バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて
XVI
そう心の底で呟いてると鞄の中に入れっぱなしだったスマホがヴーヴーと震えていた。
現在の時刻は午後22時54分、もう23時になろうとしている時間帯なのに一体誰だろう?
疑問に思いながら画面を見ればそれは判明した。
「エスパーかよ…」
「はい、もしもし」と電話にでれば向こう側からもつい昨日も聞いた声が「なんで今日来ないの?」と店に来ないあたしを不思議に思っている。
それだけのことで電話してくるなんて、ちょっとだけ可愛いところもあるみたいね。
いつもと変わらない口調だけど、長年一緒だったからそこは他の人より分かってしまう。
きっと、彼は今…
「拗ねてる?」
そんな感じの声。
『別に。いつもの時間になっても来ないからちょっと心配した』
「あ、そうなの?なんかごめん」
『席だってちゃんと確保してるのにさ』
あたしが来ても来なくてもしっかりと確保されている一番端のあの席、あそこは過去に「ここはアヤナだけの特別席」ってショーマが言っていた。
金曜日だけじゃなくていつ来てもいいように常に確保してるって。
「ごめん、だって連続で行ったから…」
『4日でも5日でも連続できたらいいじゃん。追い返すなんてことしないし』
追い返すとか…そんなことはしないってちゃんと分かってるよ、なんだかんだ言ってショーマは優しいし、世話焼きだし、気が使えるし、それに___一緒にいて凄く安心できる。
「ねぇショーマ」
『ん?』
「ありがとう、大好き」
『……』
「あれ、ショーマ?おーいショーマ?」
大好きっていったら向こう側で声を発せないほど?固まってしまったショーマはどこかに飛ばしていた意識をようやく戻してきたみたいで『あ、あぁ…何?』とちょっと変。
どうしたの?って心配の声を掛けたら『アヤナが大好きなんて言うから』って返されたもんだからちょっとだけ不思議に思った。
「昔から好きとか言ってるじゃん」
結婚しようとかお嫁さんにしてねとか、これは本当に小さい時だけどあの時はそんなふうにショーマにしょっちゅう言っていたっけ。
『昔と今は違うでしょ』
うーん、まぁ…そう言われたらそうなんだけど。
『で、結局今日は来ないの?』
「うん、また来週ね」
『分かった。じゃあ今日そっち行く』
「うん分かった。……え、は?来るの!?」
『そ。じゃあまた後で』
「え、ちょっ、ま…!」
嗚呼、切られた。
無機質な音がプープーと流れるスマホを見つめて考える。
来るってあたしの家に?なんで!?
まず何しに来るの?って思うけど、ショーマが来て何かをするようなことはない。
もしかして普通に一緒にお酒飲むとかそんな感じ?
ショーマがビール飲むの?チューハイ飲むの?
