追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー
【第七話】任務①
帰路につく道中、家に到着するまで、結局二人の間に会話らしいものはなかった。
いざ帰宅してみると、家は静まり返り、少し雰囲気がピリついているように感じる。
恭司がここに住み始めてからそれなりに経ったが、こんな雰囲気になるのは初めてのことだ。
あのユウカが申し訳無さそうに項垂れているのだ。
普段ならよっぽど見ることのできない光景だが、確かに珍しくて貴重な光景であっても、実際に目の前にすると珍しい以上に気まずいものだ。
慣れない上に接し方に困る。
玄関のドアを開けて早々、恭司はすぐに話しかけようと顔を向けたが、ユウカはそれと同時にパタパタと自室へ向けて走っていった。
恭司はハァーッと一息つく。
少し重症のようだ。
「別に気にすることなんてねぇってのに……。変な所で繊細な奴だな……」
恭司は呟くと、一人ゆっくりとした足取りでリビングに向かう。
自室に行った所で特にやることもないため、半ば習慣のようなものだ。
自室でボーッとするくらいなら、リビングでコーヒーでも飲んでる方がよっぽどいい。
そう思って足を向けたが……しかし、
リビングには先客がいた。
「やぁ」
アベルトだった。
今日の早朝に家を出たばかりのはずだが、彼は一人椅子に座ってカップを持ち、コーヒーを啜っている。
椅子のすぐそばには、旅行バッグのような大量の荷物があった。
「来てたんですね。いつ帰られたんですか?」
「さっきだよ。うちの娘がウォーリア家と揉めたって話を聞いてね」
「あぁ……なるほど」
さっきのイザコザには、沢山の人間が野次馬を作っていた。
それだけ、多くの注目を浴びていたということだ。
しかも、
事態は実の娘と貴族の長男の殺し合い一歩手前だったときている。
家を出たのが今日の朝だろうと何だろうと、さすがに放置することは出来なかったのだろう。
それに、ユウカがいるとなれば、その場に恭司も一緒にいるであろうことも容易に想像がつく。
アベルトからすれば、恭司の正体がバレていないかどうかも気になったに違いない。
多くの野次馬で注目を浴びていたというのなら尚更だ。
要は、アベルトはさっきのイザコザの結果を本人たちに直接聞きにきたのだ。
「ずいぶん派手に揉めたようだね。私の方にもすぐに情報が回ってきた。本来なら現場に直行しても良かったのだが、それはそれで余計なイザコザを生みかねないからこっちに来たんだ」
「そうですか……」
恭司は自分の分のコーヒーを入れると、アベルトの対面の席に座った。
アベルトが持ってきたのだろう、新しい豆があったので、今回のコーヒーにはそれを使わせてもらっている。
特に断りも入れてないが、なんせ今日の朝に『この家の物は何でも自由に使っていい』と言われたばかりだ。
適当に言っていただけの可能性もあるが、たかがコーヒー豆1カップ分。
恭司は気にしなかった。
「さて……早速で申し訳ないが、事の次第を教えてもらってもいいかな?あいにく時間はそれほど無いんだ」
恭司がコーヒーを1口飲むと、アベルトはタイミングよく落ち着いた声音でそう尋ねてきた。
表情は温和で、特に焦った様子もない。
その落ち着きにほんの少しの不可解さを感じながらも、恭司は今日あった出来事をそっくりそのまま伝えた。
アベルトはふむふむと頷きつつ、時々質問しては、納得したようにまた頷く。
細部まで話したために、報告には15分もかかった。
ひとしきり聞き終えると、アベルトはすっきりしたような笑顔で大きく頷く。
「ありがとう。うちの娘が迷惑をかけたね。君のおかげで大事にならなくて良かった」
「まだ安心できませんけどね。それに……大事にはこれからなるかもしれませんよ」
「メルディさん……だっけ?気付かれてそうなのか?」
「いえ、そこまでは無いと思いますが、何か得体の知れない気持ち悪さは感じましたね。それに、彼女と一緒にいるラウド・ウォーリアは、普段からよくユウカにちょっかいをかけてくる男のようですし、これからも何かしら接触を受ける可能性はあります」
「ふむ……。なるほどね。だが、それはそれで放置するしかなさそうだな。下手にこちらから動いて藪蛇になったら最悪だ」
