【コミカライズ配信中!】 婚約破棄後の悪役令嬢~ショックで前世の記憶を思い出したのでハッピーエンド目指します!~

弓削鈴音

44話:紹介

※5月14日誤字修正








「まずは、俺から自己紹介をするね」

 一堂に会した捜査隊の面々の中で一際存在感を放つのは、そう言って爽やかに笑う第一王子、ユークライ殿下だ。
 後ろに二人の護衛騎士を伴う彼は、机の上で手を組みながら、ブロンドに映える明るい青の双眸で私達全員と順番に目を合わせていく。

「ユークライ・ウィンドールだ。ラインハルトと共に、この特設捜査隊の責任者を務めている。基本的には全体を見ることになると思うから、君達全員としっかりとした信頼関係を築いていけたらと思っている。よろしくね」

 よく通る声で朗々と話すユークライ殿下は、「じゃあ」とこちらの方に視線を向ける。

「順番に紹介していくね。まずラインハルト・ウィンドール」

 名前を呼ばれて、ラインハルト様が軽く頷いた。

 さらりと揺れた髪は、日本人の感覚からしても珍しい濡羽色ともいえる艶ややかな黒。この国では全く見ない色だ。

 改めて見ると、顔立ちはどことなく異母兄であるユークライ殿下とも似ているような気もするが、纏う雰囲気は正反対ともいえるくらい異なっている。

「魔法に関する検分だったり調査だったりを主に担当してくれる。王子ではあるけれど、実際に戦闘にも関わるつもりだよね?」

「あぁ」

 隣で平然と頷くラインハルト様の方を思わず向いてしまうと、視線がかち合う。
 驚きを隠せない私に、一瞬不思議そうにした彼は、すぐに私を安心させるかのように小さく頷いた。

 ラインハルト様の魔法の腕前が高いというのは知っていたが、まさか王子である彼本人も戦いの場に立つとは思わなかった。
 ただ、あの迅速で正確な治療を目の当たりしているから、きっと荒事になっても頼れるのだろうなとも信じられる。

「次にヴィンセント・クリスト。魔法師団に所属しているけれど、そっちの仕事からはしばらく離れてもらってこの捜査に関わってくれる。ラインハルトと同じく、魔法に関することをやってもらうし、主戦力でもある」

「よろしく」

 兄上はニカっと笑ってひらひらと手を振る。

「次はアマリリス・クリスト。情報収集だったりその精査だったりを担当してもらう」

「よろしくお願いいたします」

 名前を呼ばれ、座ったまま全員の顔を見渡して軽く頭を下げた。
 アイカが依然として目を合わせようとしてくれないのは少し応えたが、表情には出さないように意識して口角を保つ。

 やはり私の仕事は、頭脳派としてのものだった。
 私が上手くできるかどうかで、他のメンバーの活動の安全度合いや全体の進行状況が変わってきてしまうから、身が引き締まるような気持ちだ。

「次はセルカ」

 名前を呼ばれた彼女が、少し強張った顔のまま礼をする。
 胸に手を当てた礼は一般的には男性の作法だから、きっとかなり緊張しているのだろう。

「魔法研究者であり、優秀な魔法使いでもある。実地調査や戦闘に関わってもらう予定だ」

「……よろしくお願いいたします」

 ぎこちなく笑ってもう一度頭を下げたアイカを見て、「次は」とユークライ殿下が口を開く。

「ダラン・フォンビッツ。フォンビッツ家当主ではあるけれど、この調査が続く当面は王都に滞在してくれる。作戦立案だったり、全体的に足りないところを補ってもらう」

「よろしくお願いいたします」

 柔和に微笑んだダラン様の瞳は、ラインハルト様と同じ夕焼けのような橙。男性としては少し長めの銀髪を、後ろで一つにまとめている。

 作戦立案を担当するということは、一緒に作業することも多くなりそうだ。

「次にスロフォリオ・ツヴァニエ。俺の従者で、全体の補佐だったり会計だったりをしてもらう」

「どうぞよろしくお願いいたします」

 直接の面識はほとんどゼロに等しいが、ユークライ殿下の実母であるイリスティア妃の実家ツヴァニエ家の次男の彼のことは知っている。
 商才に秀で、ユークライ殿下の手がける事業を実質的に取り仕切っている方らしい。

