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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

43.親父

ドワーフの町に入り、しばらく歩いたところで立ち止まる。
どうやら族長たちの屋敷に入ったようだ。

「『儂が話をつけてやるよ。
  嬢ちゃんたちは黙ってそこで待っていろ。』」
「わかりました。お願いします。」

私はクリシの手を握り、待つ。
若頭さんには【丸腰の少女二人きり】と言われてしまった。
しかし私にとっては、この暗闇の世界で手を取ってくれる人が、
一人でも隣にいてくれるだけで、とても心強い。
それに、本当に二人きりなのではない。
若頭さんもテアも、私を突き放すようなことを言っていたけど、
私が殺されるのを本当に黙って見ているような人たちではないと思う。
だから、きっと大丈夫。
今の私は、この暗闇の世界でも恐くない。
ただクリシの手のぬくもりだけを感じて、心穏やかに待つことができる。

いや 暗闇と言っても、本当はもっと色々わかることはあるんだけど。
まず気になることは、この空間が正直言って非常に汗臭いことだ。
それになんだか酒臭かったり焦げ臭かったりするし、とてもカオスな臭い空間だ。
しかも屋敷に入ったとたんに、気温が一気にあがった。
たぶん、たくさんのドワーフたちの筋肉から発せられる熱だと思う。
これほどの熱量を生み出すには、どれだけの筋肉量が必要なのか、想像も付かないけど。
総合的に言うと、とてつもなく男臭い空間だ。
そう意識すると、なんだかクリシの方からだけは、良い匂いが漂って来ている気がする。

いや、私にそういう趣味はないのだけど。
しかし最近の私はクリシに対して、そういう雰囲気になることが多いのは否めない。
それにこう認識に制限があると、イケメンとかイケボみたいなことはもうわからないし、
男とか女とかも、実際割とどっちでもいい気はする。
もしかすると、今の私はLGBTに含まれる、性的マイノリティなのかもしれない。
まぁでもこの世界には【処女の血を貯めた風呂に入るのが趣味】という、
恐ろしい趣味を持った王女とかがいるらしいし、王女クラスの権力者になれば、
マイノリティがどうとかで悩む必要なんて、一切ないんだろうけど。

しかし暇だ。
ちょっとクリシに様子を聞いてみよう。
「ねえ、今はどんな話の流れになってるの?」
「はい。
 私も何とかこの状況をエク様に伝えようと考えていたのですが、
 どうしても理解が追い付かないので、もうありのままに伝えますね。
 族長は怒って僕たちの小指を斬り落とそうと飛び掛かりました。
 ですが、若いドワーフたちが族長を止めてくれました。
 それでも族長の怒りはずっと治まらなくて、怒声を上げて暴れ狂っていたのですが、
 その中で若頭さんがいきなりナイフで自分の小指を斬り落としました。
 『正真正銘ドワーフの小指だ。よそ者の小指なんかより、余程上等だろ。これで決着にしよう。』
 ということです。
 そうしたら今度は族長たちが大泣きしだして、それで……

 いや、あとは結果だけ話させていただきます。
 もしそのバンダナが見つかったら、持ち帰っていいそうです。
 ただ、万が一そのバンダナが悪用されるようなことになったら、
 テアがそのバンダナをドワーフに返しに戻ると、約束しました。
 場合によってはエク様を殺してでも、必ず約束は守ると誓って、盃を飲み干しました。
 そして若頭は、ドワーフの町から追放されたようです。
 いや、この辺は僕には理解できなかったので、少し違うかもしれません。
 ただ、今夜は若頭の何かを祝って、盛大な晩餐が開かれるそうです。
 結果としては以上です。
 こうなった理由は僕にはわかりませんので、詳しくはわかる人に聞いてください……」

私はわかったかも。
あっちはマッチョたちによる任侠映画の世界なんだ。
いきなり異世界を見せられたら、それはクリシでもびっくりするよね。

クリシから漂う少女の香りを楽しみながら、私はそう思った。

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