バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄

___誰しも別れと言うものは体験するし、それは生きていくうえで絶対的にあるもの。


しばしの別れだったり、永遠の別れだったり、望んだ別れだったり___望まない別れだったりする。


あたしの別れはあまりにも突然で、その上全然望んでないものだった。

ううん、きっとどこかで薄々気づいてた。


「ねぇ、ユア…嫌だ。別れたくないっ」

「悪ぃ…お前とはもう関われない」

「ひど…どう、してっ」


夜の賑わう繁華街でサヨナラを告げる男と、サヨナラをしたくない女が言い争う。


その女は他でもないあたしのことで、突然呼び出されたことに舞い上がっちゃってたら「別れてくれ」といきなり理解し難い言葉を打ち付けられた。


というか、あたし達は別に付き合ってたわけじゃないから別れてくれなんて言葉自体に意味なんてないんだけど、まぁ2年と関係を持っていたんならその言葉が妥当なのかなってちょっと思ったりもした。


でも、あたしは別れたくなんてない。

さっきから止めどなく流れる涙を拭うことさえもする余裕がないくらい目の前の彼に「嫌だ。別れたくない」の言葉を繰り返してる。


まず、どうして彼…ユアがあたしと別れたがっているのかというと、


「ごめん、本当ごめん身勝手だって分かってるけど…本気で好きな奴ができたんだよ」


___理由はとても単純だ。

あたしよりも好きな人が彼の前に現れてしまったらしい。
いや、あたしよりも好きな人って言うのはおかしな話か…。

だた体だけの関係だったあたし達。

それ以上なんて今までなかったし、あるはずがなかった。


「アヤナ、もう俺に関わらないでほしい」

「…ふっ、うぅ…いや、やだぁ…」

「アヤナ…ごめん」


ごめんじゃないよ、謝るくらいなら別れるなんて言わないでよ。
ユアに一番近い女はあたしだと思っていたのに。

他にセフレがいることも知ってたけど、いつもあたしを最優先してくれていたから特別なんだって思っていたのに。

そうじゃなかった、本当勘違いもいい加減にしろって話だ。あたしは特別なんかじゃなかった、特別なのは…ユアが今心から想っている女の人。

その女の人が羨ましい、死ぬほど羨ましくて心の底から憎んでしまいそう。


あたしのものなんかじゃなかったのに、あたしからユアを奪った女としか思えない最低な自分がいる。

本当…最低なのはあたしだっての。


「アヤナ、じゃあな…」

「や…お願い、行かないでっ」

「……」

「ユア!ユア…!」


傍から見たらみっともない女。
それでもいいと思えた、ユアがあたしの元から去ってしまわないなら。

でも、どんなことをしてもきっとユアは好きな人の元へ行ってしまう。


はなから止められないと分かってる。
もう関係を戻すことは不可能なんだ。
小さくなっていくユアの後姿。


一度は振り返ってくれるだろうか、なんて淡い期待を持ったあたしは本当の馬鹿で、1人の女を愛してしまった男があたしなんかを気に掛けるはずがない。


結局ユアは一度も振り返ることもなく、繁華街から…あたしの目の前から姿を消した。


「ユア…ユアぁ…っ」


虚しくも、愛した男の名前を呼び続けるあたしの声が賑やかな繁華街へ消えていく。





                               【アメリカーノ/届かぬ想い】

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