バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて
XXVⅢウォッカギブソン
気づいたら、ショーマの家に来てしまっていた。
「どうしたわけ。家に来るなんて」
「うん、いやちょっと」
私はどこかぎこちなくて、ショーマはそのことに気づいてる。
「とりあえず入って」
そう言われショーマの家にお邪魔した私は、一緒に宅飲みすることになってお邪魔してから2時間、普段は強いはずの私が早々に酔い始めていた。
自分でも驚くくらい今日は酔いが早い。
「大丈夫?」
と心配してくれるショーマによってるならこれくらい許されるよね…と抱きついた。
その勢いで鼻にショーマのいつもの香りに刺激され、お酒のせいもあるのか少しだけ変な気分になる。
「どうした、アヤナ」
子供をあやすように頭を撫でてくれたり、背中をさすってくれたりするショーマ。それが心地いい。それがスイッチになったのか、グッと感情が込み合上げてきた。
もう…いいかな。別にいいよね。
「ねぇ、ショーマ…」
「ん?」
「好き」
___…ショーマが好き、気づけば自分の気持ちを告げてしまった。
「え?」
驚いた表情をしているショーマに酔った勢いで軽くキスをすれば、一気に耳まで赤くなった。
「好きだよ」
もう一度想いを伝えたら___今まで見ていた景色が反転した。目の前にはショーマの家の天井と、端整な顔立ちをした彼。
押し倒されているのだと理解するのに時間はかからなかった___むしろ押し倒されて本望とさえ思っていた。
熱を帯び、欲を孕んだ瞳で私を見下ろす彼にどうしようもなく欲情してしまった。
身体の内から熱が勢いよく込み上げてくる。
___子宮が、疼いて仕方がない。
「抱いて、ショーマ」
私の言葉が引き金となり、そこから私たちの理性なんてものはなくなった。
幼馴染なんて名ばかりのものは一気に崩れ、そのままリビングで一線を越えてしまい、寝室に移動するとそこでも抱き潰された。
快楽に乱れ、快楽に溺れ、愛しい彼に身を委ねた。奥を突かれ、律動が速まりベッドのスプリングがより大きくなる。
気持ちいいと感じる最中(さなか)、彼の表情を覗いてみれば…妖艶に笑う彼と目が合った。
そんな彼が口を開き、耳元で囁いたんだ。
「孕め」
___…その言葉のせいで啼きながらイってしまったなんて、とても言えない。
・
・
・
「…あれ、」
見慣れた天井、見慣れた部屋、起き上がって窓の外を見てみれば太陽の光が差し込んできて、そこは見慣れた景色が広がっていた。
「あー…」
この現状、鮮明になってきた頭で考えてハッキリと分かった。
「まさかの…夢オチ…」
再びベッドにダイブして枕に顔を埋めて穴があったら入りたいと思っていた。
なんてドエロい夢を見てしまったんだ。
「しかも…私がショーマと…」
どんだけ抱かれたい願望あるんだよ私。
「ちょっと軽く死にたい…」
何あの夢、いくら好きだと言いたいけど言えないからって、付き合いたいけど付き合える確率ないからって___あんな夢見ちゃう?!
