バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄

XXXⅢシェリー

[ショーマSide]

今日は、金曜日。
今日も仕事をしっかり片づけて定時で上がったであろう彼女は、大体この時間帯になると店に顔を出す。

カランカラン。
___ほら、噂をすれば。


「おまかせで」


迷うことなく真っ直ぐ歩いてきてカウンターの壁側、端の席に腰を下ろした彼女は一杯目は俺のおまかせでいいらしく、作業する俺をじっと見ながら待つのがいつもの流れ。

作ったカクテルを「お疲れ様」と言葉と共に出せば、口元を緩めて嬉しそうに微笑みながらオレンジ色の液を口に含んだ。


「んふふ、おいしー」

「お褒めの言葉ありがとうございます」


アヤナが幸せそうだとこっちまで幸せな気分になる。
それと、俺と付き合ってからはカクテルをグビグビ飲む癖を直してくれたようで、ゆっくり飲むようになった。

ねぇねぇショーマ、と唐突に周りを気にしながら小声で話してきたアヤナ。
なんだろうと顔を近づけて聞き耳をたてれば、


「ドレスなんだけど___…」

「すみませ~ん」


そう切り出した___けど、運悪く別のお客様に呼ばれたためそっちに行くことに。


「この話はまた今度でいいや」


行ってきなよ、とカクテルを飲みだしたアヤナを横目にその客様の元へ行き、注文を受ける。
そうそうお察しの通り、俺とアヤナ結婚することになりました。

先月、付き合って2ヶ月記念の後アヤナの両親に挨拶に行くはずが、両家集まっての食事会になってしまい、そこで付き合っていると打ち明けたら皆が大喜び。

そして勢いで結婚しましょうって話になって、その日のうちに両家の予定を確認し合って、次の週には結納を済まし、4ヶ月後にはなんと式を挙げることになってしまった。

なんて急なんだ。勢いって怖い、と思ったけどアヤナと結婚できるっていうんだから、願ったり叶ったりだ。
ずっと欲しいって思っていた人がこんなにもあっさりと隣にいる。

これほど幸せなことはない。


「お待たせいたしました」


お客様のカクテルを作り終えると大体の方が「この後空いてませんか?」など誘いの言葉をかけてくる。
アヤナの方をチラチラ見ながらね。

何故かはしらないけど、俺を誘う女性は必ずと言っていいほどアヤナを気にする。

きっと競争せずにいつもカウンターに座っているからだろう、と思う。カウンターは俺か來目当ての客が争う、競争率が高い席だから。
その席にいつも同じ端の席に座れる女がいるって知ったらしりゃあ噂にもなるよね。

俺か來が気に入ってるんじゃないか、どっちかの女なんじゃないかって噂も耳にしたことがあるくらい。
本当、俺の女っていう噂が本物になればいいのにってずっと思ってた。

でも、今やその願いが本当になったから幸せすぎて怖い。


「すみません、この後は店の片づけや私用もあるもので…」

「明日は?明日がダメなら来週でもっ」


頬を染めて少し恥ずかしそうに予定を聞いてくる姿は、まぁ…可愛らしいけど、コレが目に入っていながらこんな風に声を掛けてくるのはどうかと俺は思うな。
「あの」

「は、はいっ」

「俺、婚約者がいるんです。そういうお誘いはお受けできません」

「…っ、」


ハッキリ俺の口からそう聞き、顔を強張らせた女性だけど諦めきれないのかまた口を開こうと息を吸った。


「それでも構いません___なんて言わないでくださいね?」


___そんなの、彼女が言う前に俺が遮るまで。

言おうと思っていた言葉が図星だったようで、顔を真っ赤にして唇を噛みしめる女性に思わずため息を吐きそうになった。
アヤナがこの空間にいるっていうのに…ここまでしつこくて面倒なのは見せたくなかったな。


「こういう事は、相手のいない男性のみにしてください」


「貴女の品格をこれ以上下げたくはありません」と彼女だけにしか聞こえないように耳元で囁いて、俺が気になってチラチラ見てたアヤナの元へと戻った。

視界の端に映ったしつこかった女性は囁かれた耳を抑え、顔を赤く染めてソワソワしてた。


「すっごいモテてますね、ショーマさん」


ジーっと見つめるアヤナ。
口を尖らしながらグラスに入った最後の一口を口に運んだ。


「まぁ、分かりきったことだけどね」

「…そう」
「嫉妬はするよ、でも仕事だから仕方ないし、ショーマにその気がないのも分かってるから…」

「ふ…アヤナっていい女だよね」


いい女すぎてさらに好きになる。
そんなアヤナは耳を赤く染めて照れていて、俺を直視できないその仕草がたまらなく可愛い。

今すぐ家に連れ帰って、ベッドに縫い付け、めちゃくちゃ抱きたい。そんな衝動に駆られる。あー、ダメダメ。仕事中だというのにアヤナのそんな可愛いものを見ただけで理性が揺さぶられる。