「仰る通りかと思います」
いざ帰宅してみると、家は静まり返り、少し雰囲気がピリついているように感じる。
恭司がここに住み始めてからそれなりに経ったが、こんな雰囲気になるのは初めてのことだ。
あのユウカが申し訳無さそうに項垂れているのだ。
普段ならよっぽど見ることのできない光景だが、確かに珍しくて貴重な光景であっても、実際に目の前にすると珍しい以上に気まずいものだ。
慣れない上に接し方に困る。
玄関のドアを開けて早々、恭司はすぐに話しかけようと顔を向けたが、ユウカはそれと同時にパタパタと自室へ向けて走っていった。
恭司はハァーッと一息つく。
少し重症のようだ。
「別に気にすることなんてねぇってのに……。変な所で繊細な奴だな……」
恭司は呟くと、一人ゆっくりとした足取りでリビングに向かう。
自室に行った所で特にやることもないため、半ば習慣のようなものだ。
自室でボーッとするくらいなら、リビングでコーヒーでも飲んでる方がよっぽどいい。
そう思って足を向けたが……しかし、
リビングには先客がいた。
「やぁ」
アベルトだった。
今日の早朝に家を出たばかりのはずだが、彼は一人椅子に座ってカップを持ち、コーヒーを啜っている。
椅子のすぐそばには、旅行バッグのような大量の荷物があった。
「来てたんですね。いつ帰られたんですか?」
「さっきだよ。うちの娘がウォーリア家と揉めたって話を聞いてね」
「あぁ……なるほど」
さっきのイザコザには、沢山の人間が野次馬を作っていた。
それだけ、多くの注目を浴びていたということだ。
しかも、
事態は実の娘と貴族の長男の殺し合い一歩手前だったときている。
家を出たのが今日の朝だろうと何だろうと、さすがに放置することは出来なかったのだろう。
それに、ユウカがいるとなれば、その場に恭司も一緒にいるであろうことも容易に想像がつく。
アベルトからすれば、恭司の正体がバレていないかどうかも気になったに違いない。
多くの野次馬で注目を浴びていたというのなら尚更だ。
要は、アベルトはさっきのイザコザの結果を本人たちに直接聞きにきたのだ。
「ずいぶん派手に揉めたようだね。私の方にもすぐに情報が回ってきた。本来なら現場に直行しても良かったのだが、それはそれで余計なイザコザを生みかねないからこっちに来たんだ」
「そうですか……」
恭司は自分の分のコーヒーを入れると、アベルトの対面の席に座った。
アベルトが持ってきたのだろう、新しい豆があったので、今回のコーヒーにはそれを使わせてもらっている。
特に断りも入れてないが、なんせ今日の朝に『この家の物は何でも自由に使っていい』と言われたばかりだ。
適当に言っていただけの可能性もあるが、たかがコーヒー豆1カップ分。
恭司は気にしなかった。
「さて……早速で申し訳ないが、事の次第を教えてもらってもいいかな?あいにく時間はそれほど無いんだ」
恭司がコーヒーを1口飲むと、アベルトはタイミングよく落ち着いた声音でそう尋ねてきた。
表情は温和で、特に焦った様子もない。
その落ち着きにほんの少しの不可解さを感じながらも、恭司は今日あった出来事をそっくりそのまま伝えた。
アベルトはふむふむと頷きつつ、時々質問しては、納得したようにまた頷く。
細部まで話したために、報告には15分もかかった。
ひとしきり聞き終えると、アベルトはすっきりしたような笑顔で大きく頷く。
「ありがとう。うちの娘が迷惑をかけたね。君のおかげで大事にならなくて良かった」
「まだ安心できませんけどね。それに……大事にはこれからなるかもしれませんよ」
「メルディさん……だっけ?気付かれてそうなのか?」
「いえ、そこまでは無いと思いますが、何か得体の知れない気持ち悪さは感じましたね。それに、彼女と一緒にいるラウド・ウォーリアは、普段からよくユウカにちょっかいをかけてくる男のようですし、これからも何かしら接触を受ける可能性はあります」
「ふむ……。なるほどね。だが、それはそれで放置するしかなさそうだな。下手にこちらから動いて藪蛇になったら最悪だ」
「仰る通りかと思います」
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