しかもその夢がやけにリアルだったことにまた思い出して体がブルリと震えてしまった。
あることに気づいて、嘘であってほしいと思いながら恐る恐る手をそこへ伸ばして触れてみれば、認めざる負えなかった。
「…最悪だ、濡れてる」
ショーマと体を交えてるとんでもなくドエロい夢を見ただけで、私のパンツは湿っていた。
そんな朝を迎え、朝からお粗末な自分のパンツを洗って会社に出勤した私はすでに出勤していたマユ。
おはようと声を掛ければレアすぎるふわっふわな笑みを見せながらおはようと返されて、明日は地球が崩壊でもしてしまうんじゃ?これはその前兆か何か?と逆に顔を引き攣らせてしまった。
「何その顔。人がせっかく笑顔で挨拶してるってのに」
「それが怖いんだって」
彼女がなぜこんなにも上機嫌なんだろうと、その理由を探してみて1つだけ思いついたそれになるほど、と納得した。
「青木さんとイイ事したんだ?」
先週私が止まりに行けと言ったあと、本当に泊まりに行ったっぽい。それから夜は愛しの彼とあんなことやそんなことなどイイ事しまくったんだろうなって想像がつく。
じゃなきゃマユがこんなに上機嫌な理由なんて他にない。
「イイ事って…アンタ今朝だし、会社だし、周り見ていいなよ」
「当たってるけど…」とブツブツ頬を赤らめながら言うマユはめっちゃ乙女の表情をしている。マユをこんな顔にさせることができるのは青木さんしかいない。
喧嘩はもちろんするだろうけどさ、青木さんと結婚して幸せになってもらいタンだよね。
青木さん早くプロポーズしろ!て言いたくなる。
「で、アンタはどうなの?」
「へ?」
「へ?じゃないでしょ。ショーマさんとはどーなってんのって訊いてんの」
マユはパソコンに溜まったメールをチェックしながら、さっきの乙女な表情とは打って変わって鋭い視線を向けてきた。
どうなってるっもなにも…何も進展ないことくらい知ってるくせに。嗚呼、でもあれくらいなら言えるかも。
「ショーマのこと好きだって気づいたよ」
ちょっと照れながら言ったら「おっそ、今更?」と返され、私のハートにグサリと槍がが刺さった。
遅いって…今更だって…そんなの自分が一番分かってる。
いつも傍にいてくれて、相談に乗ってくれて、話を聞いてくれて…散々ユアの話をしてきて別れてから時間だってそんなに経っていないのにショーマのことが好きになったなんて、言えない。
言っちゃいけない気がする。
それに、なんかとっかえひっかえしてるみたいで嫌だし、私みたいな汚れてしまった人間が好きになっていい相手じゃないんだよ。
「そう。それはよかった」
よかったって、どうしてそう言うわけ?嬉しそうに微笑むマユの考えてることが分からない。
またお昼に話そうって言われてしまい、朝礼を済ませていつものデスクワークに集中した。
時折、お昼何を言われるんだろうとソワソワしたけど仕事に集中しろと言わんばかりの瞳でマユに睨まれた為、指を動かし続けた。
そして、問題のお昼なんだけど…。
「は?気持ち伝えないつもり?」
それはもう、今のマユの顔を子供が見ちゃったら大泣きしてしまうんじゃないかってくらい鬼の血相をしてる。
私もちょっとちびりそう。
「だって…」
「だってもクソもない」
言い訳さえもさせてくれないマユは鬼の血相のままガンガン私を攻めてくる。
「言わないってのはナシだから」
「なんでっ」
「だから、だってもなんでもクソもないって言ったでしょーが。聞いてなかったのか?あ?」
え、何これ。マジでなんでこんな怒ってるの、よく分からないんだけど。
とりあえず、今のマユは死ぬほど怖い。
「この前私の背中を押したのは誰?」
「私、ですね」
背中を押したってのは多分青木さんとの事だ。
でも、今はそんなこと関係ないのになんで持ち出してくるのか分からない。
「今度は私の番」
「背中を押すことが…ですか?」
そこまでしてショーマに気持ちを伝えてほしいのか。でも、どうしてそこまでする必要があるのか知りたいんだけど。
「ショーマさん、どこぞの馬の骨かも分からない女に盗られてもいいの?」
「……それ、は」
“なるべく早く自分の気持ちに気づかないと、彼…盗られちゃうわよ”
マユのその一言で蘇るあのお姉さんの言葉。
「嫌だ」
それだけは嫌だと思った。
「そう思う気持ちがあるなら、自分がすべきことはもう分かるでしょ」
「…うん」
私がすべきこと…か。答えは出てるし、それを実行しなきゃ未来は変わらない。
未来はいつだって自分の手で切り開いていくものだ。
「今日、ショーマに会ってくる」
___私は、自分の悔いのない未来の為に動くことを決意した。
「そうでなきゃアンタじゃない」
安心したような顔を見せたマユに笑って見せた。
「じゃあ、行っといで」
いつも通り定時で上がると、マユに見送られながら私はショーマの店へと足を運んだ。
「ふぅ…」
緊張する胸に手をあて、深呼吸をするその姿は傍から見れば異様だろう。だって人の店の前で普通こんなことしないから。
