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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

51.死

「クリシを、殺した……?」
「ああそうだ。
 殺したといっても、心を壊しただけで、体は生きてるがな。
 だから今は俺が【生きている本物のクリシ】ってわけだ。
 ほら、見た目はとても死んでいるようには見えねえだろ?
 おっと、お前には見た目なんてわからなかったか!
 ギャハハハハ!」
クリシのものとしか思えない唇が、とてもクリシとは思えない言葉を語る。

もうクリシはいない。
私の求めるところは、もうどこにもない。
それなら私は、何のために……

「お前、クリシちゃんに面白い物を持たせてたな。
 【拳銃】って言ったか?
 あれはどうやって作った?」

こいつは【拳銃】を使って何をするつもりだろう?
どうせ、ろくなことではない。
こんな奴には、何も話したくない。

「知りません。
 うちの技術者が開発したもので……
 ウッ!」
お腹を殴られる。
クリシの拳で。

痛い。

「嘘つくな。
 お前が知らないわけないだろ。
 お前が人の前世を見て設計したんだからな。」
「なんで、そのことを?」
「ああ、お前の可愛いクリシちゃんが話してくれたよ。
 最初は抵抗していたけど、ちょっといたぶってやったらすぐに吐いたよ。
 人間の意思なんて、その程度のもんだ。
 お前も意地とかプライドとか、くだらないもんはさっさと捨てとけ。
 時間の無駄だからな。」

そうなんだ。
私が間違ってたから、クリシは酷い目にあってしまった。

「ごめんね。クリシ。」
クリシの表情が和らぎ、ほほ笑む。
「いえ、エク様のせいではありません。
 私が頑固だったことが悪いのです。
 ですから、エク様はどうか素直に全てを話されてください。
 そうしてくだされば、私はエク様の間違えてしまった罪を許します。」

あまりにふざけた言葉が、クリシの口で語られる。
けど、本物のクリシなら、何と言うだろう?
もしかしたら、同じことを言ってくれるかもしれない。

「【拳銃】の作り方は……」
もう、どうでもいい。

「……最後に引き金を引くと、弾が飛び出します。
 ですが弾は狙いから外れますし、威力も大したことはありません。
 ですから、ゼロ距離から一切抵抗しない相手を撃つのでない限り、死にません。」
「よく話してくれたな。
 褒美に殺さないでおいてやるよ。
 お前には色々やって欲しいこともあるしな。
 それに、物わかりのいい女は嫌いじゃないぜ。」
私の唇に、クリシだった者の唇が触れる。
そのまま舌がねじ込まれ、私は口内をもてあそばれる。
呼吸ができない。
苦しい。

満足したのか、クリシだったものの唇が私から離れる。
そして私の手を取り、喋りだす。
「お前、メイドにどんなしつけをしてたんだ?
 この体、ずいぶんと敏感な口してるぜ?
 まさかイリンイのお姫様に、こんな趣味があったなんてな!」

違う。
それはクリシが私のために、全力で献身してくれていた証だ。
そのおかげで私は、この世界の人々と言葉で繋がることができた。
こんな人に、私たちの関係なんて、わかるわけがない。

いや、それより……

「あなたには、クリシが何を感じるのか、他人が何を感じるのか、わかるの?」
「ああ、わかるぜ。
 操っている体が、何を感じているか。
 便利なもんだよ。
 死ぬ瞬間の痛みがどれだけ苦しいか、どうされると本能的な恐怖を感じるのか、
 わかるからな。
 おかげでお前みたいな奴なら、心を壊すまでもなく操れる。」

何を言っているのか、私には理解できない。
こいつは私と同じように、【奇跡】を使うときに他人の感情が流れ込んでくるらしい。
私はそれを感じるたび、決して他人を傷付けてはいけないと、ただ普通に思う。
しかしこいつはそれを使って、いかに他人を苦しめ、恐怖させるかを考えるそうだ。
度し難い。
きっとこいつは、エフォリアさんの記憶を見ても、何も感じない。
どんな悲劇が目の前にあっても、他人事としか考えない。

「ようやくわかったよ。
 あなたは間違ってる。

 あなたのような人達がいたから、悲しいことが起こった。
 あなたがいるせいで、これからも起こってしまう。

 でも、私なら間違わなかった!
 絶対に……!」
突然首を絞められる。
息ができない。

苦しい……

「いきなりどうした?
 まぁ痛い目にあいたいなら望みどおりにしてやるよ、可哀想なお姫様。
 目と耳が不自由というだけでも哀れなのに、その上今では囚われの身だ。
 さすがに同情するぜ。
 俺も少しくらいは悲劇のヒロインの望みを聞いてやらないとな!

 冷静に考えてみろ。
 俺がワルモノだなんてこと、とっくにわかってんだろ。
 それで、お前は正しいからどうなんだ?
 必ず勝つのか?
 ハッ!
 やってみろよ。
 もしかしたら慈悲深いヒドリオ様が、奇跡を起こしてお前を助けてくれるかもな!

 だが現実は違う。
 お前と一緒にいた【癒し主】も、最後はお前を見捨てて消えたらしいな。
 他にお前を哀れんで助けてくれる奴はいるのか?
 いねえだろ?
 ここに無力なお姫様を助けようとしてくれる存在は、いねえんだよ。
 結局、今この時を支配しているのは、俺みたいなサイコ野郎ってことだ。
 残念だったな。

 何を思って心変わりしたか知らねえが、素直になった方がいいことぐらいわかるだろ。
 それともお前も、こいつと同類の馬鹿なのか?

 ああ、クソムカついてきた。
 だがまだお前を殺すわけにはいかねえからな。
 聞き分けろよ、馬鹿王女。」

苦しい。
悔しい。
涙が止まらない。
もし私がこいつに捕まらなければ、きっと未来は変わっていた。
若頭さんは外の世界にも信用できる人がいることを知って、
ずっと途絶えてしまっていた、人とドワーフの関係は変わっていた。
きっと私ならテアの心も、少しずつ救うことができた。
なのに、そうならなかった。
クリシは死んだ。
もう何もかも手遅れ。
それならいっそ、ここで終わらせよう。

私はクリシの右太ももに触れる。
クリシはいつも、ここに拳銃を隠し持っていた。
しかし、見付からない。

すでに回収されたのだろう。
私にはもう、死ぬこともできない。
苦しい……

ふと、私の首を締める手つきが変わる。
呼吸をできなくして、苦しめようとしていた締め方が、血の流れを止める締め方になった。

こいつは何がしたいの?
これではすぐに意識を失い、そのまま死んでしまう。
私を殺すわけにはいかなかったはずでは?
いや、そうか。

脳から酸素が失われ、すぐに気が遠くなる。

ありがとう……







エクサティシー・イリンイの意識は、眠るように静かに途切れた。
そして、もう二度と目覚めることはなかった。

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END    【プロローグ】
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