バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄

XXX XYZ

結果から言うと、あの日から私はショーマの彼女になった。
過去にショーマには彼女がいたけど、どの彼女も本気で好きにはなれなかったらしい。過去を遡れば私が中学の時から意識していたとかいなかったとか…。

その時の私はと言うと正直ショーマは兄的存在でしかなかったから、その話を聞いたときちょっと申し訳なくなった。

アメリカに行ってしまう時は私が見送りの時思ったより平気そうだったから割と本気でヘコんだらしいけど、あの時の私は強がって悲しく見せないように泣かないようにって必死だったんだよね。

…私のあの時の態度のこともあって、少しだけしか信じてもらえなかったけど。そんな昔話をした後、ショーマのお酒をいつもみたいに飲みながら家まで送ってもらった。

その後も順調で、デートもしたしキスも付き合って2週間後くらいにした。


だけど、付き合って1ヶ月半___まだ手を出されていない。

男だよ?ねぇ、男だよ?手を出してこないってある?いや、ないね。
もしかしてインポってことはないよね?
いや、そんなまさか……でも、まさかがないわけでもないかも。

1千万分の1でもしかしたらそうなのかもしれない。
あり得ないとどこかで思っていながらも、そう想像したら体がブルリと震えた。


抱いてもらえないのは、女として嫌だ。
私を大事に想っていてくれてまだ手を出してこないのか…それとも、本当にインポで手が出せないのかのどっちか。


「試してみるしかない」

私はあることを思いつき、それを行動に移すことにした。
扉を開けばいつもの音色が私をお出迎えする。すると、次はショーマの声が私のを迎えてくれる。


「いらっしゃいませ」


温かい瞳と共に…。
スツールに座ってから今日彼に頼むのは、正常な私なら絶対頼まないようなもの…というかそのカクテルの意味を調べるまでカクテル言葉なんて知らなかったんだけど。
それをわざわざ調べてまでここにきたんだからそれなりの反応が欲しいとは思う。
恥かしがるのか、怒るのか、余裕を見せるのか___欲情してくれるのか。
一体どんな顔が見れるのか楽しみで仕方がない。


「今日は何がいい?」

「今日はね、飲みたいものがあるんだ」

「何?」


私がリクエストするのはもう何回目だろう。もちろんお任せの日もあるけど、今は昔より自分からリクエストするのが多くなったと思う。

ねぇ、私が今頼もうとしてる者の名前を言ったらショーマはどう思うかな。
早く見たい、その表情が崩れるのを。


「XYZ」


早く___見せて。


「……」


あらら、ものの見事に固まって動かなくなってしまった。まさかこんなにも威力があるんなんておもわないじゃん?


「おーい、ショーマ?」


顔の前で手を振れば正気を取り戻したショーマにニコリと笑い掛けてみたけど___真剣な顔つきをしたもんだから笑うのを止めた


「本気?」

「本気だよ」

ほら早く私の為に作った作った、と作業に取り掛からせると私のことがまだ気になるのかチラチラこちらを伺いながらXYZを作るショーマ。
私がいいって言ってるんだからさ…そんな風に確認するような瞳で見なくていいんだって。

「本当にいいわけ?」と言いたげな瞳を向けながら作られたXYZが目の前に置かれ、すぐにそれに手はつけず見つめる。

柑橘系で爽やかなショートカクテル。
本当は最後らへんに飲むのがいいんだけど、一発目だと度数が強いから少しだけレモンジュースを多くして飲みやすくしてもらってる。

ショーマなりの気遣いだ。


「ねぇ、なんで私がこのカクテル頼んだか分かるよね?」


わからないとは言わせない、そう目で訴えるとショーマはゴクリと唾を飲んで観念したように息を吐いた。

「分かったよ」

その一言が聞けただけで私は満足だ。
約束を取り付けてしまえばショーマは破ったりしないことを私は知っているから。


「じゃあ、部屋で待ってる」


周りに聞こえないように、彼にしか聞こえないように呟くと飲みやすく作られたXYZを流し込んで席を立った。
いつものようにコースターにお札を挟むことも忘れずにね。

お店を出てから鼻歌を歌い向かったのは、もちろんショーマのマンションで、鍵を人差し指にかけてクルクル回しながらエレベーターで上へと上がると恋人の特権である合鍵で部屋にお邪魔した。


