バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄

XⅠ

上手く話せたとは思えないけど、マユには伝わってるはずだから。


だから、だから…




「アンタ…っ、ばっかじゃないの!?」




あたしと一緒に、怒りながらも涙を流してくれるんだ。




「なんで私に一度でも相談しなかったの!」


「…ごめん」


「言わなかったの!」


「ごめっ…」


「ショーマさんには相談してるくせに、親友であるはずの私に相談してくれないのはおかしいでしょ!」


「マユ、ほんと…ごめん」

「ごめんじゃないよ!こっちはね悲しいんだよ、寂しいんだよ、悔しいんだよ!」




その言葉にズキズキと心が痛む。


自分のせいなのに、こんなにもマユの痛みがストレートに伝わってくる。


あたしは、謝るしか能がないから何かを言われるたびに謝るばっかりで、他に言うことがあるはずなのにやっぱり口から出るのはマユへの申し訳なさ。




「バカ!」


「…っ」


「ほんとバカ!」


「バカ、バカって…」


「バカじゃん!大バカじゃん!なんで私に一番に相談しなかったの!」


「だって…」


一番に相談できなかったのは…それは…。




「軽蔑すると思った?見放すと思った?親友辞めるとでも思った?」


「…っ」




マユ自身に全て図星を刺されて何も言い返すことができない。




「それがバカだっつってんの!」


「ま、マユ…」


「信用してよ!信頼してよ!頼ってよ!」




___…嗚呼、ほんとなんで私はこんなに馬鹿なんだろう。


どうしてマユが離れていってしまう、軽蔑されるなんて勝手に思い込んで相談しなかったんだろう。




結果、マユをこんなに苦しませた…あたしのせいだ。


「いい!?これからは頼って!信じて信頼して!悩んだらショーマさんに相談するのもいいけど、私にも相談して!」


「ぁ…」


「いい!?」



マユの余りの迫力に「あ…え…」と、言葉という言葉を発せずにいると、キレられた。



「返事は!?」


「はは、は、はいっ…!」


「っはぁぁぁぁぁ」




そして大きな溜め息を目の前で吐かれたあたしはどうしたらいいの。


マユは俯けた顔をバッと勢いよく上げると、ギロリとあたしを殺しにかかる勢いでめっちゃ睨みつけてきた。




「本当に関係切れてるよね?まだ一本繋がってるとかないよね?」



「ないよ!心ズタボロになるくらい振られたし!」




自分で言うのもなんだけど、自ら地雷踏みに行くの辛すぎ。


こういうところでたまに地雷を踏んでくる。




「そ。でも、そのユアとやらと別れてよかった」




うぅ…分かっちゃいるけどショーマに続きマユにまで言われるなんて。


言われて当然なんだけどね。


ズゥーンと効果音が付きそうなくらい沈んでいると、部屋の扉がノックされ絶対アイツだから今は入らないでって言おうと思ったのに…マユが「どうぞー」って勝手に返事をして、予想通りアイツが部屋の中に入ってきたから私の気分はさらに下がる。



こんな顔見られたくなかったのに…溜め息だって出ちゃう。




「なんで俺の顔見て溜め息吐くの?感じ悪いなぁ」

「はぁ…」


「だから溜め息吐くな」


「だってショーマにこんな姿見られたくないじゃん」




渋々そう言えば「今更何言ってんの?」みたいな、馬鹿なの?って感じの顔をされたから逆になんでそんな顔してるわけ、なんて思った。




「一昨日だって酔っぱらって聞きたくない事ベラベラ喋ってたし、今までだって俺に相談してたじゃん」




た、確かにそうだけど…ショーマの前で大泣きしたことなんて一度もないし、こんなボロボロのみっともない状態は見せたことないじゃん。



確かに一昨日だって何を言ったのか覚えてないけど、余計なことを言ってたのかもしれないけど…さすがにこんなひどい有様になったことは絶対ないじゃん。




「ま、それはどうでもいいんだけど」


どうでもいいで流された…。
てか、ショーマは何しにここに来たのよ。




「話、終わったよね?」


「はい、アヤナに全て聞きました。それで、ここに来たわけは?」


「あぁ、そうそう。2人に作りたいものがあって」


「「作りたいもの?」」




ショーマの答えに意味が分からくて、それはマユも同じだったみたいで見事に声がハモった。


気持ちいいくらい綺麗に重なったな~なんて思ってたら、ショーマが目の前で何やらガチャガチャやりだした。


それは名前の知らないお酒にレモンジュースとライムジュースや砂糖にシロップ、シェイカーと仕事道具まである。




「まさか、ここで作るの…?」


「作るよ。特別に」




そう言って「マユちゃんウィスキー飲めるよね?」と確認しながらショーマは慣れた手つきでソーダ以外の材料を華麗にシェイクして、それをグラスに注ぐと氷を加えてソーダで満たすと、軽くステアした。



どうぞ、とあたし達の前に置かれた赤系のソレを見つめ「これはなんて名前」といつものように訊いてみれば今日は教えてくれるらしくて「カリフォルニア・レモネード」と特別に作ってくれたお酒の名前を言ってくれた。




「カリフォルニア・レモネード?」




やっぱり、一度も聞いたことがないからまだ飲んだことがないんだと思う。




「意味は?」


「“永遠の感謝”」




このカクテルはそういうカクテル言葉があるらしい。

でも、どうして永遠の感謝だなんて言葉のカクテルを作ったの?と訊けば、「アヤナはマユちゃんって素敵な親友がいることに感謝すべきだよ」と言われた。



ショーマに向けていた視線をマユに移すと「もっともな言葉ね」というような顔をされた。


確かに、あたしのことを思ってくれて泣いたり、私を思って叱ってくれたり怒ったりしてくれる。



今日も、こうやって話してユアとはいいとは言えない関係でいたにもかかわらずちゃんと聞いてくれたし、引かなかった…一番恐れていたけど離れていくことなんてなかった。



だから、感謝してもしきれない…というわけで。




「永遠の感謝…」




カリフォルニア・レモネード、これほどピッタリなカクテルはない。


グラスを手にし、「ありがとう」と伝えればマユが見せてくれるいつもの笑顔で「アンタはバカなところもあるけど、それでも好きだよ」と言ったくれた。




___カーン、とグラスの合わさる音が響いた。


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