「なにそれ…」
全然想像がつかない。どれだけ頑張ってもシェイカー振る姿しか想像できない。
ショーマから電話が入って40分が経った頃、部屋にピンポーンと誰かが訪ねてきたことを示す呼び鈴が響き渡った。
この時間に訪ねてくるのは、この呼び鈴を鳴らすのはショーマしかいない。
念のためスコープからそとのようすを伺うと、そこにいたのはやっぱりショーマ。
もちろん仕事着で、でも仕事が終わるにしてまだ早くて…ショーマの店からあたしの家まで車で30分はかかるからショーマは仕事を23時過ぎには切り上げたことになる。
金曜ということもあってお客さんがいなかったわけではないはずなのに、最後までいなくていいの?なんて心配する私をよそに「早く開けて寒い」と扉の向こうで1つくしゃみをして喋る男はどこか呑気。
かけていたチェーンを外して中に招き入れれば、慣れたようにズンズン部屋に奥に進んでいきキッチンに入ると台の上に、持参したのかお酒を並べていく。
なんていうか、これ絶対お店のものだ。
お店でこのお酒がおかれているのを何度か見たことあるし、シェイカーまで持ってきているあたりここで作るつもりなんだとだいたいの察したはできた。
「なんでそれ持ってきたの」
「あれ、違った?」
「何が?」
「俺のカクテル飲みたくなってないかなぁって思ったんだけど」
それは狡いっていうか図星。
言い返す言葉がなくて困る。
ショーマのカクテルが飲みたくなったのは本当のことだから。
多分、飲み終えたビール缶と開けられていない2本チューハイにあまり飲んでいない1本目のチューハイをみて彼はそう思ったんだと思う。
お見通しってわけね。
観念して降参ポーズをすればフッと笑われ「素直でよろしい」と頭をポンポンと撫でられた。
あ……昔はこんな風によく頭を撫でられたっけ。
蘇る記憶に今を重ね、あたしもショーマも凄く大人になってしまったなと実感する。
「で、今日は何を作ってくれるの?」
「秘密、座って楽しみにしててよ」
何を作ってくれるか教えてくれない彼、と言っても普段は「何作るの?」なんてあまり訊かないからそこはあんまり気にしてない。
お店ではなく、あたしの部屋で私の為だけにシェーカーを振るその姿に見惚れているとバチッと目が合ってしまい思わず逸らしてしまった。
あ、れ…?なんで今目を逸らしちゃったんだ?
いつもならそんなことないのに。平気なはずなのに、むしろ微笑むところなんだけど…今日の私は変だ。
悶々としていたときに「はい、どうぞ」と目の前に出されたショートグラスに注がれた黄色をしたカクテル。
傍にはチェリーが飾られていて美味しそう…喉が、身体が早く飲んでみたいって欲してる。
「これは?」
「アビー。意味は“準備”」
「準備?」
「そう、アヤナにも今の俺にもピッタリのカクテル」
あたしはともかく、ショーマにもピッタリなカクテルってどういうこと。
よく分からなすぎてちんぷんかんぷんだ。
いいから飲んでよ、と言われ胃の中に少しだけ流し込むとフワリとフルーティーさが広がり、さわやかな口当たりでとても美味しい。
シチュエーションとしては食膳や食後、デザートの時に一緒に飲むらしいんだけど…自分の目の前にあるおつまみを見て我ながらがっくりした。
なんでデザートじゃないの!どうして美味しそうなご飯がないの!と言いたいとこだけど、ご飯を作らなかったのもあたし、可愛らしいデザートを買わなかったのもあたし…数時間前のあたし本当何してるの、つまみのチョイスがマジでおじさんすぎる。
「ショーマご飯食べた?」
「店で食べてきた」
「そう。ってか!早上がりなんかしてお店大丈夫なの?」
「うん、今日は來に任せてるから」
「あぁ、來さん今日出勤してるんだ」
來さんはショーマの高校時代の1つ下の後輩君で、ショーマに憧れてこの道に入ってきたらしいんだけど、ショーマ曰く來さんには才能があるらしい、だから一緒に仕事が出来るって前言っていた。
あたしは数えきれる程度にしか來さんには会ったことないけど、來さんもこれまたイケメンだからモテてしかたがないってショーマが言ってた。
あたしに言わせてもらえばショーマも似たようなもんなんだけどね。
「ショーマも一緒に飲もうよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
と、彼の手にも私と同じグラスが握られていてそれをゴクリと飲んだそ動作さえエロスを感じる。
「で?ここに来た本当の理由は?」
あたしのグラスも彼のグラスも空になったとき、あたしから本題を切り出した。
ショーマは下げていた視線を上げて優しく微笑むと「アヤナ」と今までとはどこか違う雰囲気を醸し出し打ならあたしの名前を呼ぶもんだから変に緊張が走る。
「何?」
ドキドキと高鳴る心臓。
鎮まれ、鎮まれと言いながらテーブルの下でギュッと手を握る。
若干手汗をかきながらも握った手は離さずにそのままの状態。
ショーマの口から言われたのは…
「今度の週末、一緒に出掛けよう」
___デートの誘い言葉だった。
現在の時刻は午後22時54分、もう23時になろうとしている時間帯なのに一体誰だろう?
