追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノベルバユーザー520245

【第二話】模擬戦④

ユウカはそう言ってリビングを出ると、少ししたら戻ってきた。

首を傾げる恭司を他所に、その手には2本の木刀が握られている。

一瞬何故か分からなかったが、恭司が尋ねるよりも先に、ユウカの方から答えた。


「いや、体の調子を調べるんならこういうのも必要なんじゃないかと思ってね。あんな厳つい刀持ってるんだから、当然やってたんでしょ?」

「いや……覚えてないな」

「ふーん。そっか。まぁ、それも適当にやってたら思い出すかもしれないじゃん。私もしばらくやってなかったから、感覚取り戻したいしね」

「なんだ。ユウカ剣術やってるのか?」

「んー、やってるっていうか、私学校で《武芸科》だから、ほとんど日常に組み込まれてるかな。まぁ、ここ最近は誰かさんのおかげであんまり弄る機会もなかったけど」

「それは悪かったな……。ってか、《武芸科》?」

「あれ?言ってなかったっけ?私のいる学校、主に軍人や官僚みたいな政府関連の人間を育てる学校でね、《武芸科》と《魔法科》の二つの科があるんだけど、その中で私、《武芸科》なの。だから、刀なんてしょっちゅう使うんだよ。私の主要武器だからね」

「へぇー。で、その《武芸科》さんが、俺みたいな素人を今から外でボコボコにするのか?」

「ボコボコにするなんて人聞きの悪い。ただの腕試しだよ。それに、多分だけど恭司は素人とかじゃないと思うよ。歩く時の足の運び方とか、普段の佇まいとか見ても全然隙とかないし。記憶ないのに、それをクセとして自然とやってるのは練達者の証だよ」

「へぇー、そうなのか」

「うん。まぁ、そういうことだから早く行こ。せっかくの良い天気だもん。夜になったらお父さんも帰ってくるしね」

「そうだな。いっちょ揉んでくるか」

「え?それって胸を……じゃないよね」

「当たり前だろ」


そうして、2人は玄関に移動すると、扉を開けて外に出た。

扉を開けた瞬間、生暖かい春風が2人を包むように吹き抜ける。

風の強さに思わず周りを見渡すと、この家は丘の頂上にポツンと建っているようで、辺りには特に何も無いことが分かった。

少し歩けば森をなす木々があるのだが、ここはその木々よりも少し高い位置にあるため、風もストレートにやって来るのだ。

ーー恭司は久しぶりの生の体験に、思わず声が出なかった。

自然の風を浴びるのはとても久しぶりなのだ。

いや、記憶を失ってから初めてと言った方が正しいかもしれない。

新鮮なものに触れた気がして、心臓の鼓動は少しばかり速くなっている。

すると、

ユウカは恭司のそんな様子を見た途端、サッと恭司の前に飛び出してクルリと体を翻した。

その顔は、眩しいくらいの満面の笑顔だ。


「どう?久しぶりの外は。やっぱり……懐かしい?」


小首を傾げて可愛らしい仕草で尋ねてくるユウカ。

こういう時に少しドキリとするなと感じながら、恭司はあくまで無表情で首を横に振った。


「いや、懐かしいっていうよりはほとんど未知の体験に近いな。なんか……胸がドキドキしてくる」

「外に出たくらいでずいぶん大袈裟だね。ちなみに、体の方は大丈夫?」

「あぁ。今のところは何の問題もない。走ったりしても、特に困ったことはなさそうだ」


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