます。
 暗闇があなたを恐れさせるのなら、僕があなたの目になります。
 ですから、どうか、生きてください……!]
私の顔に、水滴が落ちる。

泣いている?
クリシが、私のために?
これから殺す人間に、生きて欲しいと願って?
どういうこと?

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