幸い店はまだ開店時間前で、周りには言うほど人はいない___とは言っても私のこの行動はちょっと目立つらしく、行きかう人がチラチラと見てくる。
これはもう中に入るしかないか…人の目も痛いし。周りから向けられる目にちょっと耐えかねた私は、意を決して店のドアを開いた。
カランカランと鳴る鈴の音にドキドキする。
この時間帯に訪れるのは私しかいないって決まってる___だって、営業時間外だから。
「アヤナ?」
店の奥から聞こえる私の名前を呼ぶ声。
聞き慣れてるはずの声なのに、言われ慣れてるはずなのに、こんなにもドキドキしてる。
「やっぱりアヤナだ。今日は何食べる?」
いつも通りなショーマ。そりゃそうか、意識してるのは私だけだもん。
「今日は何も食べないよ」
「いらない?」
「うん。いい」
そう言いながらいつもの席に腰を掛けてショーマを下から見つめ上げる。
ジッと見つめる私の瞳にはショーマが、ショーマの瞳には私だけが映っていてそれ以外邪魔なものは映らない。
「どうかした?」
睨めっこの末、先に目を逸らしたのは目の前の愛しい人で、少し耳を赤く染めながらグラスを拭き始めた。
今まで意識してみてなかったけど、今はそんなところが可愛らしくて愛しい。
「どうかしたって、なんで?」
「だって、今日のアヤナいつもと違う」
私の小さな変化にもすぐ気づいてしまうショーマにドキリとする。本当、心臓に悪すぎるよ。
「そう?」
「うん、そう」
だってそれは、滅茶苦茶緊張してるからね。
少しは挙動不審と言うかおかしくもなるよ。そんなこと思っていても絶対口に出して言ってやらないけど。
「ショーマご飯じゃなくて飲み物作って」
「了解」
と言ったにもかかわらず、ショーマは私をっ見つめたまま動こうとしないのはきっと分かってるから。
「で、今日は何をリクエストするわけ」
___私がもう、オススメと言わず何かをリクエストすることを。
そんな私はクスリと笑って頼んだのは辛口で、強いお酒…それでいて、その透明度は何も隠せず見透かされているみたい。
「ウォッカギブソンを頂戴」
___…まさに、今の私にうってつけなお酒。
「どうしたわけ。家に来るなんて」
「うん、いやちょっと」
私はどこかぎこちなくて、ショーマはそのことに気づいてる。
「とりあえず入って」
そう言われショーマの家にお邪魔した私は、一緒に宅飲みすることになってお邪魔してから2時間、普段は強いはずの私が早々に酔い始めていた。
自分でも驚くくらい今日は酔いが早い。
「大丈夫?」
と心配してくれるショーマによってるならこれくらい許されるよね…と抱きついた。
その勢いで鼻にショーマのいつもの香りに刺激され、お酒のせいもあるのか少しだけ変な気分になる。
「どうした、アヤナ」
子供をあやすように頭を撫でてくれたり、背中をさすってくれたりするショーマ。それが心地いい。それがスイッチになったのか、グッと感情が込み合上げてきた。
もう…いいかな。別にいいよね。
「ねぇ、ショーマ…」
「ん?」
「好き」
___…ショーマが好き、気づけば自分の気持ちを告げてしまった。
「え?」
驚いた表情をしているショーマに酔った勢いで軽くキスをすれば、一気に耳まで赤くなった。
「好きだよ」
もう一度想いを伝えたら___今まで見ていた景色が反転した。目の前にはショーマの家の天井と、端整な顔立ちをした彼。
押し倒されているのだと理解するのに時間はかからなかった___むしろ押し倒されて本望とさえ思っていた。
熱を帯び、欲を孕んだ瞳で私を見下ろす彼にどうしようもなく欲情してしまった。
身体の内から熱が勢いよく込み上げてくる。
___子宮が、疼いて仕方がない。
「抱いて、ショーマ」
私の言葉が引き金となり、そこから私たちの理性なんてものはなくなった。
幼馴染なんて名ばかりのものは一気に崩れ、そのままリビングで一線を越えてしまい、寝室に移動するとそこでも抱き潰された。
快楽に乱れ、快楽に溺れ、愛しい彼に身を委ねた。奥を突かれ、律動が速まりベッドのスプリングがより大きくなる。
気持ちいいと感じる最中(さなか)、彼の表情を覗いてみれば…妖艶に笑う彼と目が合った。
そんな彼が口を開き、耳元で囁いたんだ。
「孕め」
___…その言葉のせいで啼きながらイってしまったなんて、とても言えない。
・
・
・
「…あれ、」
見慣れた天井、見慣れた部屋、起き上がって窓の外を見てみれば太陽の光が差し込んできて、そこは見慣れた景色が広がっていた。
「あー…」
この現状、鮮明になってきた頭で考えてハッキリと分かった。
「まさかの…夢オチ…」
再びベッドにダイブして枕に顔を埋めて穴があったら入りたいと思っていた。
なんてドエロい夢を見てしまったんだ。
「しかも…私がショーマと…」
どんだけ抱かれたい願望あるんだよ私。
「ちょっと軽く死にたい…」
何あの夢、いくら好きだと言いたいけど言えないからって、付き合いたいけど付き合える確率ないからって___あんな夢見ちゃう?!
