追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第十五話】殺戮⑥

「……確か……お父さんが昔何か言ってたような気がするんだけどねー……。忘れちゃったよ」

「多分、そうだと思ってたよ……」


恭司は諦め混じりにため息を吐くと、ふと顔を上げた。

木々の葉の屋根によって暗かった道のりに、前方から光が差し込んでいる。

そろそろ家が近いということだ。

2人は揃って森を抜けると、いつも通りの丘に差し掛かった。

しかし、


「……どうやら、待ち伏せされていたらしいな」


森を抜けて見上げた丘の上に、1ヶ所だけいつもと違う光景があった。

自分たちの家の前で堂々と居座る1人の男性。

軍服のような物を着ていて、目にはゴーグル、口には大きなマスクを付けている。

そして、

手には長大な刀を1本。

何か良からぬことを考えているのは最早明白だった。

恭司は大きなため息を1つ吐く。


「さしづめククルの部下って所か。正体を知られた以上、生かしちゃおけねぇってか?」


恭司はそう話しながら、大きな木の枝を2本引き千切った。

今は恭司もユウカも武器を所持していない。

間に合わせだが、コレで何とかするしかないだろう。

恭司は枝の1つをユウカに投げ渡した。


「まったく、迷惑な話だね。正体なんてそっちから勝手にバラしてきただけだっていうのにさ。どう考えても私たちより先に片付けるべき相手がいるでしょうに」


ユウカはブツブツ言いながらも木の枝を受け取ると、片手で楽に構える。

適当そうに見えるが、リラックスして脱力したこの姿勢こそ、ユウカの本気の姿だ。

いつでも『瞬動』を使えるように姿勢と体制を整え、武器はすぐにでも振るえるようにしている。

それは、敵が“どこから来てもいいように”するための構えに他ならない。

恭司は面倒臭そうに頷きを返した。


「全くをもって同感だが、向こうはそうは思っていなさそうだな。さすがは犯罪者集団だ。自己中極まりない」


軽口を挟みつつも、恭司もユウカと同じように木の枝を構えた。

恭司が思い出した三谷の技はまだ『喰斬り』だけだが、ユウカとの手合わせと今日の授業で少しは戦闘の感覚を取り戻しつつある。

全盛期だった当時とは比べ物にならないほど戦力ダウンした状態だが、この程度の相手なら問題はないだろう。

恭司は木の枝の先を敵に向けた。


「“準備運動”にはいい相手だ」


途端、

恭司の両足の太腿がパンパンに膨らんだ。

ハタから見ても一目瞭然なほど大きく肥大化した太腿は、まるで風船を一気に膨らましたかのように見える。

そう、これこそ、

ユウカのソレとは違う“本物の”三谷の技ーー。

恭司は木の枝の先を改めて男の心臓に向けると、太腿を肥大化させたまま、重心をグッと落とす。

その瞬間、

肥大化させた筋肉を、ものの一瞬で爆発させた。

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