追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第十一話】王族狩り:序章 ④

この国では現在、約1年に渡って『事件』が起きていた。

国内で誰よりも恵まれた地位と能力に恵まれた彼がここまで取り乱す事件だ。

この1年もの間ずっと解決していない謎の事件ーーということでもある。

この大国でいつの間にか国家問題へと発展したそれは、通称『王族狩り』と呼ばれていた。

内容は正にその名の通りだ。

この1年間で、ミッドカオスの王族『ローズ家』が、片っ端から次々と殺されている。

既にその半数以上が被害に遭い、今やローズ家で生き残っているのはごく僅か。

シェルを除けば、王である『バルキー・ローズ』と、傍系の数人しか残っていない。

それは大国としてはあってはならない事態だった。

王族は大概の場合、国内でも何かしらの役職についているケースが多い。

このミッドカオスでもそれは例外ではなく、殺された王族は、文武それぞれで少なくない人間の指揮を執っていた人物がほとんどだったのだ。

それが片っ端からいなくなってしまっているというのは、国の明確な弱体化に繋がる。

いくら世界一多い人口を誇っていようと、それを束ねる隊長がいなければ烏合の集と同じだ。

『集』とは強力である一方で、方針を定めるリーダーがいないと機能しにくい一面もある。

彼らが亡くなった後は当然別の人間がその役職に繰り上がってはいるものの、はっきり言って能力不足が否めない。

王族という身分は集を束ねるのにとても便利な肩書きで、このミッドカオス内では、『王族相手なら従うのが当然』という認識が色濃く受け継がれているのだ。

だからこそ、

王族の彼らは集を扱いやすく、迅速な方向転換が可能になっていたし、有能だった。

肩書きを必要としないくらい突出した能力があればそれも関係ないのかもしれないが、今の後任の人間たちにそれは期待出来そうに無い。

兵士たちは混乱し、新任の隊長たちは慌てふためくばかりだ。

シェルは再び大きなため息をついた。


「他国にももう十分に知れ渡っているだろうな……。情報は封鎖したが、もう1年も経っている。さすがに気付かれていてもおかしくない」


シェルは椅子に座ったまま、自然と落ち着いた声音で呟いた。

もしかしたらタバコの効果が出ているのかもしれない。

時間の経過が一番の要因だろうが、思い返しても再び気性が荒ぶるようなことはなかった。

シェルはもう一度煙を吐き出しながら、先ほどまでの思考迷路に戻る。

ーー『三大国』というその名の通り、この世界には3つの国がある。

一つは『ディオラス』。

武芸に富んだ国で、獣なども扱う野蛮な戦闘集団だ。

国内の規律はただただ『弱肉強食』の一点につきる。

王である『ルドルフ・サーライト』を筆頭に、国内の序列は全て実力で決まる国だ。

身分も役職も全て実力で勝ち取れる。

だからこそ、

上に立つ人間に無能はおらず、一人一人の能力も恐ろしく高いが、代わりに内乱や争い事は絶えず、人口はいつまでも多くならないという国だ。

要は国内で共食いが横行している。

『ルドルフ』という最強のカリスマがいなければ、とっくの昔に消滅していたであろう国だ。

そして、

二つ目は『メルセデス』。

人口も面積も三大国中のワーストワンで、これだけ聞けば小国にしか思えないような国だ。

しかし、

彼らの国としての最大の武器は、その隠密性にあった。

国として存在することは発覚しており、他国との物流も盛んに行われているものの、実はこの国がどこに存在しているのかを誰も知らないのだ。

いや、厳密には、南にあることは分かっているものの、その南へは何か不思議な力で行けなくされているというのが現状だった。

物理的な意味合いではなく、何か見えない力で辿り着けないようにされている。

世間一般では、彼らは『魔法使い』だと主張する者も少なく無かった。

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