静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~
34.【癒し主】
[人だかりができています。
 いるようですね。
 行きましょう。]
クリシに手を引かれ、馬車を降り、歩く。
しばらくして、立ち止まる。
クリシが【癒し】の人にお願いしているのだろう。
[村人の【癒し】が終わるまで、待っているように言われました。
 村人の方に待つように命令することもできますが、どうしましょうか?]
[いいよ。待とう。]
おそらく彼女の助けを求める病人がたくさんいるのだろう。
そういえば、なんだかすっかり馴染んでしまっていたけど、私も盲目難聴という障害を持っている。
もしかするとこれを癒やしてもらえるんだろうか?
[ここには盲目の人達も来ているの?]
[はい。盲目だった者が、彼女に触れられて目が開かれたりしています。
 ですが、申し上げにくいのですが、エク様の盲目は癒せないかと思います。
 実はエク様が倒れられたときに、コリー様が彼女を見つけ出して、
 診てもらったことがあるのです。
 しかし彼女にはエク様を癒せないと言われました。
 なんでも【本質が切り替わった】とのことで。
 ただ、きっと目を覚ますはずだと言われました。
 まさか7年もかかるとは思いませんでしたが。]
なるほど。
いくら金持ちの令嬢とはいえ、
意識のない人を何年も大切に看病し続けるというのは不自然な気はしていたが、
そういう理由があったわけだ。
ある意味、私にとっては命の恩人ということになる。
しばらく待っていると、知らない少女の手が私に触れる。
この少女が目的の人物らしい。
噂によると、数百年生きていて、剣を嵐のように降らせる盗賊団相手に勝てる強者だ。
しかし、その手は普通の少女だ。
いや、普通ではない。
まるで生まれたての赤ちゃんのような感触だ。
少女の細い手指には傷一つなく、驚くほど柔らかな弾力がある。
この手でどう戦ったのか。
まさにファンタジー世界の住人だ。
[おはよう。エクサティシーさん。
 すぐに目を覚ますと思っていたよ。]
7年かかったと聞いたけど。
数百年生きたエルフ的感覚で言えば、すぐなのかもしれない。
[それで、私にどんな用かな。
 今度はその目を診てみようか?]
クリシによると、おそらく癒せないとのことだ。
しかし、せっかくだから診てもらうだけ診てもらいたい。
[お願いします]
幼い少女の手の平に、敬語をなぞる。
違和感はあるけど、相手は数百年も生きた医者みたいな人だ。
敬意を払っても間違いはないはず。
少女の柔らかい手が私の目に触れる。
その指先から、なんだか温かいものが流れ込んでくる。
[ごめんね。
 だめみたい。]
やはり『本質が切り替わった』ということらしい。
しかし、つまりはどういうことなのか?
理解できるかはわからないけど、聞くだけ聞いてみよう。
[『本質が切り替わった』と聞きました。
 それってどういうことなんでしょうか?]
[貴女の中にある【本質】が、これを癒やされるべき障害だと認識していないの。
 私はそういうのは治せない。
 ごめんね。
 昔はそういうのも治せる人がいたんだけどね。
 私に似た力だったから、よく覚えている。
 というか正直言って、私より彼の方がこの【力】の意味や使い方を理解してたよ。
 だから私は彼に付いて行って、色々なことを教えてもらった。
 私の方が年上のはずなんだけどね。
 そんな年上の私に、色々なことを教えてくれるこの人は、一体どこから来て、
 どうやって学んできたんだろうって、不思議に思った。
 でも彼には秘密が多くて、過去もあまり教えてくれなかった。
 それで、最期の最期にわかったんだけど、
 実は彼の【力】は【相手のダメージを引き受ける】というものだったの。
 彼は最期に多くの人のダメージを背負って、死んでいった。
 壮絶な死に方だったよ。
 けど、彼はそれを選んだの。
 私にはそんな力、怖くてとても使えないと思う。
 本当に、強くて優しい人だった。
 ごめん。関係ない話だったね。
 それで、何だっけ?]
なんだかよくわからないけど、壮大な思い出話に脱線した。
まるでおばあちゃんだ。
[【本質】について教えて下さい。]
[その話だったね。
 貴女の中にある【本質】が、これを癒やされるべき障害だと認識していないの。
 だからこれを無理やり癒やすことは、【本質】にとってはダメージになってしまう。
 貴女にそんなつもりはないだろうけどね。
 けどだからこそ、そういう人は普通では辿り着けないような境地に至ったりするんだよ。
 もうどれくらい昔か忘れたけど、盲目なのにどこにも死角がないような、
 すごく強い剣士がいてね。
 だから、貴女もきっとそうなるんじゃないかな。]
私は盲目難聴だからこそ、辿り着ける境地を目指すべきらしい。
そんなところがあるんだろうか?
まぁ、とにかく今私が目指すべきは、ナノス君の前世の舞台だ。
[実はもう一つお伺いしたいことがあるのですが、貴女は昔……
 そういえば名前を聞いてもいいでしょうか?]
[名前?
 そんなものを聞かれるなんて、いつ以来かな。
 別に好きに呼んでくれていいんだけどね。
 私の名前は……
 なんだっけ?]
