追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第十四話】ククル・ウィスター<2>④

「まぁ、最終的にどうするにせよ、今は目立たず騒がず近づかないが一番だね。下手に接触して正体バレたりしたら大変だし」

「あ、あぁまぁ……そうだな。それがいいな」


恭司は気を取り直し、冷静に答える。

今しがた頭の中に芽生えた考えは、ユウカには言わないことにした。

そのやり方は、確かに近付かないより楽で簡単に済むものかもしれないが、今の社会に生きる人間には少々理解されにくい手法だ。

それはユウカに対しても例外ではない。

例え記憶は無かったとしても、恭司の持つ倫理観や考え方は当時の時代のものだ。

人殺しなんて普通だったあの時代には、『利己の目的の達成のために人を殺すことが間違っている』なんて考え方は存在しなかった。

倫理観など存在しないに等しかったのだ。

だからこそ、

記憶は無くても恭司はそんな考えを当たり前になぞってしまう。

癖や習慣は記憶以上に人格形成に関わっていて、そればかりはなかなか変えられないのだ。

恭司の考え方はこの時代にそぐわなくて、それが間違っていると分かっていても、すぐにそれを変えることは出来ない。

しかし……


「……恭司?」

「いや……なんでもない。それで行こう」

「??」


『利己の目的のために人を殺すことが間違っている』この時代では、やはりユウカの考えの方が正しいのだろう。

恭司は脳を沈黙させた。


「よし!!そろそろ次の授業が始まるな!!教室へ戻ろう」

「え?う、うん……」


急に明るくなった恭司の様子が疑問なのか、ユウカは訝しそうな表情で頷く。

いつも仲良しな2人だが、今だけはお互いの気持ちが分からないでいた。

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教室に戻ると、他のクラスメイトたちは既に次の授業の準備に取り掛かっていた。

服も当然ながら制服に着替え終わっている。

そして、

ユウカもまた、いつの間にか制服姿になっていた。


「……いつ着替えたんだ?」


恭司は純粋に尋ねかける。

素で疑問だった。


「乙女の秘密だよ」

「乙女感をイマイチ感じねぇな……」


恭司はツッコミながらも、詳しいことは聞かないことにした。

下手をすれば薮蛇になるかもしれない。

負わなくていいリスクは避けるべきだった。

恭司は疑問を頭の隅っこに追いやって、無心のまま机を隣のユウカの席にくっ付ける。

次の授業もユウカに教科書を見せてもらう必要があるためだ。

2人はそれぞれ席につく。


「さて、それでは次の授業を始める。全員席につくように」


と、そこで、

タイミングよく教室のドアを開けて担当教員が中に入ってきた。

何とも影の薄そうな先生だ。

まるで背景の一部として生まれてきたような印象さえ受ける。

担当は国語のようだが、恭司は既に眠りそうな心地だった。


「実技訓練の後にコレはキツいな……」


思わずボヤく。

隣を見ると、ユウカも似たようなものだった。

まだ始まってもいないのに船を漕ぎ始めている。

恭司はため息を吐くと、ユウカと机をくっ付けたまま、2人は揃って机に突っ伏した。

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