追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第二話】模擬戦⑦

「驚いた……。まさか防ぎ切られるとは思わなかったよ」


ふと、ユウカは一旦動きを止め、話しかけてきた。

その声は割と真剣なものだ。

ユウカにとって、どうやらこれはかなり意外なことだったらしい。


「防ぎ切れなかったらベッドに逆戻りじゃないか……」


恭司は呆れたようにため息を吐く。

やはりそれが狙いだったようだ。


「ま、まぁ、防げたんだし良いじゃん。言っとくけど、このレベルに付いて来れる人なんて、クラスにも数えるくらいしかいないんだから、もっと嬉しがってくれてもいいんだよ?」


ユウカは少し早口でまくしたてる。

話題を変えたがっているのが見え見えだったが、さすがに気付かない振りをした。

ちょっとした腕試しとはいえ、試合は試合だ。

空気くらいは読む。


「クラスとか言われても正直分からんさ。俺は学校っていうもの自体、記憶にねぇんだからな」

「まぁ、そりゃあそうだろうけどさー……。ちょっとくらいは自慢気になってくれてもいいと思うんだよね」

「そう言われてもな……」

「でないと…………これからさらに速くしても、驚き薄くなっちゃうじゃん?」

「何?」


途端、

気付けばユウカの顔が目の前にあった。

恭司は瞬時に木刀を振り、防ぐ。

恭司の頭上で、木刀同士のぶつかり合う音が響いた。


「これもよく防いだね!!」


ユウカはテンションが上がってきたのか、その声は少し大きかった。

恭司はすぐに後ろへ跳び、臨戦体制を整える。

防ぎはしたものの余裕は無かった。

アレは出会いがしらの振り下ろしだったが、視界に入れられたのはほんの一瞬で、移動というよりはまるで瞬間移動のように感じた。

確かに、さっきまでよりもう1段階速くなっている。


(目で追うのもかなりギリギリだ。正直、普通に驚いたぞ)


恭司は木刀を構え直す。

ユウカは既に、第二陣の準備を整え終わっていた。


「さぁ、これも防げるかな!?」


次は下から上の振り上げだった。

同じ速度で恭司の眼前に移動し、地面スレスレの見えにくい位置から、まるで一瞬のような速度で恭司の顔へ向けて走る。

恭司はそこに木刀を当てて食い止めるが、木刀同士がぶつかった瞬間、すぐに違和感を感じた。


(力が弱い……!?)


恭司は途端に身を屈める。

その瞬間、

その上をユウカの蹴りが通過した。


「これも防ぐんだ!!」


ユウカの方ももしかしたら冷静で無くなっているのかもしれない。

今の蹴りは相当強かった。

当たれば本当に無事で済んだか分からない。

下からの振り上げは囮で、本命は横回転の宙蹴りだったのだ。

振り上げを無理矢理キャンセルする力技でもあり、体ごと宙返る博打技でもあった。

当たった時のリターンは大きいが、普通はこんな腕試しに使わない。

だが、

それでも恭司は、嬉しそうにニヤリと笑った。

冷静で無くなっているのは恭司も同じ。

そして、

ハイリターンな技は、大抵の場合、ハイリスクでもあるものだ。


「ようやく隙を見せたな」

「ッ!!」


自らの宙にいる状態で気付くユウカ。

しかし、

もう遅い。

木刀が一瞬のような速度で振り上げられ、瞬く間に振り下ろされる。

ユウカは間一髪木刀で防いだが、足が地に着いていない状態では吹き飛ばされるより他なかった。

恭司は上段からの振り下ろしを最後まで振り切り、ユウカを遠くに飛ばす。

ユウカは猫のように宙でクルンと翻り、フワリと地に足をつけるが、今度は恭司の追撃がユウカに襲い掛かった。

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