追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第二話】模擬戦⑩

「あ、あり得ない……」


ユウカは愕然とする。

こんなはずではなかった。

この展開は想定していなかった。

ユウカが本気の技を繰り出しても、通じないなんて。


「次は、俺の番だな」


恭司は背後にいるユウカの方にゆっくりと向き直ると、突きに構えた。

ユウカは未だショックを振り切れず、ほんの僅かな時間思考が停止する。

だが、

もう遅い。

恭司は構えた体制から急激に体重を前にシフトさせていくと、あっという間に攻撃体制を整え切ってしまった。

ユウカとの距離はそれなりにあって、とてもここから突きを当てることなど出来ないはずだが、ユウカは戦慄を禁じ得なかった。

出来る気がして、あり得る気がして、また真似される気がして、ユウカの背筋に冷たい汗が一瞬のうちに大滝となって滑り落ちた。

そして、

恭司は刀の切っ先をユウカの少し横に向け、その間に脹脛と太腿の筋肉が凄まじく膨張する。

……これは、ユウカの時にはなかった動きだ。

世界がまるでスローモーションになったかのように、一瞬、恭司の動きが止まって見える。

しかし、

瞬き一つした頃には、止まっていたはずの恭司の姿はそこに無く、いつのまにかユウカの背後に立っていた。

剣技というよりはまるで砲撃のような技だが、恭司のそれは、ユウカのように派手な痕跡を残すことなく、ユウカよりも明らかに速かった。

恭司は、ユウカと同じ技を、ユウカ以上のクオリティでやってのけたのだ。


「恭司……君は一体……」


ユウカが尋ねてくる。

しかし、

それは恭司にも分からなかった。

何で、自分がこの技を使えるのか。

何故、"最初から知っていた"のか。


「分からない……。ユウカのそれを見て、俺は咄嗟に懐かしく感じたんだ。この技を……前にも使っていたことがあったような気がして……試さずにはいられなかった」

「…………」

「悪いことをしたと思っている。もちろん、からかうとかそういうつもりではなかったんだ。ただ……」

「…………」


場に変な空気だけが取り残される。

何気なく始めた腕試しで発覚したそれは、どちらにとっても、あまりにも大きすぎる事実だった。

戦いは自然と終わり、ユウカも恭司もその場に立ったまま、一言も喋らない。

しかし、


「これは……久しぶりに帰ってきたらずいぶんと面白いものが見れた」


その時、2人の背後から突如として声が聞こえた。


「……誰だ?」


恭司はいきなり現れたその男に容赦ない敵意を向ける。

パッと見た感じでは若そうに見えるが、肌の張り具合や服装などを見るに、おそらくは40ほどの歳だろうか。

平均的な身長だが、体つきは異常にしっかりしている。

筋肉がはち切れそうなほど膨らんでいて、服がパンパンになっているほどだ。

そして、

このヒシヒシと伝わってくる圧倒的な存在感。

おそらくは武芸者。

それも……かなりのレベルだ。


「そう睨みつけないでくれ。何も危害を加えにきたんじゃない。ただ家に帰ってきただけだ」

「家に?」


恭司はユウカを見た。

ユウカは頷いている。

どうやらそういうことらしい。


「私の……お父さんです」

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