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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

45.さいごのばんさん

たくさんの光が見える。
宴会だと騒いでいる、たくさんのドワーフたちだ。
その中に、一際強い輝きを放つ【滴】がある。
テアだ。
その光は眩しくて痛いほどだけど、同時になんとなく優しくて温かい輝きだ。
エフォリアさんが気に入っていた輝きが、千年以上経った今も私の目の前にある。
改めて、不思議なことだと思う。
もしかすると、この光は永遠に輝き続けるのかもしれない。

その光が私に近付いて来る。
その美しい輝きに見とれていた私は、思わずその光に手を伸ばす。
「ちょっとエク!
 なんれあんたはのんれないのよ!
 いつわれわぇーふってんのよ、おーよさわか!?」

すごい。
唇だけで、テアの呂律が回っていないことがわかる。

「私は真面目振ってるんじゃなくて、ただ飲めないだけだから。」
「そんなのいいわけにならないれしょ!
 しんれもわたしゃーいきかえらせてあえるから!
 ほら!」
テアの手が私の口に近付くのを、また別の光が止める。
クリシだ。

こうして見ると、確かにクリシの【滴】は、ドワーフともテアとも違う。
テアの激しい輝きと比べると、それは薄暗く、淀んでいる。
こうしてたくさんの光に囲まれていると、ふと消えてしまいそうな、儚い光だ。
本人には【奇跡を担っている】という自覚はないのだし、
今は潜在的な滴の輝きが、微かに見えているだけなのかもしれない。

そのクリシが、掴みかかってくる酔っ払いの腕を華麗に捌き、払いのける。
明らかに素人の体術ではない。

きっと今までも、私の見えないところで、こうして守ってくれていたんだろう。

というか、クリシが今ねじ伏せているその相手は、
軽いいざこざ感覚でチート能力盗賊団を壊滅させたりする、
想像を絶する強者のはずなんだけど。
パワーバランスどうなってるの?
というか、やりすぎてない?

「クリシ、もしかしてテアに関節技極めてる?
 そこまでしなくてもいいよ。
 別に毒を飲ませようとしたわけじゃないんだし、ほら。」
私はそう言って、テーブルがあるはずの場所に手を伸ばし、杯を掴む。
そして杯の中身を口に流し込む。
辛い。
「なにこれ、苦いし辛いし、喉とお腹も痛いし、頭もくらくらしてきた。
 やっぱりこれ毒なんじゃないの?
 もうよっぽどのことがない限り、私はこれを飲まないことにしよう。

 あ、嘘、これは毒じゃないよ!
 ただ私の口に合わないってだけで!
 だからテアを放してあげて?」
クリシがテアを離す。
しかしテアは、クリシが離れた後も、まだ地面でもがいている。
多分、ふらつきながらも起き上がろうとしているんだろう。
そのふらつきが、酔いによるものであって欲しい。
テアは何とか立ち上がり、私の手を取る。
「いいわぁもってんねー、エクのメイロは。
 れも、あたぁーかたいのはらめらよ。
 おっとゆるーくいきなきゃ、つかれちゃうれしょ。」

私と会話をしようと手を取るのはいいけど、それなら酔いを醒まして、
ちゃんと言葉を話してほしい。

「何言ってるかわからないよ。
 水でも飲んで酔いを醒ましたら?
 というか、本当は【癒し】を使えば酔っぱらわずに済むんじゃないの?」
「そんなことしちゃーさけのいみあないれしょ?
 そうあ!
 エクあのえないなら、かわりにクリシあのみなよ!
 いつおいろいろかわりにやってるんあし、いいれしょ!?
 ほら!」
テアが伸ばした手をクリシが捌き、そのまま地面にねじ伏せる。
人体の形を保っていたテアの【滴】が、人としてありえない形に歪む。

なんで自分から関節技極められに行ったの、この酔っ払い?