とんでもないよ、俺の彼女は。簡単に理性なんて飛ばしそうになるんだから。
グッと堪えて、本能に負けないように理性で押し潰すけど、


「しょ、ショーマあのさっ…」

「ん?何?」

「シェリー…飲みたいなー、なんて…へへっ」


___やっぱり、簡単に理性の壁なんで壊してくる。


「…アヤナ」

「うん?」

「今日、覚悟しておいて」

「えっ!?」


俺の真剣な顔を見てとたんに焦りだしたアヤナを放って、無心でシェリーを作り、空になったグラスと交換する。


「どうぞ、シェリーです」


___それはもう、とびきりのスマイルと共に。
俺の完璧な笑顔に顔を引き攣らせるアヤナは今更ながらに後悔をしているようで、シェリーを頼んでしまった時点で俺は後戻りなんかさせる気はない。






「っ…きゃっ、」


俺の仕事が終わるまで返すことはせず、一緒にマンションに帰って早々に寝室のベッドにアヤナを押し倒した。
跨って上から見るアヤナの焦りながらも恥ずかしがる姿は絶景としか言いようがなくて、早くこの身体に俺の手を這わし、キスをして、疼き始めているだろう秘部の奥に俺自身を埋めたい。


「ショーマ、お風呂っ…」

「後でいい」


お風呂なんて後回しにしてしまうくらい余裕がないし、早く抱きたくてしょうがない。
それほどまでに俺の体も熱を持ち、疼いている。

お店でアヤナが煽った時から、作業する手を止めてヌきに行きたいなと思いながらもずっと我慢してたんだ。

___だから、その責任はちゃんととってもらわないとね。


「お店で煽るなんて、ほんとクレイジーだよね」

「いや、あれはっ…ほんの出来心で」

「へぇ、じゃあ天然ものってわけ」


待って、と俺を制する言葉を無視して啄ばむ様なキスをすれば、段々とその気になってきたのかキスに応えるようにアヤナからも返してくれる。
入れて、と言わんばかりに薄く開かれた口に舌を入れると貪るようなキスへと形を変えた。
先ほどとは打って変わって、息も少しずつ上がっていき、キスをしながら脱がせていた服はベッドの下へと投げ落とす。
一度キスを止めて身体を離せば、銀の糸が唇と唇とを繋ぎ、今しがた行っていた接物の淫らさを表しているようだ。

それを視界に捕えたアヤナはブワァっと体温を上昇させ、手で顔を覆った。

今さっき「もっと」ってねだっていたのに、何そのウブみたいな反応は。あぁ、くすぐられる…そういうの逆効果だって知ってる?


「もっと、いじめたくなる」


そそられる仕草に表情。
唇を舐めて、美味しそうな白い首筋に甘く噛みついた。


「あぁッ…あと、つけない、で…っ」


そんなお願い聞き入れてもらえないって分かってるくせに___と、口角を上げて意地悪心に火がついてる俺は鎖骨辺りに吸い付き、降下すると胸にも1つ華を咲かせた。


「……やだって、言ったのに…」


涙目で睨みつける彼女を下から見つめるけど、その顔も最高だし、今のこの眺めが一番最高。
我慢せずに目の前の柔い膨らみに口づけをして敏感な突起を舐めあげれば、「あッ…」と鼓膜を震わせる甘い声で啼く。


死ぬほど可愛い。
アヤナの表情から読み取っても「イヤ」は口だけで、身体はこんなにも反応している。嫌よ嫌よも好きのうち、ってね。

甘く掠れた声。
汗ばむ身体。
湿った吐息。
乱れたシーツ。

カーテンの隙間から差し込む月の光がベッドの上で交わる俺たちを照らし、床には重なる男女の影がゆらゆらと揺れる。

___その後、続けて2回抱いて休憩を挟むと3回目を数十分前に始め、今はアヤナが俺に跨り見下ろす形になっている。

シェリーの意味は“今宵はあなたに全てを捧げます”

そんな彼女に俺は極上の夜を与えた。

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