【コミカライズ配信中!】 婚約破棄後の悪役令嬢~ショックで前世の記憶を思い出したのでハッピーエンド目指します!~
56話:動揺
『アマリリス・クリスト、お前との婚約は破棄させてもらう!!』
輝くシャンデリア、むせ返るような香水の香りと、姦しい囁き声。
色とりどりの鮮やかなドレスやジャケットを着た同級生達の、妖しく揺れる双眸が嘲笑うのは、銀髪の少女。
彼女の周りには誰もいない。
当たり前だ。彼女は悪であり、その行いが暴かれたのだから。
独りで立つ彼女に対峙するのは、太陽の陽のような眩しい金の髪を持つ青年と、彼に肩を抱かれた柔らかい桃色の髪の少女。
その場にいる誰もが、支え合う二人の味方だった。苦難の恋路を乗り越え、結ばれる第一歩が、この断罪だと理解していたから。
二人を讃える拍手と、一人を責め立てる笑い声が、ざわざわと耳の奥を満たす。
その場面を眺めている私からは、誰の表情も見えない。しかし、群衆の捕食者のような目の光だけは、どうしてかよくわかった。
金髪の青年が何かを話し続け、周囲の人々が拳を振り上げてそれに同意する。
彼に促されて少女が言葉を発すると、人々は涙ぐむ。
こんな場面知らないはずなのに、なんでか既視感に襲われる。
まとまらない思考のせいか、二人が話している言葉も意識の網をすり抜けて意味をなさない。
いつまでこれが続くのかと、そう思った時だった。
━━━サーストンルート、こんな感じなのかあ。
突然、誰かの声が響いた。
会場の喧騒がスッと引いて、その彼女の声だけが聞こえてくる。
━━━暗殺を回避して好感度も上げてって大変だったけど、すっごい楽しかった。あーあ、お姉ちゃんもこのゲームやってくれればいいのに。
暗殺、と不穏な言葉が意識に引っかかった。
━━━暗殺者とは最終的に実家での戦いになったけど、親とのわだかまりも解消できて、サーストンにも守ってもらえて、面白いイベントだったなあ。
どういうこと、と尋ねる間も無く、彼女の声は続く。
━━━もうさすがに、アマリリスも諦めたかな?
「……五十五、五十六……あ」
箱に嵌められた石の白い光が、不安定に揺れたかと思うと消える。
「惜しいね。今日は二回、と。一分間光らせ続けるのは、連続四回が今のとこの限界かな」
「そうね……何回も集中し直すのがやっぱり苦手みたい」
「そうなると、あんま魔法師向きではないよね」
そうなの、とセルカの言葉に返事をしながら、私は握っていたラインハルト様から借りた練習用の魔法道具を机の上に置いた。
平和な昼下がり。
ラインハルト様の誕生日会から四日経ち、兄上は頻繁に王城に出向いているようだけれど、私は時々渡される資料の精査だけを行っている状態だった。
どうやら、ユークライ殿下やラインハルト様の方で追っているものがあるらしく、それの裏付けが出来次第私達にも共有してくれる、とのことだ。
とはいえ、私は大体の目星がついている。
おそらく今調べているのは、ゼンリル子爵家のことだろう。あの家の会計は、どうにも不自然だった。
私にリアルタイムで情報が共有されていないのは、情報元が機密だからだろうか。仲間なのにともどかしさを感じるが、王家独自のルートを不用意に外へ流出させるわけにもいかないと自分を納得させるしかない。
仕方がないから、日課になりつつある魔法の練習をしていたのだが、どうにも集中ができない。
今日の朝、夢見が悪かったことも関係しているのかもしれない。気持ちが落ち着かず、ずっと心の中にざわつきを感じている。
「そういえば、ヴィンセントさんは?」
「今朝も王城に呼ばれて……まだ戻ってきてないわね」
