追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第六話】ラウド・ウォーリア③

(悲しい話だな……)


恭司はコーヒーの中身をストローで吸い上げながら、密かに思う。

もちろん、表情になどは毛ほども出さない。

ラウドも気付いた様子は無さそうだ。

しかし、
だからこそ、

恭司の思考は止まらなかった。

恭司はユウカに目を向ける。

可愛いと、素直に思った。


(顔はそもそもピカイチなんだよな……。性格も……世間的には良くなくても、俺的には問題無い)


恭司は冷静に分析する。

最近、恭司とユウカの間にある距離感が、徐々に縮まっているのを感じていた。

ユウカのことを、常に目で追ってしまう。

これが恋愛としてのものなのかは不明だが、まぁ、アベルトの思惑としては成功していると言えるのだろう。

今や恭司にとっても、ユウカは掛け替えのない唯一無二の存在なのだ。

放り出すなんてあり得ない。

アベルトの作略によるものなのかどうかは分からないものの、恭司はユウカのためなら何でもしてやろうと思える。

それは純然たる事実だ。

そして、

ユウカが悲しむのであれば、恭司はそうたらしめた存在を決して許さないだろう。

絶対に、絶対に、決して許すようなことはしないだろう。

不思議なことに、この短い期間の中で、恭司はユウカのことをそこまで想えるようになってきていた。

 特に一線を越えた訳でも無いのに何故そこまで想えるのか。

それは分からないが、恭司はぼんやりとしながらも、それを肌で感じていた。


「……身の程を弁えろ。お前のような人間に、この俺がわざわざ話しかけてやったんだぞ」


恭司が一人思考に耽っている間にも、二人の話は進み続けている。

いつの間にか、ラウドはかなりおかんむりな様子だった。

声に明らかな怒りの感情が混じっている。

自分と対等な返事を返すユウカのことが許せないのだろう。

目の中には少しばかり殺意も浮かんでいる。

そこに漂う空気は、間違いなく緊急事態と呼べるものだった。

恭司は瞬時に思考を切り替える。

危険な状況だ。


「頼んだ覚えはないよ。むしろ君に話しかけられて私が嬉しがると思ってるの?イラつくからやめて欲しいんだけど」


ユウカの方も明らかに冷静ではなくなっている。

言い合いを続けるうちに感情が強く入り過ぎたのだろう。

ラウドの方も似たようなものだ。

どちらも引く気が無いし、やる気満々になっている。

恭司は自分の髪を無造作に弄くり回した。

極めて、極めに極め切って、面倒な状況だ。

恭司は自らの失敗を感じ取る。

少し考えに耽り過ぎてしまった。

状況に対する対応が遅れ、完全に後手となってしまったのだ。

時間は戻らないが、それでも恭司は何とかしなければならない。

ここでトラブルなど、今は絶対に起こすべきではないのだ。

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