追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー
【第三話】アベルト・バーレン⑤
「……顔色が悪いね。何か思う所でもあったのかな?」
恭司が思考に耽っていると、アベルトから唐突に質問が飛んできた。
いきなりのことだったが、恭司は慌てずに首を横に振る。
「……いえ、何も。ここまでの話を頭の中でまとめていただけです」
嘘をついた。
意味があるかは分からない。
だが、
簡単に認めることは危険だと感じた。
アベルトにとっても、そして、自分にとっても、
それはまだ、
証拠のない話だ。
「……そうか。まぁ、いきなりこんな話をされても正直困るだろうなと思っていたよ。しかしね、三谷君。君に思う所があろうとなかろうと、私にはあったから、私はこの話をしたのだよ」
アベルトは相変わらずの慎重なスタンスで話を進めていく。
中途半端な状態で終わらすつもりは決してないと、その表情は語っていた。
「何を……思うことがあったというのですか?」
恭司は生唾をゴクリと飲み干す。
緊張感が部屋を覆い、喉が渇いてきた。
追い詰められている。
そう思った。
アベルトは、恭司と同じような顔をして、
一息飲み込む。
「実はね、その当時の、世界を混乱たらしめた二人……。そのうちの一人は、『三谷恭司』というんだよ」
空気が、ピリッと張り詰めた。
空気中に痛みを伴う何かが張り巡らされたかのように、身動きの一つすら躊躇われる雰囲気が流れた。
呼吸が細くなり、思考が麻痺し始める。
ーーこの人は何を言っているのだろう?
現実から目を逸らしたがる心が、考えることを放棄せよと訴える。
だがそうもいかない。
脳がギリギリのところでそう流れてしまうのを食い止め、精一杯頭を回す。
しかし、
結局それは、単にアベルトの言うことに頷く結果となりそうな考えしか生まなかった。
自分は、今追い詰められているのだ。
記憶が無いから身に覚えが無い。
それでも、その事実がリアルなのだとすれば、やはり自分は罰せられるべき人間となってしまうだろう。
話の中の三谷恭司は、人を何千何万と殺した殺人鬼なのだ。
「……アベルトさんは、私の正体がその男で、時空間魔法でこの時代まで飛ばされてきたとお考えなのですね?」
「……ああ。そう考えている」
「……名前の他に、何か証拠はあるんですか?」
恭司はすがるような気持ちでそう尋ねた。
恭司が自分を『三谷恭司』だと認識するに至ったのはつい最近だ。
単に、服に書いてあった名前から連想したに過ぎないものだ。
自分の記憶違いだった可能性も残っている。
自分は本当は違う名前の人間で、たまたま『三谷恭司』の名前が記憶に残っていただけかもしれない。
だが、
アベルトはそんな恭司の考えを打ち砕くかのように、静かに頷いてみせた。
恭司が思考に耽っていると、アベルトから唐突に質問が飛んできた。
いきなりのことだったが、恭司は慌てずに首を横に振る。
「……いえ、何も。ここまでの話を頭の中でまとめていただけです」
嘘をついた。
意味があるかは分からない。
だが、
簡単に認めることは危険だと感じた。
アベルトにとっても、そして、自分にとっても、
それはまだ、
証拠のない話だ。
「……そうか。まぁ、いきなりこんな話をされても正直困るだろうなと思っていたよ。しかしね、三谷君。君に思う所があろうとなかろうと、私にはあったから、私はこの話をしたのだよ」
アベルトは相変わらずの慎重なスタンスで話を進めていく。
中途半端な状態で終わらすつもりは決してないと、その表情は語っていた。
「何を……思うことがあったというのですか?」
恭司は生唾をゴクリと飲み干す。
緊張感が部屋を覆い、喉が渇いてきた。
追い詰められている。
そう思った。
アベルトは、恭司と同じような顔をして、
一息飲み込む。
「実はね、その当時の、世界を混乱たらしめた二人……。そのうちの一人は、『三谷恭司』というんだよ」
空気が、ピリッと張り詰めた。
空気中に痛みを伴う何かが張り巡らされたかのように、身動きの一つすら躊躇われる雰囲気が流れた。
呼吸が細くなり、思考が麻痺し始める。
ーーこの人は何を言っているのだろう?
現実から目を逸らしたがる心が、考えることを放棄せよと訴える。
だがそうもいかない。
脳がギリギリのところでそう流れてしまうのを食い止め、精一杯頭を回す。
しかし、
結局それは、単にアベルトの言うことに頷く結果となりそうな考えしか生まなかった。
自分は、今追い詰められているのだ。
記憶が無いから身に覚えが無い。
それでも、その事実がリアルなのだとすれば、やはり自分は罰せられるべき人間となってしまうだろう。
話の中の三谷恭司は、人を何千何万と殺した殺人鬼なのだ。
「……アベルトさんは、私の正体がその男で、時空間魔法でこの時代まで飛ばされてきたとお考えなのですね?」
「……ああ。そう考えている」
「……名前の他に、何か証拠はあるんですか?」
恭司はすがるような気持ちでそう尋ねた。
恭司が自分を『三谷恭司』だと認識するに至ったのはつい最近だ。
単に、服に書いてあった名前から連想したに過ぎないものだ。
自分の記憶違いだった可能性も残っている。
自分は本当は違う名前の人間で、たまたま『三谷恭司』の名前が記憶に残っていただけかもしれない。
だが、
アベルトはそんな恭司の考えを打ち砕くかのように、静かに頷いてみせた。
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