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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

24.魔獣

クリシに手を引かれて走る。
時々突風に拭かれて倒れ、急に方向転換ながら、『魔獣』とやらから逃げ続ける。
しばらく走っていると、ふと風がやんだ。
建物に入ったようだ。
[ここならひとまず安全です。
 お怪我はありませんか?]
[私は平気だよ]
[それは良かったです。
 夜にこの辺りの畑を猪が荒らしているという話はあったのですが、まさか昼間に表れて、
 しかも風を操る魔獣だとは……。
 申し訳ありません。]
[クリシが守ってくれたし、何も問題ないよ。
 それより、この村は大丈夫なの?]
[村の男達も戦っています。
 後は被害が出るまでに、スタシモティタが間に合うかですね。]

そうだ、こういう時には男の人達は命を懸けなければいけない。
アピロスさんの前世を見てから、女の人にばかり同情していたけど、
男の人達にとっても厳しい世界だ。
この世界は誰にとっても、安全な楽園ではない。

[こういうことはよくあるの?]
[よくあるというほどではありません。
 魔獣の方も僕達と戦いたいわけではないでしょうから。
 ただ、獣の形跡があるのにあまり放置していると、
 気付いたときには村が全滅していたということもあります。
 今回はスタシモティタがこの村の異変を調査して、
 場合によっては討伐計画を練る予定でした。
 まさか、いきなり遭遇するとは予想していませんでしたが。]

今回のことは割とレアケースだったようだ。
しかし、だからこそ事態がどう転ぶかはわからない。
私にできることがあればいいけど、見えない聞こえない人間が戦っても、
死人が一人増えるだけだ。

[心配要りません。
 スタシモティタより強い魔獣なんて、滅多にいませんから。
 きっと何とかしてくれます。]

そうだ、なんたって時を止めるということだ。
多少風が強かろうと、牙が鋭かろうと、関係ないだろう。
今はただ、彼を信じて待とう。

ふと、私の手が誰かに強く引っ張られる。
[この村は大丈夫なのですか?]
手の震えから、とても強い不安が伝わってくる。

不安なのは私だけではない。
むしろ、スタさんがいると知らない彼女の方が、不安なのだ。

[大丈夫ですよ]

ここには他にも不安を感じている人達がいるのかもしれない。
今の私に何かできることがあるとしたら、その人達を安心させることだろう。

私はクリシの手を取る。
[この人達に安心してって、伝えてあげて。]
少し間が開いた後、クリシは私の手を両手で握手する。
了承するには、少し葛藤があったようだ。

もしかしたら、また何かの中世身分カルチャーショックがあったのかもしれない。
しかし、そんなものは緊急事態にあっては関係ないと思う。

静かな時間が流れる。
きっとクリシが周りの人達に声をかけているはずだ。
しかし、確かなことはわからない。
きっと、外からはゴウゴウと突風の吹く音がしている。
たぶん、建物は風でゆらゆらと揺れているだろう。
もしかすると、今まさに入口から魔獣が侵入して来たかもしれない。
しかしもしそうだとしても、私には何もできない。
これでは、主人公の助けを待つだけの無力系ヒロインだ。
少し憧れていたシチュエーションではあるけど、いざ体験してみると不安感で潰されそう。
ヒロインサイドからしたら、戦う系ヒロインをさせてもらえる方が精神的に楽かもしれない。
まぁ、無いものねだりをしていても仕方がない。
むしろ、これだけ無力な人間が安心した表情で堂々としていれば、
周りの人達の不安を和らげることができるかもしれない。
余裕に溢れた表情を作っておこう。
もうずいぶん鏡を見ていないけど、多分こんな感じでいいはず。

[もう大丈夫なようです。
 被害も、少し怪我人が出たくらいで、特に無さそうです。]

無事解決したらしい。
さすがはスタさん。

[皆エク様に感謝しています]
[私はクリシに連れられて逃げてただけなんだけどね]
むしろスタさんに言うべきだろう。

スタさんの大きな手が触れる。
[群れからをはぐれて興奮した魔獣が紛れ込んだようです。
 まだ群れが残っているはずなので、私はこのまま調査を始めます。]
[みんな感謝してたよ]
[それが役目です]
スタさんは淡々と答える。
頼りになる人だ。

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