クリシが私の手を取る。
[私が聞いた噂によると、彼女の名前はテアティスです。
 【癒し主】とか呼ばれることが多いですが。]
[そう、そんな感じだったと思う。
 私はテアティス。
 自分で言うのは恥ずかしいけど、【癒し】の奇跡を担ってます。]
 いるようですね。
 行きましょう。]
クリシに手を引かれ、馬車を降り、歩く。
しばらくして、立ち止まる。
クリシが【癒し】の人にお願いしているのだろう。
[村人の【癒し】が終わるまで、待っているように言われました。
 村人の方に待つように命令することもできますが、どうしましょうか?]
[いいよ。待とう。]
おそらく彼女の助けを求める病人がたくさんいるのだろう。
そういえば、なんだかすっかり馴染んでしまっていたけど、私も盲目難聴という障害を持っている。
もしかするとこれを癒やしてもらえるんだろうか?
[ここには盲目の人達も来ているの?]
[はい。盲目だった者が、彼女に触れられて目が開かれたりしています。
 ですが、申し上げにくいのですが、エク様の盲目は癒せないかと思います。
 実はエク様が倒れられたときに、コリー様が彼女を見つけ出して、
 診てもらったことがあるのです。
 しかし彼女にはエク様を癒せないと言われました。
 なんでも【本質が切り替わった】とのことで。
 ただ、きっと目を覚ますはずだと言われました。
 まさか7年もかかるとは思いませんでしたが。]
なるほど。
いくら金持ちの令嬢とはいえ、
意識のない人を何年も大切に看病し続けるというのは不自然な気はしていたが、
そういう理由があったわけだ。
ある意味、私にとっては命の恩人ということになる。
しばらく待っていると、知らない少女の手が私に触れる。
この少女が目的の人物らしい。
噂によると、数百年生きていて、剣を嵐のように降らせる盗賊団相手に勝てる強者だ。
しかし、その手は普通の少女だ。
いや、普通ではない。
まるで生まれたての赤ちゃんのような感触だ。
少女の細い手指には傷一つなく、驚くほど柔らかな弾力がある。
この手でどう戦ったのか。
まさにファンタジー世界の住人だ。
[おはよう。エクサティシーさん。
 すぐに目を覚ますと思っていたよ。]
7年かかったと聞いたけど。
数百年生きたエルフ的感覚で言えば、すぐなのかもしれない。
[それで、私にどんな用かな。
 今度はその目を診てみようか?]
クリシによると、おそらく癒せないとのことだ。
しかし、せっかくだから診てもらうだけ診てもらいたい。
[お願いします]
幼い少女の手の平に、敬語をなぞる。
違和感はあるけど、相手は数百年も生きた医者みたいな人だ。
敬意を払っても間違いはないはず。
少女の柔らかい手が私の目に触れる。
その指先から、なんだか温かいものが流れ込んでくる。
[ごめんね。
 だめみたい。]
やはり『本質が切り替わった』ということらしい。
しかし、つまりはどういうことなのか?
理解できるかはわからないけど、聞くだけ聞いてみよう。
[『本質が切り替わった』と聞きました。
 それってどういうことなんでしょうか?]
[貴女の中にある【本質】が、これを癒やされるべき障害だと認識していないの。
 私はそういうのは治せない。
 ごめんね。
 昔はそういうのも治せる人がいたんだけどね。
 私に似た力だったから、よく覚えている。
 というか正直言って、私より彼の方がこの【力】の意味や使い方を理解してたよ。
 だから私は彼に付いて行って、色々なことを教えてもらった。
 私の方が年上のはずなんだけどね。
 そんな年上の私に、色々なことを教えてくれるこの人は、一体どこから来て、
 どうやって学んできたんだろうって、不思議に思った。
 でも彼には秘密が多くて、過去もあまり教えてくれなかった。
 それで、最期の最期にわかったんだけど、
 実は彼の【力】は【相手のダメージを引き受ける】というものだったの。
 彼は最期に多くの人のダメージを背負って、死んでいった。
 壮絶な死に方だったよ。
 けど、彼はそれを選んだの。
 私にはそんな力、怖くてとても使えないと思う。
 本当に、強くて優しい人だった。
 ごめん。関係ない話だったね。
 それで、何だっけ?]
なんだかよくわからないけど、壮大な思い出話に脱線した。
まるでおばあちゃんだ。
[【本質】について教えて下さい。]
[その話だったね。
 貴女の中にある【本質】が、これを癒やされるべき障害だと認識していないの。
 だからこれを無理やり癒やすことは、【本質】にとってはダメージになってしまう。
 貴女にそんなつもりはないだろうけどね。
 けどだからこそ、そういう人は普通では辿り着けないような境地に至ったりするんだよ。
 もうどれくらい昔か忘れたけど、盲目なのにどこにも死角がないような、
 すごく強い剣士がいてね。
 だから、貴女もきっとそうなるんじゃないかな。]
私は盲目難聴だからこそ、辿り着ける境地を目指すべきらしい。
そんなところがあるんだろうか?
まぁ、とにかく今私が目指すべきは、ナノス君の前世の舞台だ。
[実はもう一つお伺いしたいことがあるのですが、貴女は昔……
 そういえば名前を聞いてもいいでしょうか?]
[名前?
 そんなものを聞かれるなんて、いつ以来かな。
 別に好きに呼んでくれていいんだけどね。
 私の名前は……
 なんだっけ?]
クリシが私の手を取る。
[私が聞いた噂によると、彼女の名前はテアティスです。
 【癒し主】とか呼ばれることが多いですが。]
[そう、そんな感じだったと思う。
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