追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第六話】ラウド・ウォーリア⑥

(くそっ。困った事態だ。この場で止められるのは俺くらいだろうが、俺の存在はまだ世の中に定着していないんだ。他の人間に、特に貴族なんて連中に、勘繰られるわけにはいかない)


恭司は二人の様子を見ながら一人、思考に耽る。

実は、ここでトラブルを起こして問題になるのは、完全に恭司の事情だ。

ユウカの評判がさらに落ちるというのも勿論あるが、それ以上に恭司の存在が目立ってしまうのが一番マズい。

恭司があの三谷恭司であることは、絶対的に世間に知られてはならないのだ。

今の段階で顔を覚えられるのは好ましくない。

なんせ、今後についての話し合いの中で、恭司が実際に外部の人間とどう接するのか、ユウカとその点についてはまだ全く打ち合わせ出来ていないのだ。

今こうして貴族と話をしているのは、完全にスケジュールの外の出来事。

ラウドと話せば、当然、お前はそもそも誰だという話になるだろう。

そして、

もちろん、まだ偽名の用意など無い。

「三谷恭司」とそのまま自己紹介するわけにもいかないため、ここは静観せざるを得ないのだ。

ラウドが貴族だというのならば尚更。

アベルトが学校に対して申請する名前次第でもあるが、とにかく今その話題に触れられるわけにはいかない。

しかし……


(さすがにこうなったら強引に行くしかないか……。介入しなければ収まりそうもない)


『介入せずに収束する』というのがベストな状況ではあるものの、このまま放置して2人の騒ぎが大きくなりすぎる方が問題だった。

そして、

収束の望みはほとんど見受けられず、喧嘩が殺し合いにまで発展しそうになっている今、ベストな結果はほとんど望めそうにないときている。

となれば、

介入して少し顔が覚えられることになってでも、恭司の名前という最悪のファクターさえ防衛しきれば、ここで喧嘩を止めるのが最良な判断だった。

結局悪い結果になるのであれば、少しでもマシな形に落ち着ける方がいいに決まっている。

恭司は一人覚悟を決めると、二人を刺激しないよう静かに腰を上げた。

なるべく目立たないように、こっそりと迅速にユウカを連れ出す。

恭司のミッションは、なるべく自分の情報を与えずにこの場から強制離脱を図ることだ。

喧嘩を終わらせ、自分の名は名乗らず、早く穏便にユウカを落ち着けて、出来る限り目立たずにさっさとユウカを連れて帰る。

恭司は決心すると、今にも襲い掛かりそうなユウカの後ろにそっと近づき、肩に優しく触れた。

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