「絡み酒なんてするから。
 まぁクリシもほどほどにね。」

私にはこのプロレスが、暗闇に浮かぶイルミネーションに見える。
眩しい光と儚い闇の、コントラストが美しい。
テアとクリシの【滴】の輝きで、様々な現代アート的な何かが表現され続けている。

いや、長くない?
どうも、私とクリシの間では【ほどほど】という感覚に、かなりズレがあるらしい。

ようやく解放されたテアに向けて、私は声をかける。
「テアはすごいね。
 色々痛い目にあってるはずなのに、いつも楽しそうだし、
 なんだか恐いドワーフ達とも、普通に話せるし。」
私がそう言うと、テアはスッと立ち上がって私の手を取る。
「恐いのはドワーフが理解できないからだよ」
完璧な発音で話し始めた。

いや【癒し】を使えば、本当に一瞬で酔いくらい醒ませたってことなんでしょう。
でもさすがに、こんなに一瞬で豹変されたら、理解できても十分恐いよ。

「確かに彼らは排他的だけど、その分決して仲間を裏切らないんだよ。
 今日の若頭さんみたいに、意見の食い違うことはあるけどね。
 それでも【絶対にアイツを苦しめてやりたい】とか、そういう風にはならないの。
 だからこうして、喧嘩しても一日の終わりには楽しく酒が飲めるんだよ。
 きっと、何か本質的なところで繋がっているからなんだろうね。

 ねぇ、エクには今【滴】が見えてるんでしょ?
 ドワーフに【滴】は流れてる?」
「うん。
 どうもみんなに流れているみたい。
 それも、テアと私では違う【滴】に見えるんだけど、
 ドワーフはみんな同じように、このバンダナに込められた【滴】と似たものが見えるの。」
「やっぱりそうなんだね。
 彼らにはエフォリアさんみたいに【滴】は見えないんだけど、
 鍛えようとする素材自身が、どうありたいと願っているかがわかるんだって。
 多分みんな、エフォリアさんと同じように、世界が見えているんだと思う。
 同じ世界観を共有できるから、こうして【滴】を共有して平和に暮らしてるんだよ。
 羨ましいよね。
 私にもエフォリアさんみたいに、神様扱いされるくらいのカリスマ性があればなー。
 そうしたらきっと、この【癒し】も共有できるのに。
 結構頑張ってるつもりなんだけどね。
 やっぱ格好良く死なないとだめなのかな。
 でも死にたくないし……」

「待ってテア、亜人族って【超能力】を共有している人たちなの?
 初めて聞いたよ。
 神様みたいな人のカリスマ性に惹かれて、集まった人たちの集団ってこと?」
「そうだよ。
 その一人がエフォリアさんってことだね。」
「その一人って、もしかしてテアは何人かそういう人に会ったことがあるの?」
「まぁね。すごいでしょ?」
「すごすぎるよ!
 ねぇ教えて!
 神様みたいな人ってどんな人?」
「どんなって……」
テアの口元が微笑むように歪む。
テアの口に巨大な物が当たる。
これは、酒樽だ。
しかもかなり巨大な。
どうやらテアは、急にまた酒を飲み始めたらしい。

なんでこのタイミング?

いや、いつまで飲むの?

「ねえクリシ、なんか私にはテアが、もう相当な時間飲み続けているように見えるんだけど、
 合ってる?」
「はい。もう五分以上飲み続けています。
 それも息継ぎなしでガブガブと。
 騒いでいたドワーフたちも気付き始めたようで、皆唖然として見つめています。」

五分以上息継ぎなしって。
それ急性アルコール中毒どころか、普通に窒息死でしょ。
まぁこれで、ようやくテアの強さがはっきりした。
この千歳を超える、到底普通ではない少女の中には【死】という概念がないのだ。
そりゃあ、ちょっとやそっとチート能力が使えるくらいじゃ、
このながいきモンスターには勝てないわ。

テアが樽を下ろす。
やっと満足したらしい。
そして荒々しい手つきで私の手をつかみ、唇に触れさせる。
「ろんなって、あんたみたいなひとらよ!
 このえあいさわぁー!」

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