追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第十四話】ククル・ウィスター<2>⑦

教室を出て約10分。

ユウカが連れてきたのはさっきのトイレだった。

やはりトイレだった。

グランド横の男女共用トイレだった。

本来ならツッコミの1つも入れたい所だったが、今回は珍しくも2人に珍客がいる。

恭司はそれに目を向けた。


「いきなり初対面の人間を三谷恭司呼ばわりとはずいぶん無礼なことをしてくれるもんだな」


ここに至るまでの道中で、恭司も体制を整えている。

昂ぶった感情も抑えたし、思考も冷静だ。

さっきのような失態は繰り返さない。

恭司はククルをキッと睨み付けた。


「無礼……でしょうか?私はただ、貴方様がお聞きになられた質問に答えただけですよ?」

「まさかこの俺を三谷恭司なんて奴と同じにされるとは思っていなかったんだ。……俺が、俺たちが、そいつのせいで一体どれだけ辛い目にあったと思っている」


こういう設定にすることにした。

元々ユウカと合わせて親族ということになっているのだ。

似ているのはそのせい、怒っているのもそのせい……ということにした方が、辻褄が合わせやすくて都合がいい。

しかし、

ククルはクスクスと笑った。


「ふふふふふふ。なるほどなるほど。さすがは親族の方ですねぇ。そうですか。似ているのはそのためということですか。そうですかそうですか。ふふふふふふふふふふ……」


……思った以上に気持ち悪いリアクションだった。

一応怒っている体なのだが、意にも介していなさそうだ。

胆力が優れているのか空気が読めないのか……。

恭司は押されないよう、より語気を強める。


「俺たちは奴と関わり合いになどなりたくない!!似てるかどうか知らねぇが、二度と近づかないでくれ!!」


なるべくヒステリックに喚く。

感情的で思考が定まっていないように見えるよう、恭司は辺りに響かない程度に大きな声を出した。

だが、

それでもククルはニヤつきを止めない。

まるで心の中を読まれているような心地だ。


「ギルス、落ち着いて。こいつに理性的な話しても無駄だよ」


ユウカが仲裁に入る体で間に入る。

ユウカに演技ができるかどうかは微妙な所だったが、恭司はそれで落ち着いたことにした。

ヒステリックで煙に巻く作戦は難しそうだ。

次は理性で攻める。


「ねぇ、私の時もそうだったけど、何で君はそんなにも私たちに絡むの?別に誰にも迷惑かけてないんだから放っといてくれればいいじゃない」


ユウカは淡々と質問を投げ付けた。

自らの状況と合わせ、自分たちに何の用かと尋ねる。

この状況を何とかするという目的だけでなく、向こう側の情報を収集するという目的も兼ねているのだが、ククルは相変わらず笑みを崩さなかった。


「勿論それは、お二人が『我々』にとって、『掛け替えのない方々』だからですよ」


ククルは存外素直に答えてきた。

隠す気は案外ないようだ。

三谷恭司の親族である2人が『掛け替えのない存在』となる『団体』。

そんなものは、この世に1つしかない。

ユウカは確信した。


「君、やっぱり『クレイア』の……」

「はい。諜報をさせていただいております」

「……どうして、君みたいなエリートゴキブリが……」

「…………」

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