追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第二話】模擬戦⑧

「はあっ!!」


恭司はまるで一瞬のような速度で距離を詰める。

木刀は下から。

勢いに合わせた高速の振り上げだ。

ユウカは体制が整わない中、かろうじてその一撃を躱す。

しかし、

恭司の手によって振り上げられた木刀は、ユウカに躱された瞬間に下へと向きを変えた。

高速の方向転換。

音速の振り。

いきなり振り下ろしと化けたその一撃に、ユウカはギリギリで木刀を挟み込ませる。

ギリリと膠着するが、その一瞬に恭司は片足を振り上げ、強烈な蹴りを放った。

ユウカは瞬時にガードしたが、体が浮くのは抑えられない。

ユウカはあっという間に蹴り飛ばされ、数瞬、宙を彷徨った。


「これ……!!まさか……ッ!?」


恭司はユウカの体の浮いたその一瞬を見逃さない。

まるで飛ぶように跳び、蹴り飛ばされている真っ最中のユウカに追い打ちをかける。

その構えは突き。

ユウカは蹴り飛ばされた影響など意に介さず、両手を木刀に添えて、その一撃にかち当てた。

足元は定まらない中でも、卓越した身体能力とセンスで、何とか直撃は防ぐ。

だが、

いくら両手でも、足が地面に付いていなければ力は出せない。

ユウカの体は、そのまま後ろへ吹き飛ばされた。


「しん、じ、られない!!」


ユウカは吹き飛ばされながら、何とか地に無理やり足を付き、何度かバウンドするように着地した。

勢いを殺すことには成功したが、その代償として思いのほか体力を消費してしまった。

ユウカは両足が地面に着いた途端、改めて構え直し、荒れた息遣いで恭司を見る。

恭司は既に、ユウカの目前で次の攻撃の準備を整え終わっていた。

構えは上。

完全に振り下ろしだ。

ユウカは凄まじい速度で叩き落されるその一撃を、両手を使ってかろうじて受け止める。

さすがに二の舞は起こすまいとすぐに弾いたが、さっき感じたばかりの驚愕は当然まだ拭えていない。

この一撃も、さっきの技も、恭司は完全にユウカの動きを真似ていたのだ。

ユウカが代々の継承で身に付けたあの技を、あの足運びを太刀筋を、恭司は完全にコピーしていた。

普通じゃ勿論有り得ない。

アレは世の中には全く広まってなどいない技なのだ。

記憶どうこうの話じゃない。

恐ろしいセンスだ。

そして、

恭司の追撃はまだ終わっていない。

次は横から。

遠心力を利用した恐ろしく重くて速い一撃を、恭司は同い年の女の子へ向けて全力で打ち出す。

ユウカは木刀を縦にして両手でそれを受け止めたが、ユウカの軽い体はそれでも楽々と吹き飛んだ。

ユウカも武芸者であるが故にそうか弱いはずもないが、さすがに男と女だ。

筋力量は当然違うし、心なしか恭司の一撃はどんどん鋭く、重くなっている。

ユウカはまたしても、恭司の横薙ぎの一閃に吹き飛ばされた。

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