しかもその夢がやけにリアルだったことにまた思い出して体がブルリと震えてしまった。
あることに気づいて、嘘であってほしいと思いながら恐る恐る手をそこへ伸ばして触れてみれば、認めざる負えなかった。
「…最悪だ、濡れてる」
ショーマと体を交えてるとんでもなくドエロい夢を見ただけで、私のパンツは湿っていた。
そんな朝を迎え、朝からお粗末な自分のパンツを洗って会社に出勤した私はすでに出勤していたマユ。
おはようと声を掛ければレアすぎるふわっふわな笑みを見せながらおはようと返されて、明日は地球が崩壊でもしてしまうんじゃ?これはその前兆か何か?と逆に顔を引き攣らせてしまった。
「何その顔。人がせっかく笑顔で挨拶してるってのに」
「それが怖いんだって」
彼女がなぜこんなにも上機嫌なんだろうと、その理由を探してみて1つだけ思いついたそれになるほど、と納得した。
「青木さんとイイ事したんだ?」
先週私が止まりに行けと言ったあと、本当に泊まりに行ったっぽい。それから夜は愛しの彼とあんなことやそんなことなどイイ事しまくったんだろうなって想像がつく。
じゃなきゃマユがこんなに上機嫌な理由なんて他にない。
「イイ事って…アンタ今朝だし、会社だし、周り見ていいなよ」
「当たってるけど…」とブツブツ頬を赤らめながら言うマユはめっちゃ乙女の表情をしている。マユをこんな顔にさせることができるのは青木さんしかいない。
喧嘩はもちろんするだろうけどさ、青木さんと結婚して幸せになってもらいタンだよね。
青木さん早くプロポーズしろ!て言いたくなる。
「で、アンタはどうなの?」
「へ?」
「へ?じゃないでしょ。ショーマさんとはどーなってんのって訊いてんの」
マユはパソコンに溜まったメールをチェックしながら、さっきの乙女な表情とは打って変わって鋭い視線を向けてきた。
どうなってるっもなにも…何も進展ないことくらい知ってるくせに。嗚呼、でもあれくらいなら言えるかも。
「ショーマのこと好きだって気づいたよ」
ちょっと照れながら言ったら「おっそ、今更?」と返され、私のハートにグサリと槍がが刺さった。
遅いって…今更だって…そんなの自分が一番分かってる。
いつも傍にいてくれて、相談に乗ってくれて、話を聞いてくれて…散々ユアの話をしてきて別れてから時間だってそんなに経っていないのにショーマのことが好きになったなんて、言えない。
言っちゃいけない気がする。
それに、なんかとっかえひっかえしてるみたいで嫌だし、私みたいな汚れてしまった人間が好きになっていい相手じゃないんだよ。
「そう。それはよかった」
よかったって、どうしてそう言うわけ?嬉しそうに微笑むマユの考えてることが分からない。
またお昼に話そうって言われてしまい、朝礼を済ませていつものデスクワークに集中した。
時折、お昼何を言われるんだろうとソワソワしたけど仕事に集中しろと言わんばかりの瞳でマユに睨まれた為、指を動かし続けた。
そして、問題のお昼なんだけど…。
「は?気持ち伝えないつもり?」
それはもう、今のマユの顔を子供が見ちゃったら大泣きしてしまうんじゃないかってくらい鬼の血相をしてる。
私もちょっとちびりそう。
「だって…」
「だってもクソもない」
言い訳さえもさせてくれないマユは鬼の血相のままガンガン私を攻めてくる。
「言わないってのはナシだから」
「なんでっ」
「だから、だってもなんでもクソもないって言ったでしょーが。聞いてなかったのか?あ?」
え、何これ。マジでなんでこんな怒ってるの、よく分からないんだけど。
とりあえず、今のマユは死ぬほど怖い。
「この前私の背中を押したのは誰?」