疑問に思いながら画面を見ればそれは判明した。
「エスパーかよ…」
「はい、もしもし」と電話にでれば向こう側からもつい昨日も聞いた声が「なんで今日来ないの?」と店に来ないあたしを不思議に思っている。
それだけのことで電話してくるなんて、ちょっとだけ可愛いところもあるみたいね。
いつもと変わらない口調だけど、長年一緒だったからそこは他の人より分かってしまう。
きっと、彼は今…
「拗ねてる?」
そんな感じの声。
『別に。いつもの時間になっても来ないからちょっと心配した』
「あ、そうなの?なんかごめん」
『席だってちゃんと確保してるのにさ』
あたしが来ても来なくてもしっかりと確保されている一番端のあの席、あそこは過去に「ここはアヤナだけの特別席」ってショーマが言っていた。
金曜日だけじゃなくていつ来てもいいように常に確保してるって。
「ごめん、だって連続で行ったから…」
『4日でも5日でも連続できたらいいじゃん。追い返すなんてことしないし』
追い返すとか…そんなことはしないってちゃんと分かってるよ、なんだかんだ言ってショーマは優しいし、世話焼きだし、気が使えるし、それに___一緒にいて凄く安心できる。
「ねぇショーマ」
『ん?』
「ありがとう、大好き」
『……』
「あれ、ショーマ?おーいショーマ?」
大好きっていったら向こう側で声を発せないほど?固まってしまったショーマはどこかに飛ばしていた意識をようやく戻してきたみたいで『あ、あぁ…何?』とちょっと変。
どうしたの?って心配の声を掛けたら『アヤナが大好きなんて言うから』って返されたもんだからちょっとだけ不思議に思った。
「昔から好きとか言ってるじゃん」
結婚しようとかお嫁さんにしてねとか、これは本当に小さい時だけどあの時はそんなふうにショーマにしょっちゅう言っていたっけ。
『昔と今は違うでしょ』
うーん、まぁ…そう言われたらそうなんだけど。
『で、結局今日は来ないの?』
「うん、また来週ね」
『分かった。じゃあ今日そっち行く』
「うん分かった。……え、は?来るの!?」
『そ。じゃあまた後で』
「え、ちょっ、ま…!」
嗚呼、切られた。
無機質な音がプープーと流れるスマホを見つめて考える。
来るってあたしの家に?なんで!?
まず何しに来るの?って思うけど、ショーマが来て何かをするようなことはない。
もしかして普通に一緒にお酒飲むとかそんな感じ?
ショーマがビール飲むの?チューハイ飲むの?
「なにそれ…」
全然想像がつかない。どれだけ頑張ってもシェイカー振る姿しか想像できない。
ショーマから電話が入って40分が経った頃、部屋にピンポーンと誰かが訪ねてきたことを示す呼び鈴が響き渡った。
この時間に訪ねてくるのは、この呼び鈴を鳴らすのはショーマしかいない。
念のためスコープからそとのようすを伺うと、そこにいたのはやっぱりショーマ。
もちろん仕事着で、でも仕事が終わるにしてまだ早くて…ショーマの店からあたしの家まで車で30分はかかるからショーマは仕事を23時過ぎには切り上げたことになる。
金曜ということもあってお客さんがいなかったわけではないはずなのに、最後までいなくていいの?なんて心配する私をよそに「早く開けて寒い」と扉の向こうで1つくしゃみをして喋る男はどこか呑気。
かけていたチェーンを外して中に招き入れれば、慣れたようにズンズン部屋に奥に進んでいきキッチンに入ると台の上に、持参したのかお酒を並べていく。
なんていうか、これ絶対お店のものだ。
お店でこのお酒がおかれているのを何度か見たことあるし、シェイカーまで持ってきているあたりここで作るつもりなんだとだいたいの察したはできた。
「なんでそれ持ってきたの」
「あれ、違った?」
「何が?」
「俺のカクテル飲みたくなってないかなぁって思ったんだけど」
