静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~
50.再会
顔に触れられ目が覚める。
これは……
クリシの手だ!
右手を掴まれ、慣れ親しんだ唇に触らせられる。
「エク様、起きてください!ご無事ですか!?」
「私は大丈夫、クリシこそ無事だったの?」
「はい、色々な拷問を受けましたが、なんとか……」
「拷問……!?
どんなことをされたの?」
「それが、記憶が混乱していて、よく覚えていません。
ただ、とても酷い拷問だったということだけは覚えています。」
とても酷い拷問とは、どんなものだろう?
任侠ものだったら、爪を一枚ずつはがされたり、ナイフで目を抉り出されたりするんだろうか。
私は目を抉り出されたとしても、ただ物凄く痛いだけですむけど、
目が見えているクリシにとっては、とてつもない恐怖だろう。
想像するだけで、震えが止まらない。
もしかすると、クリシはこうして今も普通に話しているけど、
実は両目を失っていたりとかするんだろうか?
私は指先をクリシの唇から離し、クリシの顔を撫でまわす。
目も耳も鼻も、欠けているパーツはない。
肌も滑らかで、傷一つ無さそうだ。
クリシの腕を伝い、指先を確かめる。
爪はあるし、触ったくらいで気付くような傷はどこにもない。
「怪我はしなかったの?」
「目立つところには。
ですが、服の下には様々な拷問の跡があります。
奴らはこういうことに手慣れているようです。」
手慣れているというと、女奴隷としての価値を傷付けないため、ということだろうか?
そんな遠いダークファンタジーみたいな話が、目の前のクリシの身に起こっている。
とても簡単には信じられない。
しかもこれは、他人事ではない。
これから、同じことが私の身に起こるかもしれない。
いや、このままいけば、ほぼ間違いなく起こる。
「私も同じ目に合うんだよね」
「そんなことがあってはいけません。
奴らも拷問したいわけではなくて、エク様の協力が必要なだけです。
聞かれることに対して素直に答えていれば、酷い目に合わなくてすみます。」
「そうかな……?
もしかしたら散々利用された挙句に、殺されたり奴隷にされるかも。」
「そんなことはありません。
私も拷問に耐えられずに、全て話してしまったのですが、そうしたら解放されました。
だからこうしてエク様に会いに来れたのです。
だからエク様も、酷い拷問に会う前に、素直に協力すれば、
私のように解放されるはずです。」
【私】……?
クリシは自分のことを、【僕】と言っていたはずだ。
激しい拷問で記憶が混乱しているとしても、一人称が変わるなんてことがあるだろうか?
もう一度、クリシの顔を撫でまわす。
どう考えても、これは慣れ親しんだクリシの顔だ。
しかし話の内容も、クリシにしてはなんだか違和感がある。
今私が触れている、クリシの体をしたこの人は、実はクリシではないかもしれない。
他人の体を完璧に模倣する【奇跡】とか、可能性は色々ある。
そんな可能性なんて考えたくもない。
もしかしたらクリシも時々は、自分のことを【私】と呼ぶ時もあるだけかもしれない。
この人は本当にクリシで、私も色々と疑ったりしないで素直になれば、
拷問も何もされず、無事にクリシと一緒に日常に戻れるのかもしれない。
日常。
とても甘くて優しい響きだ。
少し何かを見ない振りするだけで、その日常に戻れる。
それならいっそ、疑わずに信じてしまうのが、賢い選択かもしれない。
いや、違う。
私の求める日常には、いつも隣にクリシがいた。
クリシはちょっとひねくれていて、嫌味なことを言ったりもするけど、
心の奥底は、確かに通い合っていた。
どんなにたわいもない冗談でも、本音で付き合ってくれた。
こうして言葉を交わせるようになってから、クリシを疑うようなことは一度もなかった。
私のお気に入りだった日常には、そんなクリシがいつも隣にいた。
そんなクリシが、いつも隣で私を助けてくれるからこそ、幸せだった。
だからこそ、たとえ何も言葉を交わさなくても、ただ温かくて、優しくて、静かな時間を過ごせた。
そしてクリシだけじゃなくて、私の周りにいる人たちも、みんな同じ気持ちを共有している。
そんなことを、心から素直に信じられる。
それが、私の本当に求めているところだ。
目の前の現実に目を背けては、決してそこに帰ることはできない。
私は決心して、問う。
「あなた、誰……?」
クリシの表情が豹変する。
「なんでバレた?
ご名答です、お姫様。
私はお前たちをさらったワルモノでございます。」
クリシの唇から、私を馬鹿にするような言葉が吐き捨てられる。
本物のクリシの口からは、決してこんな言葉は出てこない。
今私の隣にいるこの人は、クリシではない。
現実が突き刺さる。
しかし、私はこの現実を直視することを選んだ。
私は続けて、問う。
「本物のクリシは、どうしたの……?」
「本物?
そうですね、もうこの世界で【本物のクリシ】と呼べる存在は、私だけですよ。
【前のクリシ】は死にました。
メイドのくせに、奉仕者としての心構えがわからないようでしたので、殺しました。
今は私の【力】でクリシの死体を操っています。
自分のメイドくらい、ちゃんとしつけろよクソ王女。」
これは……
クリシの手だ!