「相変わらず綺麗な部屋」


本当に使ってる?住んでる?そう問いたくなるくらい綺麗な部屋。
思わずモデルルームかよって突っ込みたくなるくらい綺麗だから。
私が何度この部屋に来ようと、次訪れた時には元通り過ぎてマジで驚く。
別に私の部屋がごみ屋敷のように汚いわけじゃなくて、言うならばそこら一般の部屋と変わらないくらいの綺麗さなのにショーマの部屋ときたら綺麗すぎて神経質なの?潔癖なの?と言いたくなるくらいだ。
リビングに行けば…ほら、リモコンがきっちり並べられている。

床に物1つ落ちてない、キッチンも洗いものだって残ってないし、シンクも垢なんてなくてピカピカだ。
こりゃ2日に1度のペースで洗ってるな。


「まぁ、そんなの気にしないけどね」


ショーマが帰ってきたときもしかしたらお腹空いてるかもしれないし、その時用と作っておいて冷蔵庫に入れてしまえば明日も食べれるからとご飯を作ることにした。
キッチンを使う承諾は付き合った時にもらったから問題はないわけだ。

私だってきれいに片づけるし拭いたりするけど、私がいないときにどうせショーマがピカピカにしてしまうことだろう。


「味噌汁と……肉じゃが食べたいな」


結局私が好き物を作ることに決め、調理に取り掛かること1時間弱…部屋に美味しそうな匂いが漂い、お腹の虫を誘い出す。
匂いによって小腹がすいた私は、我慢せずに皿に肉じゃがを盛り付けて胃を満たしていくと頬を緩ませながら自分の作ったものを絶賛した。

その後は、部屋の気になるところを片付けてお風呂に入ると勝手にショーマの服を借りて“彼シャツ”と言うものを体験してソファーに座ってテレビを鑑賞していた。

どれくらいただただテレビを観ていたんだろう…ハッとして時計を見てみれば午前0時を回っていた。

もう少しすればショーマが帰ってくるころ。早く帰ってこないかな、なんて待ち遠しく思ってる。

ケータイ弄ってみたり、本棚から気になったものを抜き取ってパラパラ読み漁ってみたりしてショーマが帰ってくるのを今か今かと待つ。


「てか、この本棚ほとんどカクテルのものばっかで普通なのがないんだけど」


約300冊以上は入るだろう本棚にはびっしりと本が入っていて、そのほとんどがカクテルに関するものばかり。
本当どれだけ勉強熱心なんだって感心させられる。
あ…カクテル言葉の本だ。
並んだ本を指でなぞっていると、ふと目に入ったその本で指を止めて抜き取ろうとした時。

___ガチャン。
玄関の鍵が回される音がした。

「ただいま」と声が聞こえて主人の帰りを待っていた従順な犬の様にショーマの元へと向かった。それはもう、ちょっとショーマが一瞬引くくらいの勢いと目の輝きだった。

それよりもショーマは私を上から下まで見た途端目を少し見開いて固まると、グッと眉間に皺を寄せて溜め息をついた。

え、何これ?どゆこと?何事?今の流れで、私溜め息吐かれるようなことした?
いや、してない!絶対してない!なんで溜め息吐かれなきゃいけないんだ!