朝食は一緒に摂っていたが、今日も兄上は呼び出されているようだった。
兄上は戦闘要員なのかと思ったが、どうやら魔法師団での上官として経験を買われて、色々な相談に乗っているらしい。
「とりあえず私達は待機って感じか」
「えぇ。……社交界の情報もあまり入ってこないから退屈だわ」
前までは母上から話を聞いていたのだが、唯一の情報源だった母上が弟二人を連れて領地に帰ってしまったから、今の私ができるのはユークライ殿下から渡される資料を読み込むことくらいだ。
しかしそれも、結局は同じ事実の裏付けが増えていくだけで、最近は魔法がなかなか上達しないのもあり、なんだか気が詰まりそうだ。
「どうして、私に魔法の才能はないのかしら」
「魔法の才能っていうか、魔法師の才能かな」
「それ、どういう意味?」
うーん、とセルカが唇を尖らせる。
魔法師は、魔法を生業にし、魔法を使って様々な任務━━━国防や要人警護、魔獣退治、犯罪者への対処などに当たる職業だ。ウィンドール王国では、王国魔法師団に所属している者のみが名乗れる。
「魔法師は、魔法を使って色んな任務をこなすことが求められてて、そのほとんどは素早く危険な状態に対応する必要があるでしょ?だから魔法師は、浅くて短い集中で何度も魔法を展開する必要があるの。それこそヴィンセントさんは、それがすごい得意なんだと思う」
「あぁ、確かに」
「でも、魔法を使うのはなにも魔法師だけじゃない。アマリリスみたいに、一回とかだけど深く長く集中できる人は、どっちかというと研究者とか、後は魔法具関連の仕事に多いかな」
「でも、セルカは実戦もできるけれど研究者なのよね?」
私がそう尋ねると、セルカはニヤリと口角を上げて、私がさっきまで使っていた魔法の練習用の魔法具を手にする。
彼女は椅子に座ったまま、足を組むと箱を宙に放り投げた。
「わっ」
「大丈夫」
思わず声を上げてしまった私に、セルカは得意げに笑う。
私はただ一つを光らせ続けるのにあんなに苦労していたのに、セルカは魔法具自体を宙に浮かべ自分の周りをクルクルと回らせながら、丸や四角などに光らせた。
そうしながら彼女は、今度は地面を指差す。すると、ぼこぼこと土が持ち上がり、人型を形成する。
「クリスト家のご令嬢の護衛をするのですから、もちろん十二分に戦えますよ?ご安心下さいませ、お嬢様」
彼女とそっくりの背格好になった土人形が、魔法具を恭しく受け取ると、私の側まで歩いてくる。
私が手を差し出すと魔法具をそこに乗せ、華麗に一礼すると手を振ってポロポロと崩れた。
「どう?気晴らしになった?」
「えぇ、とっても」
「焦ってもしょうがないからねぇ」
セルカが言っているのが、果たして私の魔法のことなのか、調査のことなのか、はたまた別の何かなのかわからず、すぐに返答できない。
どうにも思考がまとまらない私が言葉を発する前に、「あれ」とセルカが口を開く。
「帰ってきたみたい」
「兄上?」
「……人数が多い。誰だろ」
セルカが険しい表情で立ち上がると、少し離れたところで待機してくれていたヘレナが駆け寄ってくる。
「何か?」
「屋敷に誰か来てる。今日、来客の予定ないんだよね?」
「えぇ。そのように聞いております」
かけてあったローブを羽織ったセルカは、フードを被ると目を閉じる。
「……六人。魔力量が基準値を超えているのが五人」
「現在、その六名はどちらに?」
「ごめん、私の用意してた結界だと、通った人数とその内の何人が魔力量が多いかしかわかんないんだよね。ただ、入ってきた場所と時間から考えて多分、あと一分くらいで正面玄関に着くかな」
ヘレナと緊張感を持ちながら会話をするセルカは、ローブの内側から杖を取り出す。
