追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第三話】アベルト・バーレン⑦

頭の中にただ溢れる疑問。

たった一つすら解決のための手段が思い浮かばない。

どういう状態が解決なのかも分からない。

冷静になろうと思っていても冷静になれない。

完全にパニックだ。

どうしたらいいのか一切不明だ。

何だ俺は。

動揺し過ぎて落ち着けない。

一度寝たい。

目が覚めたら何か変わるかもしれない。

アベルトが冗談だよと笑ってくれるかもしれない。

でも……

それが出来ないことくらいは、今の恭司でも理解していた。


「ふむ……。どうやらパニックになってしまったか。君は……三谷恭司は、私が思っていたよりも善良な人間なのかもしれないな」

「……え?」


恭司は疑心もそこそこに顔を上げた。

罰せられることにばかり染まっていた頭の中に、一筋の光明が差し込んでくる。

アベルトは、何を言うつもりだ?


「今の君を見て、私にも少し思う所があったよ。元々私は君をこのまま制圧して処刑台にまで連れていくつもりだったのだが、もしかしたら君は、まだこの世に生きていていいのかもしれない」

「……どう……いう……ことでしょうか?」

「君がこのまま善良な人間であり続けるというのならば、生かしておいてもいいかもしれないと思ったんだよ」


沈んでいた所から急に持ち上げられる。

どういうつもりなのか分からない。

とりあえず、今の恭司には聞く以外の選択肢が無かった。

流れに身を任せる。

それしか、対応の仕方が分からなかった。


「まぁ、もちろん。タダでというわけにはいかない。仕事をしてもらう。君にしか出来ない仕事だ」

「……何を……させたいんですか?」


イエスもノーも無かった。

今の恭司には、イエス以外の道がない。

これは、取引でもお願いでもなく、命令に近いものだ。


「正体をバレないようにしながら、この世を武術主義に切り替えてもらいたい。君に、今の世の武術界の覇者となり、魔法主義を一掃してもらいたいのだ」


言っている意味が分からなかった。

武術主義?

魔法主義?

何だそれは。

切り替えるも何も、今の世の中の仕組みすら知らない恭司に、その難易度など分かるはずもない。

どういうことをすればいいのかも、どうなればいいのかもまるで分からないのだ。

頭にクエスチョンが浮かぶのは仕方のないこと。

だが、

さっきも言った通り、今の恭司にはイエスもノーも無いのだ。

恭司は頷く。

イエスだ。

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