「ねぇ、なんでそんな格好してんの?」

「え?」


もしかして、溜め息の原因ってこの格好のせい?ますます意味が分からないぞ。


「誘ってんの?」

「さそっ…え?」

「言い方間違えた。今すぐ襲っていいの?」

「おそっ…!?はい!?」


なんでそうなるの?!普通にお帰りって出迎えたらすぐこれかよ!確かに誘ったけど、それはお店での出来事であって今じゃない。
いったいどこにムラッときてんだ。


「彼シャツとか反則だし、どうせノーブラでしょ」
わぁお、なんで知ってんの。大正解かよ。
お風呂入った後、基本ノーブラの私だけどそのことをよく知ってるショーマは恥ずかしげもなくそう言い頭を抱えるようにセットされた前髪をクシャッと崩した。


「先に風呂入る。そのあとご飯食べるから」


それだけ言って脱衣所へと消えていってしまったショーマ。
私はその場に突っ立っているわけにもいかず、ご飯を温め直すためにキッチンへと体を方向転換させた。

それから15分程度でお風呂を入り終わったショーマはお腹空いたなんて言いながらテーブルに腰かけて、その目の前にアヤナちゃんの特製肉じゃがやみそ汁などを置くとものの数分でお皿から消えてなくなってしまった。

どんだけお腹空いてたんだい。


「ん。美味しかった」

「それは良かった」

「デザートも欲しいんだけど」

「デザート?」


それは用意してないからさすがにないんだけど。それはまた今度作ってあげる、そう言おうと思っていたのに…。


「とびっきり美味しいやつがいい」


どこか熱を孕んだ瞳を私に向けて近づいてくるショーマから目が離せなくて、動くことさえできなくて…あっという間に目の前まで来た彼に輪郭をなぞるようにして頬を触れられた。


「最高に甘いやつがいい」


___そう言って、私の唇が食べられた。

「んっ…、ふ……まっ」


デザートってそういう事か、私自身がデザートってことか。とびっきり美味しいやつってのも、とびっきり美味しく頂かせてもらうって意味なんだ。
最高に甘いってのは___甘い声で啼け、きっとそういうこと。

まさかこんなすぐに食べられてしまうとは思ってなくて、私はショーマの胸をトントン叩くけどその腕さえつかまれてしまい抵抗なんてほとんどできなくなってしまった。


「待って、んんっ……しょーま、」

「なんで?誘ったのはそっちでしょ?」


た、確かにそうだけども!


「店に来たと思ったらXYZ頼むしさ。なんなの?」

「だって…ショーマ私に触れてくれないし…」


あんまり抱きたくないのかなとか、インポなんじゃないかって無駄な心配してたんだよ。
さすがに不能のことは言えない、殴られそう。


「触れたくないわけないでしょ。我慢してんの、大切にしたいから」

「で、でもっ」

「あぁ、だから欲求不満になって触れてほしくて今日あんなことしたってわけ?」

「…うっ」


ストレートに欲求不満だって言われると恥ずかしくてしどろもどろになる。自分で誘うようなことしたくせにこんな時だけ純情ぶるっていうね。


「ならこんなに我慢せずにもう少し早く手出しときゃよかった」
「ほんとにね、そしたら私も今日みたいな恥ずかしいことしなくて済んだのに」

「でもそのおかげで今日可愛いもの見れたからいいけど」

「こんの!」


人が恥ずかしがってるのを面白がったり可愛いとか言ったりなんなんだ。私をいじめて楽しいのかこの男。


「いいから抱かせて」

「…ッ」

「もう、限界」


妊娠してしまうんじゃないかってくらいのいい声で耳元で囁くと、私を軽々と抱き上げてそのまま寝室へと向かうショーマ。
今さっきの空気なんて関係ないかと言うように一気にそういうムードを作ってしまうと、私をフカフカなベッドの上に降ろして押し倒してから跨った。


「いい?」

「ダメって言ったらやめてくれるの?」


ダメなんて絶対言わないけどね。むしろ来てって思う。


「やめるわけないでしょ」

「しょー…っんん」


ショーマ、優しくして___って言おうとしたのにそれすら言う間を与えず、貪るようなキスをしてきた。
貪られながら感じるショーマの唇は柔らかくて、温かくて、気持ちいいって思った。



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