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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

9.知らない私

コミュニケーションを取るようになってから、数か月がたった。
あれからおはようさんは私の手を取り、色々な文字を教えてくれた。
おかげで、今ではちゃんと人とコミュニケーションがとれるようになっている。
そして、私を取り巻く人間関係も段々とわかってきた。
まず、私の名前をカタカナで表すとすれば[エクサティシー・イリンイ]といった感じのようだ。
いわゆる令嬢らしい。
そしておはようさんの名前は[クリシ]だ。
クリシは私の屋敷のメイドで、私の世話を任されているようだ。
医者だと思っていたごつごつした手の人は、私のお父さんだった。
名前を[コリー・イリンイ]という。
お父さんはこのあたり一帯の領主とのこと。
お母さんは[カテトローティタ・イリンイ]だ。
いつ見ても若くて美しい女性だと評判らしい。
この屋敷には、他にも多くのメイドさんや兵士がいるようだ。

ふと、私の右手に小さな手が触れる。
知らない手だ。
手の大きさからして、小さな子供らしい。
そして私の手の平に文字をなぞる。
[ありがとう]

また身に覚えのない感謝をされてしまった。
エクサティシー・イリンイさんは、小さな子供にも人気のある人物だったらしい。

今度はメイドのクリシが私の手を取る。
[思い出されましたか?]

どうやら周りの人たちの中で、私は記憶喪失ということになったらしい。
しかし、私にとっては思い出すも何も、全く身に覚えのないことだ。

[いいえ]
[そうですか]

クリシは寂しそうだ。
せめて私も過去の記憶を寂しく思うくらいはしてあげたい。
けれど今の私には、中世より500年以上先のIT時代に生きた日本人だという感覚しかない。
今のエクサティシー・イリンイという私のことは、どうしても他人ごとに思えてしまう。

クリシが続けて私の手をなぞり、伝える。
[エクサティシー様は幼いころ、貧民街を見ました。
 そこで自分よりもさらに幼い子供が、飢えに苦しんでいる様子を見られて、心を痛められました。
 心優しいエクサティシー様は、貧しい子供たちが飢えることがないように、
 少しずつ活動を始められました。

 しかし、エクセティシー様は事故で寝たきりになられました。
 ですが、その後も子供たちを助ける活動は、お父様により続けられています。
 お父様はエクセティシー様に向けていた愛を、貧しい子供たちに向けるようになられました。
 今では子供たちに学びの機会まで与えてくださり、
 こんなに小さな子供でも文字が書けるようになりました。

 僕もその一人です。
 エクセティシー様は、僕を含め、ここにいる皆の命の恩人です。]

エクセティシー様、なんていい人なんだ……
私のことなんだけど。
こんなに尊敬されている人として生まれ変われるなら、盲目難聴だとしてもプラマイゼロかも。

また別の小さな手が私の手を取り、[ありがとう]と伝える。

なぜか申し訳なくなってくる。
エクセティシー様じゃない私も何かしないと。
頭を撫でてあげよう。

私は手を伸ばし、その子の頭に触れる。

その瞬間、私の頭の中にイメージが入ってくる。



巨大な本棚に囲まれている。
部屋の隅には巨大な猫がいる。
ソファのようなものの上で、ガリガリと爪を研いでいる。

このサイズ感からして、きっと自分自身も猫なんだろう。

視点が移動し、籠のようなものの中に入る。
そして視界が閉じていく。

どうやら、丸くなって眠り始めたらしい。



[どうしました?]
クリシが私の手を取り、呼びかける。

今のは何だったんだろう?
そういえば、前にクリシのおでこに触ったときも、違和感があった。
私はまた手を伸ばし、今度はクリシの頭に触れる。

頭の中にイメージが入ってくる。

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