それは狡いっていうか図星。
言い返す言葉がなくて困る。
ショーマのカクテルが飲みたくなったのは本当のことだから。
多分、飲み終えたビール缶と開けられていない2本チューハイにあまり飲んでいない1本目のチューハイをみて彼はそう思ったんだと思う。
お見通しってわけね。
観念して降参ポーズをすればフッと笑われ「素直でよろしい」と頭をポンポンと撫でられた。
あ……昔はこんな風によく頭を撫でられたっけ。
蘇る記憶に今を重ね、あたしもショーマも凄く大人になってしまったなと実感する。
「で、今日は何を作ってくれるの?」
「秘密、座って楽しみにしててよ」
何を作ってくれるか教えてくれない彼、と言っても普段は「何作るの?」なんてあまり訊かないからそこはあんまり気にしてない。
お店ではなく、あたしの部屋で私の為だけにシェーカーを振るその姿に見惚れているとバチッと目が合ってしまい思わず逸らしてしまった。
あ、れ…?なんで今目を逸らしちゃったんだ?
いつもならそんなことないのに。平気なはずなのに、むしろ微笑むところなんだけど…今日の私は変だ。
悶々としていたときに「はい、どうぞ」と目の前に出されたショートグラスに注がれた黄色をしたカクテル。
傍にはチェリーが飾られていて美味しそう…喉が、身体が早く飲んでみたいって欲してる。
「これは?」
「アビー。意味は“準備”」
「準備?」
「そう、アヤナにも今の俺にもピッタリのカクテル」
あたしはともかく、ショーマにもピッタリなカクテルってどういうこと。
よく分からなすぎてちんぷんかんぷんだ。
いいから飲んでよ、と言われ胃の中に少しだけ流し込むとフワリとフルーティーさが広がり、さわやかな口当たりでとても美味しい。
シチュエーションとしては食膳や食後、デザートの時に一緒に飲むらしいんだけど…自分の目の前にあるおつまみを見て我ながらがっくりした。
なんでデザートじゃないの!どうして美味しそうなご飯がないの!と言いたいとこだけど、ご飯を作らなかったのもあたし、可愛らしいデザートを買わなかったのもあたし…数時間前のあたし本当何してるの、つまみのチョイスがマジでおじさんすぎる。
「ショーマご飯食べた?」
「店で食べてきた」
「そう。ってか!早上がりなんかしてお店大丈夫なの?」
「うん、今日は來に任せてるから」
「あぁ、來さん今日出勤してるんだ」
來さんはショーマの高校時代の1つ下の後輩君で、ショーマに憧れてこの道に入ってきたらしいんだけど、ショーマ曰く來さんには才能があるらしい、だから一緒に仕事が出来るって前言っていた。
あたしは数えきれる程度にしか來さんには会ったことないけど、來さんもこれまたイケメンだからモテてしかたがないってショーマが言ってた。
あたしに言わせてもらえばショーマも似たようなもんなんだけどね。
「ショーマも一緒に飲もうよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
と、彼の手にも私と同じグラスが握られていてそれをゴクリと飲んだそ動作さえエロスを感じる。
「で?ここに来た本当の理由は?」
あたしのグラスも彼のグラスも空になったとき、あたしから本題を切り出した。
ショーマは下げていた視線を上げて優しく微笑むと「アヤナ」と今までとはどこか違う雰囲気を醸し出し打ならあたしの名前を呼ぶもんだから変に緊張が走る。
「何?」
ドキドキと高鳴る心臓。
鎮まれ、鎮まれと言いながらテーブルの下でギュッと手を握る。
若干手汗をかきながらも握った手は離さずにそのままの状態。
ショーマの口から言われたのは…
「今度の週末、一緒に出掛けよう」
___デートの誘い言葉だった。
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