詩とは言いきれない短文の呟き

SSKK

蕩ける芳香

「名前、何だっけ?」
"キキーッ"とブレーキの後
想像よりずっと柔らかい声が
頭上から降りてきたーー

夏が始まる少し前
連日続いた雨が上がり
花みたいに香る生垣の葉が
水の匂いに濃く溶けると

あるモノを呼び起こす

毒を有する類いの「蛾」
遠目は美しいと言う者もある
しかし、側を通るとなると
ちょっとした試練なのだ。

「こいつ気持ち悪いよな」
「……っっ」
立ち止まって動けずにいたのを
こうして声を掛けてくれてるのに
こくこく、頷くのが精一杯。

有名な"不良少女"のご近所さん

会話するのは初めてだし
緊張するのもそうだけど
少し乱暴な言葉遣いが
この動機を引き起こすのか

それとも好き勝手飛び回り
地面をば這いつくばり
興味本位に追い掛けてくる
恐怖でしか無い存在にか?

ミミズもカエルもバッタだって
カマキリすら平気な少年が
コイツだけは駄目なのである

"後ろ乗りな"
親指で指す荷台には
背徳と罪悪感、それと
隠しきれない好奇心を搭載して

(動けーー足!!)
まだランドセルすら馴染まない年
もちろん、実らずの初恋だった……


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