「どうする、アマリリス?」
「……玄関まで迎えに行きましょう。もしお客様だったら、きちんと失礼のないように応対すべきだわ」
「わかった、護衛は任せて。ヘレナは一応誰かに言付けしてから来て」
「承知しました。お嬢様、セルカ様、お気を付けて」
ありがとう、とヘレナに返して、私も立ち上がった。
足早に屋敷の廊下を歩く。
「予定外の来客って、よくあることなの?」
「ほとんどないわ。普通は先触れを出すの」
「なるほど。……屋敷って、どれくらい壊していい?」
唐突に聞かれたその問いに、一瞬足が止まってしまう。
「……どういうこと?」
「私の戦い方って、結構周りをぐちゃぐちゃにしちゃうから。出来るだけ綺麗に戦うつもりではあるけど」
「あなたがやりやすいようにやっていいわ。それより、戦うのは確実なの?」
「六人中五人が魔力量の基準値超えてるのが、ちょっと嫌な感じがするんだよね。魔法である程度戦えるくらいの量に基準を設定してあるから」
「そう……。もし戦いになったら、私はどうすれば?」
「私の側から離れないで。絶対守るから」
「……ありがとう。頼りにしてるわ」
力強く告げられたその言葉に返事をした時、廊下を曲がった私達は、玄関ホールに足を踏み入れた。
そこに立っていた人物に、私とセルカは同時に息を吐く。
「兄上…!」
「おー、リリィ!わざわざ迎えに来てくれてありがとな。セルカも」
「ヴィンセントさん、誰を連れてきたの?」
少し硬い声でそう尋ねたセルカが、ローブを着て杖を手にしているのを見て、兄上は合点がいったらしい。
あー、と気まずそうに頭を掻くと、パチンと手を合わせた。
「すまん!セルカが結界を張ってくれてたの忘れてた!」
「ってことは、ちゃんと知り合いなんだね」
「お前らの知り合いでもあるぞ」
兄上が振り返り、扉のところに立っている使用人達に合図する。
私が、ここまで急いで来る中で崩れてしまった髪やドレスの裾を直しながら待っていると、扉が開かれ、しばらくするとカツカツと階段を上がってくる踵の音がした。
誰なのだろう、という疑問は、見慣れた黒い髪が見えた瞬間に消える。
「おはよう、アマリリス」
穏やかな声に、私は微笑みを浮かべながらカーテシーをする。
「おはようございます、ラインハルト様。……もう、昼過ぎですが」
私の言葉に、ラインハルト様の後ろに控えていたダラン様と、脱いだジャケットを使用人に手渡していた兄上が同時に苦笑を漏らした。
「そういえばそうか。朝からずっと部屋の中で話し続けていたから、時間の経過を感じなかったんだ」
「まぁ。ひょっとして、お昼もまだなのでは?」
「あぁ。まだだな」
「宜しければ準備しますわ。ダラン様も」
「俺も食うぞ。……あと、もう何人か増えるかもだな」
何かをほのめかすような兄上の言葉に、私は開かれたままの扉の向こうをチラリと確認する。
そこに停まっていたのは、王家の紋章が描かれた上等な作りの馬車。見覚えがあるのは、私がまだ王族と婚約していた頃に、よく王族の方が遊びに来ていた時に使っていたからだ。
ラインハルト様やユークライ殿下は馬を使うことが多いから、見るのはだいぶ久しぶりのような気がする。
そんな馬車に、なんとも言えないざわつきを覚えながら、私はラインハルト様に視線を向けた。
「本日はどのような御用で?」
「先に断っておく。もし君が嫌だと思うなら、遠慮なく伝えて欲しい」
「……わかりました」
何を言われるのかと、ざわつきが大きくなる。
色々な可能性が頭の中を駆け巡り、ほんの数秒の間に一気に膨れ上がった不安は、ラインハルト様が続けた言葉で弾けた。
