バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄



___ピピピピピ


「ん…あー…」


ピーピー五月蝿く鳴るアラームを消して起き上ればゆっくりと動き出す。
アラームをセットしたのは他でもない、ショーマのお店に行くからだ。


今日も今日とてあたしは飲む。

そうと決めていたあたしはさっさと準備をしてショーマのお店に向かった。




「今日も来たわけ?」

「テキーラ・サンセット」




今日も昨日同様同じ飲み物を頼むあたしの心情を知らないわけがないショーマ。


ちょっと呆れた顔をしてる。


「ショーマさぁん」なんて女の人の甘い声に呼ばれているにも関わらず、「待っててくださいね」なんて優しい声で待てをさせてあたしを優先するショーマは好き。


「で、今日も泣いた?」

「そうだよ、だから…テキーラ・サンセット」

「はいはい」




仕方ないと言うようにあたしの飲み物を作りながら、さっきの女の人と会話をして注文を受けるショーマ。


そんなショーマに頬を染めてうっとりするお姉さんはとっても綺麗な人で、あたしと違って大人な女性って感じ。

あたしが太刀打ちできるようなレベルじゃない。

まず太刀打ちしようとも思わないけどね、即白旗上げる。


「ねぇショーマさん今度のお休みはいつ?」


そんなお姉さんはショーマ口説き落とそうと真っ赤なルージュを塗った唇を三日月型にした。


「休みですか?俺この店の主だから休みなんてないようなもんだって知ってるでしょう?」

この光景は別に珍しいものなんかじゃない。




「知ってる。けど、1日も休みがないなんて嘘ね…少しくらいあるでしょう?」




むしろ毎日いろんな女性に口説かれているし、あんなイケメンを口説かない女性はいないんじゃないかってくらい口説かれてる。




「まぁ…ないわけではないですね」




そして何故かいつもあたしはその女性たちに睨まれる。


何故!?ショーマにはあんな熱い視線を送っておきながら、あたしには冷たくて怖い視線送るって可笑しくない?


あたしはショーマなんて狙ってないからじゃんじゃん攻め込んでいけばいいのに。




「じゃあ、連絡先だけでも教えて…?」

おぉ、お姉さん攻めるね___って、だからなんでいちいちこっち見ながらなの?え、何の意味があるの?牽制かな?



牽制のつもりなら安心していいよ、あたしショーマのことマジで狙ったことないから。




「俺の番号は誰も知ることのない秘密の番号なんです」




ショーマはいつもそうやって断る。


誰にも一度も教えたことがない連絡先。


どうして教えてあげないのか一度訊いたことあるんだけど、「アヤナには絶対教えない」の一点張りでマジで教えてくれなかったから、この先何度聞いても教えてくれないだろうと察してもう二度と訊かないことにした。




「そう、残念」




今回もショーマは女性に教えることはなく作り終えたテキーラ・サンセットをあたしの前に差し出した。


ありがとう、とお礼を言って口に含むと一気に口いっぱいレモンが広がる。

嗚呼、美味しい。


今日は昨日のようにはならないような飲み方をしなきゃな…あの状態で帰れたことが奇跡だし。


どうやって帰ったのかなんて分からないけど。




「あ、ショーマ」


「ん?」




お姉さんのものを作り終えたショーマに声を掛けると、あたしの声が聞こえる範囲まで来てくれる。




「ショーマの作るカクテル好きだよ」




あたしは素直に気持ちを伝終えると、ちょっと照れたように「さんきゅ」とお礼を言われた。


照れてる、照れてる、耳が真っ赤だよショーマ。


そんな彼が時折可愛くて愛おしい。




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