追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第十三話】ククル・ウィスター<1>⑦

「……何か、狙ってそうな気がするな」


ボソリと呟かれた言葉は、対戦相手には聞こえていなかった。

相手は自分の攻撃に夢中になっている。

こんな遅い攻撃、リアルに目を瞑ってみても避けられるだろう。

周りからは相手を応援する声が響いていて、どこまでもククルの時と同じ展開だが、恭司の頭の中はそれ以外のことで一杯だった。

さっさと片付けて万事に備えるのもいいが、ここにきてさっきの話が気になってくる。


『大会に出場しそうな選手の情報はブラックマーケットで高く売れる』


売りに行く人間は大会に出場できない人間だと思っていた。

だが、

よく考えてみればそうとは限らない。

『大会に出場する選手』がライバルを蹴落とすために敢えて流す可能性もあれば、情報を使って実行したい『賭け主側の人間』だって、当然自分でも情報収集するだろう。

いやむしろそっちの方が明らかに現実的だ。

さっきの殺気のことを考えても、『敵』はそのどちらかである可能性が高い。

あるいは……


(……無いとは思うが、俺の正体に気がついている……?)


後者だとすれば事態はかなり深刻だ。

気付くには至っていなかったとしても、可能性を感じた者がいたとすれば、そいつは現状で最も危険な存在となる。

ボルディスの長男どころでは無い。

もしそうならそいつこそがいの一番に殺さなくてはならないターゲットだ。

今日すぐにでも始末しなければならない。

敵になるのかどうかも含めて、可能性のある者を把握しておくことは急務だ。


「ま、参りました……」


と、そんなことを思っていた所で、目の前の槍使いから声が聞こえた。

考え事と他への注意で気付かなかったが、どうやら決着までククルと同じになってしまったらしい。

ククルの勝ち方に良い感情を抱かなかっただけに、少し申し訳ない気持ちになった。


「ありがとうございました」


恭司は最低限のマナーだけ尽くして、そそくさとその場を去る。

至急、ユウカと話さなくてはならないことが出来た。


「それでは、本日の『実技訓練』の授業はここまでとする!!各自、疲れを残さぬよう入念にストレッチしてから教室に戻るように!!以上!!解散ッ!!」


そこで、先生から授業終了の号令がかかった。

どうやら組み合わせ的に恭司が最後だったらしい。

ユウカの所に戻ると、ユウカは体操着姿のまま、不思議そうな表情で恭司を見つめていた。

ユウカが対戦に行ってからの一連の出来事が疑問なのだろう。

恭司は無表情のままだったが、ユウカはとりあえず、


「お疲れ様。初白星おめでとう」


とだけ言った。

恭司はその様子にフッと微笑むと、ユウカの頭をポンポンと撫でる。


「ありがとう。ちなみに後で相談したいことがあってな。……少し真剣な奴だ」

「……分かった」


恭司の声のトーンで察したユウカは、小さい声と共に頷いた。

そして、

格技場に残ってストレッチをするクラスメイトたちを尻目に、2人は一足先に教室へと戻っていった。

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