「サーストンが、君に直接会って謝罪したいと言っている。その謝罪を受けてくれるか?」
その言葉にすぐに返事をすることは、できなかった。
輝くシャンデリア、むせ返るような香水の香りと、姦しい囁き声。
色とりどりの鮮やかなドレスやジャケットを着た同級生達の、妖しく揺れる双眸が嘲笑うのは、銀髪の少女。
彼女の周りには誰もいない。
当たり前だ。彼女は悪であり、その行いが暴かれたのだから。
独りで立つ彼女に対峙するのは、太陽の陽のような眩しい金の髪を持つ青年と、彼に肩を抱かれた柔らかい桃色の髪の少女。
その場にいる誰もが、支え合う二人の味方だった。苦難の恋路を乗り越え、結ばれる第一歩が、この断罪だと理解していたから。
二人を讃える拍手と、一人を責め立てる笑い声が、ざわざわと耳の奥を満たす。
その場面を眺めている私からは、誰の表情も見えない。しかし、群衆の捕食者のような目の光だけは、どうしてかよくわかった。
金髪の青年が何かを話し続け、周囲の人々が拳を振り上げてそれに同意する。
彼に促されて少女が言葉を発すると、人々は涙ぐむ。
こんな場面知らないはずなのに、なんでか既視感に襲われる。
まとまらない思考のせいか、二人が話している言葉も意識の網をすり抜けて意味をなさない。
いつまでこれが続くのかと、そう思った時だった。
━━━サーストンルート、こんな感じなのかあ。
突然、誰かの声が響いた。
会場の喧騒がスッと引いて、その彼女の声だけが聞こえてくる。
━━━暗殺を回避して好感度も上げてって大変だったけど、すっごい楽しかった。あーあ、お姉ちゃんもこのゲームやってくれればいいのに。
暗殺、と不穏な言葉が意識に引っかかった。
━━━暗殺者とは最終的に実家での戦いになったけど、親とのわだかまりも解消できて、サーストンにも守ってもらえて、面白いイベントだったなあ。
どういうこと、と尋ねる間も無く、彼女の声は続く。
━━━もうさすがに、アマリリスも諦めたかな?
「……五十五、五十六……あ」
箱に嵌められた石の白い光が、不安定に揺れたかと思うと消える。
「惜しいね。今日は二回、と。一分間光らせ続けるのは、連続四回が今のとこの限界かな」
「そうね……何回も集中し直すのがやっぱり苦手みたい」
「そうなると、あんま魔法師向きではないよね」
そうなの、とセルカの言葉に返事をしながら、私は握っていたラインハルト様から借りた練習用の魔法道具を机の上に置いた。
平和な昼下がり。
ラインハルト様の誕生日会から四日経ち、兄上は頻繁に王城に出向いているようだけれど、私は時々渡される資料の精査だけを行っている状態だった。
どうやら、ユークライ殿下やラインハルト様の方で追っているものがあるらしく、それの裏付けが出来次第私達にも共有してくれる、とのことだ。
とはいえ、私は大体の目星がついている。
おそらく今調べているのは、ゼンリル子爵家のことだろう。あの家の会計は、どうにも不自然だった。
私にリアルタイムで情報が共有されていないのは、情報元が機密だからだろうか。仲間なのにともどかしさを感じるが、王家独自のルートを不用意に外へ流出させるわけにもいかないと自分を納得させるしかない。
仕方がないから、日課になりつつある魔法の練習をしていたのだが、どうにも集中ができない。
今日の朝、夢見が悪かったことも関係しているのかもしれない。気持ちが落ち着かず、ずっと心の中にざわつきを感じている。
「そういえば、ヴィンセントさんは?」
「今朝も王城に呼ばれて……まだ戻ってきてないわね」
朝食は一緒に摂っていたが、今日も兄上は呼び出されているようだった。
