話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

12.ギラギラ

[前世ではないようですね。]
[私はかわいいと思うよ。]
[そうですか。
 それにしてもなぜ僕とかわいい犬が結びつくのか、不思議です。]
[前世が犬だったんじゃない?]
[僕は子供達を帰してきますので、失礼します。]

行ってしまった。
ちょっとからかいすぎたかな。

今では身体能力的には問題なく歩き回ったりできるようになった。
しかし、やはりクリシがいないときは大人しく寝ているしかない。
だから、というわけではないけれど、帰ってきたら謝ろう。

それにしても、光と音の世界を体験したのは久しぶりだ。
懐かしいけれど、やはり今となってはなんだかうるさく感じてしまう。
植物の記憶が一番心地良かったな。
あと、目の前のことしか考えていない犬の記憶も、実際好き。
人間として、ギラギラガヤガヤした世界で、
人類の命運とか明日の食糧とか考えなければいけない生涯というものは、
実は大変な方なのかもしれない。
目の前にあるうまいものを食べて、目の前にいるちょっとした敵と戦う。
それくらいの方が気楽で良い。
そうすると今の私のように、直接触れられるものしか感じない世界の方が、幸せと言えるのかも。

こんなことを考えていられるのも、平和だからなんだろうけど。

そういえば、この世界には【奇跡】と呼ばれる不思議な力があるらしい。
私が持っているくらいだし、もしかすると【奇跡】を得ている人はたくさんいるのかもしれない。
とすると、奇跡の力で悪いことを企む輩もいるかも。
そして、そんな輩と戦う勇者もいたりするのかもしれない。
この世界は本当に平和なんだろうか?

不安になってきた。
平和でない可能性を思いついてしまう人間の知性が憎い。
またクリシに触って犬になりたいな。

[ただいま戻りました]
[クリシ、さっきはごめん。]
[あなたが謝ることなんて何もありませんよ]
[怒ってない?]
[仮に怒っているとしても、僕の心が狭いからです。
 エクサティシー様のように、寛容な心を持てない僕の落ち度です。]

やっぱり怒ってる。
それに、なんというか硬すぎて謝る隙もない。
もうちょっと柔らかく話がしたい。
そうだ、呼び方を変えてもらおう。

[その呼び方大変じゃない?『エク』でいいよ」
[いくらなんでも寛容すぎます。怒りますよ?]
[怒っていいから、『エク』って呼んで。]
[呼びません]

呼んでくれないし、たぶん怒られた。

[ごめん]
[何か謝ることがありましたか?]

どうしよう。
全く隙が見えない。
どうやら想像以上に怒っているし、想像以上に私の方が謝ることは許されない関係らしい。
そんなに身分とは重要なものなんだろうか?
私はそうは思わない。
怒っているなら、ちゃんと対等に怒って欲しい。

[それでは、私も『クリシ様』って呼ぶことにしますね。クリシ様。]

庶民的な方で対等になれないなら、高貴な方で対等になろう作戦。
クリシが動揺していることが、手から伝わってくる。

[本当に記憶喪失になられたのですね、エク様。]

『エク様』が妥協案らしい。
これで少しは気楽に話せるかな。

[ただ、僕の前世のことは、あまりよそには出さないでください。
 僕はいいのですが、エク様の品性が疑われます。]
[私はかわいいと思うけど]
[エク様がどう思うかは関係ありません。
 貴女はイリンイ家の娘なのです。
 それをわきまえてください。]
[ごめん]
[いえ、本当に責めているわけではありません。
 エク様は記憶喪失ですし、ただ見えたことをそのまま伝えただけですから。]
[ありがとう]

クリシが私のためを思って言ってくれていることは間違いない。
それに乙女の秘密(かわいい)をばらすのは、普通にダメだ。
このことは胸の奥にしまっておこう。

「静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く