追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第四話】告白⑧

「そ、そろそろ用意しよっか。ご飯も食べ終えたし」

「そうだな……。片付けるよ」


恭司はそう言って、食器をまとめて洗い場へと持っていった。

ユウカは恥ずかしそうに俯いている。

恭司は頬をポリポリと掻きながら、食器を洗い始めた。

そんなに気恥ずかしそうにされると、恭司までこそばゆい気持ちになってくる。


「恭司はさ、結婚とか……そういうのに興味ってあるの?」


恭司が食器洗いをしていると、背後からそんな声が聞こえた。

恭司はユウカに見えないよう困った顔をしながら、食器洗いへの意識を半分に分ける。


「興味ないって言ったら嘘になるが、別に今は考えてないな。なんせ、彼女以前に友達……いや、知り合いすらいないんだ。それに、俺の素性を知ってまともに付き合える奴なんていねぇよ」


恭司はそう言いながら、二人分の食器を全て洗い終わり、元の場所に片付けた。

もう1週間以上この家にいるのだ。

さすがに生活する上で必要なことは色々と覚えてきた。


「いや、そんなこともないんじゃないかなー……。私は、少なくとも問題ないけど……」


ユウカの口から小さく呟かれた言葉。

恭司はそれに、聞こえないフリをした。


「それよりさ、今日何時頃に出発しようか?恭司何か出発前にやっておくことある?」


ユウカは切り替えて、明るくそう話し掛けてきた。

恭司は少し考える素振りを見せるものの、そんなもの全く思い浮かばない。

歯磨きとかの最低限のレベルくらいだ。


「特に無いな。ユウカはどうだ?」


尋ね返すも、ユウカもうーんと首を捻った。

年頃の女が何故悩む……と思いながらも、恭司は返答を待った。

だが、

ユウカは最終的に首を元に戻すと、


「無いね」


と答えた。


「いやいや、何もねぇのかよ。化粧とか服のコーディネートとかで時間かかるだろう?」

「いやー、別に無いね。化粧はしないし、服装もいつも適当だし」

「女の子としてどうなんだ、そこは……」

「顔面に自信が無い人はやるべきなんじゃない?私みたいに元が可愛くてスタイルも良い人間はそんなことやる必要がないんだよ」

「…………」

(言い切りやがった……。間違ってねぇけど、すげえな)


恭司は心の中で感心に頷いた。


「それとも……恭司はそういうのちゃんとやってるコの方が好きなの?」


ユウカは上目遣いにそう尋ねてくる。

両手の人差し指同士がイジイジとぶつかり合っているのが少し気になった。


「まぁ、ぶっちゃけ無い方がいいな。化粧って要は美人の仮面付けてるようなもんだろう?素顔を晒せねぇような奴と、面と向かって話す気にはなれねぇな」

「うわー、世の中の女全員を敵に回しそうなこと言うねー。すごいよ」

「…………」

(お前にだけは言われたくねぇよ)


恭司は心の中でツッコミを入れた。


「まぁ、お互い時間かからないってんなら早く行っちゃおうよ。こういうのは早く行って、速く終わらせて、早く帰るのが一番なんだから」

「ウィンドウショッピングを楽しんだりはしないのか?」

「楽しくないからやらない」

「…………」


即答だった。


「恭司はやりたいの?」

「楽しさとは別だが、やりたいとは思ってるよ。なんせ、俺は街に行くのは今回が初めてなんだ。世の中で何を売ってるのか気になるじゃないか」

「ふーん。そうなんだ……。好奇心的な?」

「そうだな。街並みとかも気になるし、ユウカやアベルトさん以外にどんな人がいるのかも気になる」


恭司はそう言って、街に対するイメージを膨らませた。

近未来的なカッコイイ街並みが頭に浮かぶ。


「でも、恭司多分、街歩いてたら浮いちゃうよ?」


しかし、


そんな恭司のもとにそんな言葉が投げ付けられた。


「え?何でだ?俺に何か変なとこあるか?」

「私と一緒に歩いてるじゃん」

「…………」

(なるほど……)

「まぁ、ウィンドウショッピング楽しみたいなら止めないし、私も空気読んで先に帰っておくけどね」

「いや、そこは一緒に回ってくれよ。浮いたって俺は別に気にしないぞ?」

「私が気にするの。とにかく、これもう決定事項だから。さっさと用意しよ」


ユウカはそう言って、さっさと自室に戻っていった。

上機嫌だったのがいきなり不機嫌だ。

恭司は大仰に肩を竦め、自らも自室へと戻っていく。

ユウカが不機嫌になった理由は分からないでもないが、恭司は敢えて、気付かないフリをした。

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