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静かなところにいる ~転生したら盲目難聴でした~

あきや

8.私は誰?

私は今、中世ヨーロッパの貧民街で、悪い男たちに目隠しをされている。
男たちは私のお腹にろうそくを垂らし、熱がる様子を楽しむ。
私が「やめて」とお願いするほど、男たちはそれを楽しんでろうそくを垂らし続ける。
しかしそこに、突然メイドの格好をした少女が現れる。
メイド少女は華麗な投げナイフで男たちを倒し、私に駆け寄り、涙を流して私をハグする。
そしてろうそくを手に取り、興奮した表情で私の体の上にろうそくを掲げ……

というところで目を覚ます。
酷い悪夢を見た。
いや、もうどこからが悪夢なのかはわからないけれど。
とりあえず盲目難聴は現実のようだ。
あのろうそくは夢だろうか?
ろうそくがあったところに手を伸ばす。
棚はあるが、その上にろうそくは置かれていない。

中世ヨーロッパは夢か。
変な夢だった。

と思っていると、おはようさんが私の右手をつかんだ。
そして私の指先にろうそくを触れさせる。
ろうそくの先の方がほんのり温かい。
火がついているようだ。

おはようさんが私の前で、火のついたろうそくを持っている……
興奮した表情で!?

いや、たぶん私が棚のほうに手を伸ばしたのを見て、
火がついているろうそくを倒したらいけないと思い、ろうそくを取り上げたのだろう。
そして私が棚の上を手探りしている様子を見て、ろうそくを探しているのだと考え、
こうして私にろうそくに触れさせた、ということだ。
おはようさんはクレイジーなレズじゃない。
と思う。

コミュニケーションは取れるようなので、一応確認してみる。
『私はおはようさんにろうそくを垂らされると思い、恐かった』と、何とかして伝えよう。

私はおはようさん(のいるであろう方向)を指さす。
次に私自身を指さす。
ろうそくの上から私のお腹へ指先を動かす。
驚き、震えるジェスチャーをする。

これで伝わるだろうか?

反応がない。
困惑しているらしい。
どうやらおはようさんの中に、ろうそくと言えばSMプレイという発想はないようだ。
良かった。
そうするとむしろ、垂らしてくれとお願いしているように見えたかもしれない。

私は慌てて両手で×とサインする。
もしここが異世界だったら、これでは伝わらないかもしれない。
念のために手でお腹を守る。

しばらくして、おはようさんは温かい手で私の唇に触れ、次に私のお腹を軽く叩いた。
そして私の手を取り、何かをなぞる。
その手は少し震えていた。

もしかすると、前にスープをこぼしたことを怒っていると解釈されたのかもしれない。
とすると、[ごめん]と謝られたのかな?
誤解だ。
解かないと。

私もまた、[ごめん]となぞり返す。
続けて[ハグ]となぞり、両手でおはようさんの手を握る。
おはようさんもまた、両手で握り返してくれる。

誤解が解けたかはわからない。
けれど少なくとも、今は怒ってないことは伝わったらしい。
そして、ここはろうそくに火をつけて明かりにするのが当たり前の世界観のようだ。
もう異世界であることを受け入れよう。


覚悟を決めていると、おはようさんは指先で私のおでこに触れる。
そして私の手を取り、何かをなぞる。

[おでこ]だろうか?
もしくは[私の名前]かもしれない。

次におはようさんは私の右手を取り、人差し指を突き出す形にする。
そしてその指を動かし、おはようさんのおでこに当てさせる。

ぼんやりと、自然の中を歩いている光景が思い浮かぶ。
なんだろう?
前世の記憶にある景色かな?

とにかく、今はおはようさんとのコミュニケーションに集中しなくては。

すぐにおはようさんは私の指先をおでこから離し、手の平に何かをなぞる。
先ほどとは違う文字だ。

これが[おはようさんの名前]で、その前が[私の名前]ということだろうか。
もちろん発音はわからない。

続けておはようさんは私の手をおはようさんの胸に当てさせる。
心臓の鼓動を感じる。
そして手を取り、なぞる。
[命]か[胸]かな?

そして次に[ハグ]となぞり、私を抱きしめる。
その頬には暖かい液体が流れている。

これでメッセージは終わりらしい。
どういう意味だろう?
[私][おはようさん][命or胸][ハグ]
[胸]だとすると『私はおはようさんの胸をハグした(責任取ってよね)』だけど、
さすがに違う、と思う。
それじゃあ、何だろう?
私もおはようさんも生きていて良かった?
私はおはようさんの命を助けた?
わからない。

とにかく、おはようさんは何らかの理由で私のことを大切に思ってくれているようだ。
全く身に覚えはないけど。
きっとここは異世界で、しかも見知らぬ誰かとして生まれ変わったのだろう。
盲目難聴で異世界転生なんて、悪夢のような話だけど、
こうして私を大切にしてくれる人が傍にいるのなら、悪くないと感じている。

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