バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄

XⅢ

【マユ side】



アヤナがタイミングよくトイレに行ったのをいいことに、私はここぞとばかりにショーマさんに詰め寄った。




「ショーマさん、私には教えてくれますか?」


「何を?」


「昨日アヤナが飲んだって言うカクテル」




するとちょっと苦笑いをした彼に、やっぱりな…なんて心の奥底で笑う。


きっと彼は淡い思いをそのカクテルに託し、アヤナが素直に飲んでくれるのを望んでたんだろう。


意味なんて知らなくていい、ただ自分の想いを隠してこうやってアヤナの為に作ってあげるのが自分の幸せなんだと思ってるんだろう。





「アヤナが飲んだのはアプリコットフィズだよ」


観念したように素直に言った彼は「マユちゃんはいつから気づいてる?」なんて訊いてきたものだから思わずクスッと笑ってしまった。


これでもカクテルは好きで、カクテル言葉をたまに調べたりする私。


だからアプリコットフィズだと聞いた瞬間、確かにアヤナには言えるはずがないと思った。




「いつからって、最初からですよ」


「え?」




そう、私は最初から彼の気持ちに気づいてた。




「アヤナが初めてここに連れてきてくれた1年前から」


「本当に?」


「嘘ついてどうするんですか」


「はぁ~…マジか」


顔を赤くしてセットされた髪をくしゃくしゃにする彼を、不覚にも可愛いと思ってしまった。




「あの子も人の気持ちも知らずにセフレの相談するなんて、酷なことしますね」




よく相談に乗ったなって思うし、普通1年もそんな話聞ける?とかショーマさん相談受けちゃうなんて馬鹿だよ、とも思った。


私なら無理だな、耐えられない。




「でも、アヤナ別れましたよ」




正確には振られ、捨てられたって感じだけど、フリーなことには変わりない。




「そうだね」




狙うとしたら今しかないし、こんなチャンスはないのに…ショーマさんは困った顔をしていて、一体何に困るって言うんだろう。



「でも、アヤナは俺のこと兄的存在にしか見ていないと思うから。幼馴染とか兄的存在とかの壁は意外にも大きいんだよ」




彼は、儚げに…切なげに呟いた。

聞いてるこっちまで胸が締め付けられるようで、悲しくて切なくて…それでいて、とても苦い。




「俺、もう行くね」


「あ、はい」


「じゃあ、ごゆっくり」




今まで悲しそう表情をしていたのに、瞬時に仕事モードに切り替えられたもんだから私がどういう反応すればいいのか困ってしまう。



もう…なんでそうやって感情押し込めちゃうんですかね。


ショーマさんは女性を虜にしてしまう笑顔を張り付けて、仕事に戻ってしまった。





【マユ side end】


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