「私、ですね」
背中を押したってのは多分青木さんとの事だ。
でも、今はそんなこと関係ないのになんで持ち出してくるのか分からない。
「今度は私の番」
「背中を押すことが…ですか?」
そこまでしてショーマに気持ちを伝えてほしいのか。でも、どうしてそこまでする必要があるのか知りたいんだけど。
「ショーマさん、どこぞの馬の骨かも分からない女に盗られてもいいの?」
「……それ、は」
“なるべく早く自分の気持ちに気づかないと、彼…盗られちゃうわよ”
マユのその一言で蘇るあのお姉さんの言葉。
「嫌だ」
それだけは嫌だと思った。
「そう思う気持ちがあるなら、自分がすべきことはもう分かるでしょ」
「…うん」
私がすべきこと…か。答えは出てるし、それを実行しなきゃ未来は変わらない。
未来はいつだって自分の手で切り開いていくものだ。
「今日、ショーマに会ってくる」
___私は、自分の悔いのない未来の為に動くことを決意した。
「そうでなきゃアンタじゃない」
安心したような顔を見せたマユに笑って見せた。
「じゃあ、行っといで」
いつも通り定時で上がると、マユに見送られながら私はショーマの店へと足を運んだ。
「ふぅ…」
緊張する胸に手をあて、深呼吸をするその姿は傍から見れば異様だろう。だって人の店の前で普通こんなことしないから。
幸い店はまだ開店時間前で、周りには言うほど人はいない___とは言っても私のこの行動はちょっと目立つらしく、行きかう人がチラチラと見てくる。
これはもう中に入るしかないか…人の目も痛いし。周りから向けられる目にちょっと耐えかねた私は、意を決して店のドアを開いた。
カランカランと鳴る鈴の音にドキドキする。
この時間帯に訪れるのは私しかいないって決まってる___だって、営業時間外だから。
「アヤナ?」
店の奥から聞こえる私の名前を呼ぶ声。
聞き慣れてるはずの声なのに、言われ慣れてるはずなのに、こんなにもドキドキしてる。
「やっぱりアヤナだ。今日は何食べる?」
いつも通りなショーマ。そりゃそうか、意識してるのは私だけだもん。
「今日は何も食べないよ」
「いらない?」
「うん。いい」
そう言いながらいつもの席に腰を掛けてショーマを下から見つめ上げる。
ジッと見つめる私の瞳にはショーマが、ショーマの瞳には私だけが映っていてそれ以外邪魔なものは映らない。
「どうかした?」
睨めっこの末、先に目を逸らしたのは目の前の愛しい人で、少し耳を赤く染めながらグラスを拭き始めた。
今まで意識してみてなかったけど、今はそんなところが可愛らしくて愛しい。
「どうかしたって、なんで?」
「だって、今日のアヤナいつもと違う」
私の小さな変化にもすぐ気づいてしまうショーマにドキリとする。本当、心臓に悪すぎるよ。
「そう?」
「うん、そう」
だってそれは、滅茶苦茶緊張してるからね。
少しは挙動不審と言うかおかしくもなるよ。そんなこと思っていても絶対口に出して言ってやらないけど。
「ショーマご飯じゃなくて飲み物作って」
「了解」
と言ったにもかかわらず、ショーマは私をっ見つめたまま動こうとしないのはきっと分かってるから。
「で、今日は何をリクエストするわけ」
___私がもう、オススメと言わず何かをリクエストすることを。
そんな私はクスリと笑って頼んだのは辛口で、強いお酒…それでいて、その透明度は何も隠せず見透かされているみたい。
「ウォッカギブソンを頂戴」
___…まさに、今の私にうってつけなお酒。
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