兄上は戦闘要員なのかと思ったが、どうやら魔法師団での上官として経験を買われて、色々な相談に乗っているらしい。
「とりあえず私達は待機って感じか」
「えぇ。……社交界の情報もあまり入ってこないから退屈だわ」
前までは母上から話を聞いていたのだが、唯一の情報源だった母上が弟二人を連れて領地に帰ってしまったから、今の私ができるのはユークライ殿下から渡される資料を読み込むことくらいだ。
しかしそれも、結局は同じ事実の裏付けが増えていくだけで、最近は魔法がなかなか上達しないのもあり、なんだか気が詰まりそうだ。
「どうして、私に魔法の才能はないのかしら」
「魔法の才能っていうか、魔法師の才能かな」
「それ、どういう意味?」
うーん、とセルカが唇を尖らせる。
魔法師は、魔法を生業にし、魔法を使って様々な任務━━━国防や要人警護、魔獣退治、犯罪者への対処などに当たる職業だ。ウィンドール王国では、王国魔法師団に所属している者のみが名乗れる。
「魔法師は、魔法を使って色んな任務をこなすことが求められてて、そのほとんどは素早く危険な状態に対応する必要があるでしょ?だから魔法師は、浅くて短い集中で何度も魔法を展開する必要があるの。それこそヴィンセントさんは、それがすごい得意なんだと思う」
「あぁ、確かに」
「でも、魔法を使うのはなにも魔法師だけじゃない。アマリリスみたいに、一回とかだけど深く長く集中できる人は、どっちかというと研究者とか、後は魔法具関連の仕事に多いかな」
「でも、セルカは実戦もできるけれど研究者なのよね?」
私がそう尋ねると、セルカはニヤリと口角を上げて、私がさっきまで使っていた魔法の練習用の魔法具を手にする。
彼女は椅子に座ったまま、足を組むと箱を宙に放り投げた。
「わっ」
「大丈夫」
思わず声を上げてしまった私に、セルカは得意げに笑う。
私はただ一つを光らせ続けるのにあんなに苦労していたのに、セルカは魔法具自体を宙に浮かべ自分の周りをクルクルと回らせながら、丸や四角などに光らせた。
そうしながら彼女は、今度は地面を指差す。すると、ぼこぼこと土が持ち上がり、人型を形成する。
「クリスト家のご令嬢の護衛をするのですから、もちろん十二分に戦えますよ?ご安心下さいませ、お嬢様」
彼女とそっくりの背格好になった土人形が、魔法具を恭しく受け取ると、私の側まで歩いてくる。
私が手を差し出すと魔法具をそこに乗せ、華麗に一礼すると手を振ってポロポロと崩れた。
「どう?気晴らしになった?」
「えぇ、とっても」
「焦ってもしょうがないからねぇ」
セルカが言っているのが、果たして私の魔法のことなのか、調査のことなのか、はたまた別の何かなのかわからず、すぐに返答できない。
どうにも思考がまとまらない私が言葉を発する前に、「あれ」とセルカが口を開く。
「帰ってきたみたい」
「兄上?」
「……人数が多い。誰だろ」
セルカが険しい表情で立ち上がると、少し離れたところで待機してくれていたヘレナが駆け寄ってくる。
「何か?」
「屋敷に誰か来てる。今日、来客の予定ないんだよね?」
「えぇ。そのように聞いております」
かけてあったローブを羽織ったセルカは、フードを被ると目を閉じる。
「……六人。魔力量が基準値を超えているのが五人」
「現在、その六名はどちらに?」
「ごめん、私の用意してた結界だと、通った人数とその内の何人が魔力量が多いかしかわかんないんだよね。ただ、入ってきた場所と時間から考えて多分、あと一分くらいで正面玄関に着くかな」
ヘレナと緊張感を持ちながら会話をするセルカは、ローブの内側から杖を取り出す。
「どうする、アマリリス?」
