追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第四話】告白⑤

「おはよう……」


ユウカが起きてきたのは、アベルトが家を出てから約40分ほど経ってからのことだった。

時間で言えば、6時を少し回ったくらい。

恭司は生唾をゴクリと飲み干した。

少し緊張する。


「アレ?お父さん、もう出てったんだね。相変わらず慌しいなぁ……」


ユウカは眠そうに目を擦りながら、半覚醒状態で欠伸混じりにそう呟いた。

恭司はそんなユウカに対し、ついつい目を背けてしまう。

昨日のアベルトとの会話で、ユウカは恭司が普通の一般人でなかったことに気づかされたはずだ。

恭司からすれば、まるでユウカを騙していたような気分になる。

後ろめたかった。


「恭司もいつもより早いね。何時頃に起きたの?」


しかし、

ユウカは恭司の心情を知ってか知らずか、完全に普段通りの声でそう話しかけてきた。

緊張感は……全くこれっぽっちも感じられない。

まるでいつも通りだ。

だが、

そこは敢えて合わせようと無理をしているのかもしれない。

恭司は慎重に頷いた。


「……だ、大体5時頃かな……」


少し出だしで詰まってしまった。

ユウカは恭司の様子にクエスチョンマークを浮かべている。

恭司としては、苦笑いで返すしかなかった。


「へぇー、そうなんだ。早く起きるのはいいことだよね。私も普段は早寝早起きの良い子なんだけど、昨日はなんか夜中にお父さんから話があるって言われてね。けっこう夜遅くまで寝かせてくれなかったんだよ」


ユウカはそう言いつつ、冷蔵庫までノロノロと歩いていき、アイスのコーヒーパックを取り出した。

恭司の頬に冷や汗がゆっくりと伝う。

アベルトはユウカに確かに話をしたのだ。

別に疑っていたわけではないが、残念ながら、これに間違いは無かったようだ。


「……どんな話を聞かされたんだ?」


恭司は再度詰まらないよう、慎重に尋ね返す。

内容ならもちろん知っているが、ユウカの反応を見たかった。

なんせ、つい最近までずっと一緒にいた男が常軌を逸した最悪の殺人鬼だと判明したはずなのだ。

普通は怖くて眠れない。


「んー、眠かったし、何言ってたのかイマイチ覚えてないなぁ……。確か恭司に関することだった気がするよ」

「…………」


軽かった。

思っていた何倍も軽く、アバウトだった。

アベルトは確かに、ユウカはそんなことで臆する人間じゃないとは言っていたが……臆する臆さない以前に話をあまり聞いていない。

恭司はそれでもとかぶりを振ると、表情を整える。

恭司にとって、ユウカはあらゆる面で大切な人物だ。

嫌われたくない。

だが、

これはアヤフヤなままにしてはいけない話だ。

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