追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第十六話】緊急会議②

「ユウカはどう思う?」


アベルトに問われてユウカは慌てて「うーん」と唸った。

何か悩んでいるように見えるが、恭司には分かる。

アレはあまり話を聞いてなかったのに急に意見を求められて一旦時間稼ぎに悩んでるフリをしている時のユウカの反応だ。

行きしなに恭司が森について聞いた時と同じ表情をしている。


「多分……その通りな感じだと思うよ。あんな影の薄……潜伏能力を見せられちゃ私も連絡なんて出来なかったし。もう忍者かと思っちゃったよ」


恭司と同じ失敗をしている上に忍者のクダリは正直いらなかったと思うが、ユウカも恭司と同じ見解を示した。

アベルトはユウカについて分かっているのかいないのか、「やれやれ」とばかりに肩を竦め、頷く。

やはり娘は可愛いのだろう。

ユウカには甘い。


「まぁ、2人がそう言うのならそうなのだろう。疑ぐるような真似をしてすまなかったね。政府には、ユウカを狙ったクレイアに“私が対応した”と報告しておこう」


アベルトに言われて、恭司はようやく“表の”立場を理解した。

現状の問題に対処しようと躍起になるばかり、ついそこまで気が回っていなかった。


「……お手間を取らせます」


恭司は素直に頭を下げる。

アベルトが言っているのは、要はこの後処理の“形”のことだ。

待ち伏せしていたクレイアの諜報は全滅させたが、その結果を見て、クレイアの本部がどう思うかを考えているのだろう。

普通に考えて、ギルス・ギルバートという個人の高校生が諜報員を全滅させたと知れば、クレイアの目はどうしたって恭司に向いてしまう。

警戒レベルを上げ、ククルの判断と合わせてより興味を増すだろう。

だからこそ、

アベルトが立場上そうしたという報告にしなければならない。

アベルトは表向きにも強い武芸者で通っているし、全滅させたというならそっちの方が納得できる展開だからだ。

恭司は再度深々と頭を下げた。


「大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。何卒、宜しくお願い申し上げます」


相変わらず固い対応だったが、アベルトはニコリと微笑んだ。

苛立ちも悲しみも嬉しさもない、空虚な笑顔で、アベルトはただ頷く。

顔は笑ってはいるが、その表情に感情と呼べるものは1つもなかった。

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