「……玄関まで迎えに行きましょう。もしお客様だったら、きちんと失礼のないように応対すべきだわ」
「わかった、護衛は任せて。ヘレナは一応誰かに言付けしてから来て」
「承知しました。お嬢様、セルカ様、お気を付けて」
ありがとう、とヘレナに返して、私も立ち上がった。
足早に屋敷の廊下を歩く。
「予定外の来客って、よくあることなの?」
「ほとんどないわ。普通は先触れを出すの」
「なるほど。……屋敷って、どれくらい壊していい?」
唐突に聞かれたその問いに、一瞬足が止まってしまう。
「……どういうこと?」
「私の戦い方って、結構周りをぐちゃぐちゃにしちゃうから。出来るだけ綺麗に戦うつもりではあるけど」
「あなたがやりやすいようにやっていいわ。それより、戦うのは確実なの?」
「六人中五人が魔力量の基準値超えてるのが、ちょっと嫌な感じがするんだよね。魔法である程度戦えるくらいの量に基準を設定してあるから」
「そう……。もし戦いになったら、私はどうすれば?」
「私の側から離れないで。絶対守るから」
「……ありがとう。頼りにしてるわ」
力強く告げられたその言葉に返事をした時、廊下を曲がった私達は、玄関ホールに足を踏み入れた。
そこに立っていた人物に、私とセルカは同時に息を吐く。
「兄上…!」
「おー、リリィ!わざわざ迎えに来てくれてありがとな。セルカも」
「ヴィンセントさん、誰を連れてきたの?」
少し硬い声でそう尋ねたセルカが、ローブを着て杖を手にしているのを見て、兄上は合点がいったらしい。
あー、と気まずそうに頭を掻くと、パチンと手を合わせた。
「すまん!セルカが結界を張ってくれてたの忘れてた!」
「ってことは、ちゃんと知り合いなんだね」
「お前らの知り合いでもあるぞ」
兄上が振り返り、扉のところに立っている使用人達に合図する。
私が、ここまで急いで来る中で崩れてしまった髪やドレスの裾を直しながら待っていると、扉が開かれ、しばらくするとカツカツと階段を上がってくる踵の音がした。
誰なのだろう、という疑問は、見慣れた黒い髪が見えた瞬間に消える。
「おはよう、アマリリス」
穏やかな声に、私は微笑みを浮かべながらカーテシーをする。
「おはようございます、ラインハルト様。……もう、昼過ぎですが」
私の言葉に、ラインハルト様の後ろに控えていたダラン様と、脱いだジャケットを使用人に手渡していた兄上が同時に苦笑を漏らした。
「そういえばそうか。朝からずっと部屋の中で話し続けていたから、時間の経過を感じなかったんだ」
「まぁ。ひょっとして、お昼もまだなのでは?」
「あぁ。まだだな」
「宜しければ準備しますわ。ダラン様も」
「俺も食うぞ。……あと、もう何人か増えるかもだな」
何かをほのめかすような兄上の言葉に、私は開かれたままの扉の向こうをチラリと確認する。
そこに停まっていたのは、王家の紋章が描かれた上等な作りの馬車。見覚えがあるのは、私がまだ王族と婚約していた頃に、よく王族の方が遊びに来ていた時に使っていたからだ。
ラインハルト様やユークライ殿下は馬を使うことが多いから、見るのはだいぶ久しぶりのような気がする。
そんな馬車に、なんとも言えないざわつきを覚えながら、私はラインハルト様に視線を向けた。
「本日はどのような御用で?」
「先に断っておく。もし君が嫌だと思うなら、遠慮なく伝えて欲しい」
「……わかりました」
何を言われるのかと、ざわつきが大きくなる。
色々な可能性が頭の中を駆け巡り、ほんの数秒の間に一気に膨れ上がった不安は、ラインハルト様が続けた言葉で弾けた。
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