追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー
【第一話】記憶喪失③
「あっ、でも、君のことは知らないけど、もしかしたら名前くらいは分かるかもしれないよ」
「え?」
少女はそう言って、一旦立ち上がってベッドのすぐ側の足下に手を伸ばした。
すぐにガチャッと音が鳴って、少女が何かを掴んだことだけが分かる。
男はそこに何かあるなど知らなかったが、どうやらベッドの側すぎて、男が見回した時には角度的に見えなかったらしい。
少女は手に取ったそれを、男の前に突き出す。
途端、
「……ッ!!!!」
男は少女の手に握られたそれを見ると、思わず頭に手を当てたくなるような衝動に駆り立てられた。
頭痛と吐き気が込み上がってくる。
体に力が入らないせいで実際に手を当てることはなかったものの、一気に気分が悪くなってきた。
しかし、
そんな弱った姿を見ず知らずの人間には見せられない。
男は気丈に振る舞い、それに改めて目を向ける。
(……刀?)
少女が手に持ったのは正しくそう、刀だった。
いわゆる日本刀と呼ばれる物だろう。
ずいぶんと長大な刀身で、鞘や柄には立派な装飾がなされている。
相場は分からないが、おそらくは高級品のように思えた。
だが、
そんな良い刀を見て、男が一番最初に頭に思い浮かばせた単語は、『不吉』だった。
高級な刀を不吉と見る伝承など男は知らないが、その刀はまるで死神の鎌のような印象を受ける。
何がどうとは言えないが、何か近寄りがたい……。
まるで腹を空かした猛獣を前にしているかのような、そんなイメージが男の胸中を占めた。
「コレ、君の腰に掛かっていた刀なんだけど、この刀にね、確か名前が彫ってあったのよ。『灯竜丸』……だったかな?もしかしてソレじゃない?君の名前」
少女は相変わらずのあっけらかんとした様子でそう話した。
どうやら、少女はその刀に対して特に何か感じるものはなかったらしい。
男は息が荒くなりそうになるのを堪えながら、精一杯平静を装って返答を返す。
「いや……刀に彫ってあったんなら、それは刀の名前だろう。刀に自分の名前を彫る奴はいないさ」
「……そっか。まぁ、名前くらいそのうち思い出すでしょ。それより、今ご飯でも作って持ってくるよ。まだ何も食べてないでしょ?」
少女はそう言って、刀を速やかに元の場所に戻した。
もしかしたら、男の様子に気付いて気を遣ってくれたのかもしれない。
刀が再び見えなくなったおかげで、男の体調も少しはマシになった。
男は頷くと、少女はニコッと微笑む。
そして、
そのままドアを開けてこの部屋を出ていった。
「え?」
少女はそう言って、一旦立ち上がってベッドのすぐ側の足下に手を伸ばした。
すぐにガチャッと音が鳴って、少女が何かを掴んだことだけが分かる。
男はそこに何かあるなど知らなかったが、どうやらベッドの側すぎて、男が見回した時には角度的に見えなかったらしい。
少女は手に取ったそれを、男の前に突き出す。
途端、
「……ッ!!!!」
男は少女の手に握られたそれを見ると、思わず頭に手を当てたくなるような衝動に駆り立てられた。
頭痛と吐き気が込み上がってくる。
体に力が入らないせいで実際に手を当てることはなかったものの、一気に気分が悪くなってきた。
しかし、
そんな弱った姿を見ず知らずの人間には見せられない。
男は気丈に振る舞い、それに改めて目を向ける。
(……刀?)
少女が手に持ったのは正しくそう、刀だった。
いわゆる日本刀と呼ばれる物だろう。
ずいぶんと長大な刀身で、鞘や柄には立派な装飾がなされている。
相場は分からないが、おそらくは高級品のように思えた。
だが、
そんな良い刀を見て、男が一番最初に頭に思い浮かばせた単語は、『不吉』だった。
高級な刀を不吉と見る伝承など男は知らないが、その刀はまるで死神の鎌のような印象を受ける。
何がどうとは言えないが、何か近寄りがたい……。
まるで腹を空かした猛獣を前にしているかのような、そんなイメージが男の胸中を占めた。
「コレ、君の腰に掛かっていた刀なんだけど、この刀にね、確か名前が彫ってあったのよ。『灯竜丸』……だったかな?もしかしてソレじゃない?君の名前」
少女は相変わらずのあっけらかんとした様子でそう話した。
どうやら、少女はその刀に対して特に何か感じるものはなかったらしい。
男は息が荒くなりそうになるのを堪えながら、精一杯平静を装って返答を返す。
「いや……刀に彫ってあったんなら、それは刀の名前だろう。刀に自分の名前を彫る奴はいないさ」
「……そっか。まぁ、名前くらいそのうち思い出すでしょ。それより、今ご飯でも作って持ってくるよ。まだ何も食べてないでしょ?」
少女はそう言って、刀を速やかに元の場所に戻した。
もしかしたら、男の様子に気付いて気を遣ってくれたのかもしれない。
刀が再び見えなくなったおかげで、男の体調も少しはマシになった。
男は頷くと、少女はニコッと微笑む。
そして、
そのままドアを開けてこの部屋を出ていった。
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