右手を掴まれ、慣れ親しんだ唇に触らせられる。
「エク様、起きてください!ご無事ですか!?」
「私は大丈夫、クリシこそ無事だったの?」
「はい、色々な拷問を受けましたが、なんとか……」
「拷問……!?
どんなことをされたの?」
「それが、記憶が混乱していて、よく覚えていません。
ただ、とても酷い拷問だったということだけは覚えています。」
とても酷い拷問とは、どんなものだろう?
任侠ものだったら、爪を一枚ずつはがされたり、ナイフで目を抉り出されたりするんだろうか。
私は目を抉り出されたとしても、ただ物凄く痛いだけですむけど、
目が見えているクリシにとっては、とてつもない恐怖だろう。
想像するだけで、震えが止まらない。
もしかすると、クリシはこうして今も普通に話しているけど、
実は両目を失っていたりとかするんだろうか?
私は指先をクリシの唇から離し、クリシの顔を撫でまわす。
目も耳も鼻も、欠けているパーツはない。
肌も滑らかで、傷一つ無さそうだ。
クリシの腕を伝い、指先を確かめる。
爪はあるし、触ったくらいで気付くような傷はどこにもない。
「怪我はしなかったの?」
「目立つところには。
ですが、服の下には様々な拷問の跡があります。
奴らはこういうことに手慣れているようです。」
手慣れているというと、女奴隷としての価値を傷付けないため、ということだろうか?
そんな遠いダークファンタジーみたいな話が、目の前のクリシの身に起こっている。
とても簡単には信じられない。
しかもこれは、他人事ではない。
これから、同じことが私の身に起こるかもしれない。
いや、このままいけば、ほぼ間違いなく起こる。
「私も同じ目に合うんだよね」
「そんなことがあってはいけません。
奴らも拷問したいわけではなくて、エク様の協力が必要なだけです。
聞かれることに対して素直に答えていれば、酷い目に合わなくてすみます。」
「そうかな……?
もしかしたら散々利用された挙句に、殺されたり奴隷にされるかも。」
「そんなことはありません。
私も拷問に耐えられずに、全て話してしまったのですが、そうしたら解放されました。
だからこうしてエク様に会いに来れたのです。
だからエク様も、酷い拷問に会う前に、素直に協力すれば、
私のように解放されるはずです。」
【私】……?
クリシは自分のことを、【僕】と言っていたはずだ。
激しい拷問で記憶が混乱しているとしても、一人称が変わるなんてことがあるだろうか?
もう一度、クリシの顔を撫でまわす。
どう考えても、これは慣れ親しんだクリシの顔だ。
しかし話の内容も、クリシにしてはなんだか違和感がある。
今私が触れている、クリシの体をしたこの人は、実はクリシではないかもしれない。
他人の体を完璧に模倣する【奇跡】とか、可能性は色々ある。
そんな可能性なんて考えたくもない。
もしかしたらクリシも時々は、自分のことを【私】と呼ぶ時もあるだけかもしれない。
この人は本当にクリシで、私も色々と疑ったりしないで素直になれば、
拷問も何もされず、無事にクリシと一緒に日常に戻れるのかもしれない。
日常。
とても甘くて優しい響きだ。
少し何かを見ない振りするだけで、その日常に戻れる。
それならいっそ、疑わずに信じてしまうのが、賢い選択かもしれない。
いや、違う。
私の求める日常には、いつも隣にクリシがいた。
クリシはちょっとひねくれていて、嫌味なことを言ったりもするけど、
心の奥底は、確かに通い合っていた。
どんなにたわいもない冗談でも、本音で付き合ってくれた。
こうして言葉を交わせるようになってから、クリシを疑うようなことは一度もなかった。
私のお気に入りだった日常には、そんなクリシがいつも隣にいた。
そんなクリシが、いつも隣で私を助けてくれるからこそ、幸せだった。
だからこそ、たとえ何も言葉を交わさなくても、ただ温かくて、優しくて、静かな時間を過ごせた。
そしてクリシだけじゃなくて、私の周りにいる人たちも、みんな同じ気持ちを共有している。
そんなことを、心から素直に信じられる。
それが、私の本当に求めているところだ。
目の前の現実に目を背けては、決してそこに帰ることはできない。
私は決心して、問う。
「あなた、誰……?」
クリシの表情が豹変する。
「なんでバレた?
ご名答です、お姫様。
私はお前たちをさらったワルモノでございます。」
クリシの唇から、私を馬鹿にするような言葉が吐き捨てられる。
本物のクリシの口からは、決してこんな言葉は出てこない。
今私の隣にいるこの人は、クリシではない。
現実が突き刺さる。
しかし、私はこの現実を直視することを選んだ。
私は続けて、問う。
「本物のクリシは、どうしたの……?」
「本物?
そうですね、もうこの世界で【本物のクリシ】と呼べる存在は、私だけですよ。
【前のクリシ】は死にました。
メイドのくせに、奉仕者としての心構えがわからないようでしたので、殺しました。
今は私の【力】でクリシの死体を操っています。
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