雨音

不知火

雨と君1

「雨が傘を鳴らす音が好きなんだ。」
梅雨の空に広がる鉛色の雲と対比的なくらい、色白な君の横顔を見ていた雨が嫌いな僕は、
「なにそれ。そんな詩的なこと言ってないで傘入れてよ。僕の傘なんだけど。」
「どうしよっかなあ。」
高校の玄関から先に出た君が振り返って笑う。その傘の下の悪戯っぽい笑顔を見ると、誰かさんが委員会の仕事を怠けたために一緒に居残る羽目になったことも忘れそうになる。
「さすがにこの雨じゃ帰るまでに風邪ひいちゃうよ。」
「でも馬鹿は風邪ひかないっていうでしょ?」
たしかに。でも僕は馬鹿じゃない。
「仕方ないなあ。今回は君の頑張りに免じてあげてもいいよ。」
そもそも僕が頑張らないといけない状況にしたのは君だけどな、と思いながらも傘に入れてもらった。
「傘を持つのはもちろん君ね。」
大体その傘は僕のだしもちろん僕が持つつもりだった。決して彼女の笑顔にやられたわけではない。

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