 鮮やかな金髪と緑がかった青の瞳から、彼がユークライ殿下のいとこであることがよくわかる。

「次はアレックス・ウィスドム」

「はいっ!!」

 ラインハルト様の斜め後ろに立っていた茶髪の少年が、威勢よく返事をする。

「……あ」

 元気の良い返事よりも、その名前に私はつい声をあげた。
 小さくこぼれたその声を拾って、ラインハルト様が首を傾げる。

「知り合いか?」

「上の弟の友人です」

 アレックスというのは、魔法学校でも友達の多いレオナールが、よく名前を挙げていた中の一人だ。

「騎士見習いで、先日ラインハルト付きの護衛騎士になった。主に戦闘面を担当してもらう」

「よろしくお願いいたします!」

 私が彼の名前を覚えていたのは、単にレオナールの友人だったからだけではない。

 半年ほど前に退学処分となった彼の素行の審議を、生徒会の職務として行ったからだ。

 しかしこのことを、本人がすぐ近くにいる中で、直属の上司に当たるラインハルト様に告げ口のように伝えるわけにもいかず、ひとまず口を閉じる。

「次はイレーヴ・トルド。俺の護衛騎士の一人だ。担当は戦闘」

「よろしくお願いいたします」

 かなりの長身の彼は、赤毛というのもあってどこか目を引く。

「そして、もう一人の俺の護衛騎士がヘンリック・クーパル」

「皆様、よろしくお願いいたします」

 上背があるだけでなく体格もしっかりしていて、そして髭があるのもあって、護衛というのがしっくりくる威圧感のようなものがある人だ。

「次がヘレナ・コパルト。アマリリス嬢の専属侍女で、主に彼女の補佐をしてもらう」

「よろしくお願いいたします」

 私の後ろに控えていたヘレナが、ゆったりと微笑みながらカーテシーをした。

 丁寧にまとめられた茶髪は実は癖っ毛で、本人はそれを気にしているらしいが、私としてはとても可愛らしくて素敵だと思っている。
 軽く振り返ると、彼女の青色の瞳と目が合って、お互いにっこりと笑った。

「もう一人、アマリリス嬢の専属侍女のエミーもこの調査隊に加わってもらう」

 私の部下の参加の可否が知らないところで決まっていたのはなんだか変な感じがするけれど、彼女も一緒にいてくれるならありがたい。
 しばらく会えていない彼女が、早く母上の実家であるノートル侯爵家から帰ってこないかなと思いながら、私はまだ紹介されていない最後の一人に視線を移した。

「そしてエストレイ。戦闘面を担当してもらう」

 かなり端的な説明に、アイカの隣に座っていた少女━━━エストレイは無言で頭を下げる。

 何より目を引くのは、その髪と瞳の色だ。
 癖のある薄紫色の髪に水色の瞳なんて、これまでウィンドール王国で十八年生きてきて初めて見た。
 どこか独特の雰囲気を纏う彼女は、アイカとお揃いの黒のローブを着ている。

「これで全員の紹介は終わり。じゃあまずは予定していた通り、手合わせをしようと思う。近くの演習場を借りているから移動しよう」

 ユークライ殿下がそう言うと、全員が立ち上がりバラバラと移動する。

 どこかのタイミングでアイカに声をかけたいと思っていたが、彼女はエストレイとすぐに出て行ってしまう。
 仕方ないので、残された私はラインハルト様と共に部屋を出る。

「手合わせですか?」

 初耳だと思いながらラインハルト様にそう尋ねると、「あぁ」と肯定が返される。

「戦闘班は、連携を取るためにも互いの得意不得意を知っていた方が良い。だから軽く模擬戦をしようということになったんだ」

「そういうことだったのですね」

 今度こそ踏み外さないようにと、ラインハルト様に手を取ってもらって慎重に階段を登る。
 階段を上がるだけでも少し息が切れそうになってしまっているから、体力を取り戻す必要がありそうだ。

 屋敷の中で走り込みでもしようかと思いながら扉を出た時、横から声をかけられる。

「ご快復おめでとうございます、クリスト嬢」

「……リズヴェルト」

 眼鏡の奥の銀の瞳をキュッと細めた彼は、『アメジストレイン』の攻略対象者であり、私が魔法学校生徒会時代に共に職務にあたった仕事仲間であるレーミル・リズヴェルト。

 私はラインハルト様に手を取ってもらったまま、並んでリズヴェルトに向き直る。

「ラインハルト殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

「あぁ」

「リズヴェルト、この会議に参加していらしたの?」

 そう尋ねると、彼は「いえいえ」と首を振った。

「私は国王陛下と宰相閣下の目であり耳。参加はしておりませんよ」

「聞いてはいた、ということですのね」

 父である宰相の伝言役として、彼が私にララティーナについて忠告してきたことを思い出す。
 そしてそれと同時に、陛下が本当にこの特設調査隊で二人の王子の資質を見極めようとしていることを確信した。

「えぇ。この後の手合わせも観覧させていただこうかと」

「そのようなお話は、わたくしではなくラインハルト様やユークライ殿下になさってはいかがです?」

「お二人には事前にお伝えしておりますゆえ。……不躾ですがクリスト嬢、数日間倒れていらっしゃった原因とは?」

 彼の瞳で、ゆらりと怪しげな光が揺れる。

「……心労ですわ。ご心配をおかけしましたわね」

「あぁ、心労ですか」

「えぇ。もうすっかり回復しましたし、心配の種も取り除かれましたから」

「心配の種?それが何か伺っても?」

 まるで罪状を追及されているようで、なんだか居心地が悪い。
 生徒会時代、リズヴェルトが生徒に対してこのように詰め寄っているのを見たことは何度もあったが、まさか自分もされる側になるとは思ってもいなかった。

 きっと彼は、いや彼の後ろのいる首脳部は、私の適性を確かめたいのだろう。
 私が、この国家の安寧を守るための調査に耐え得る人物かどうか。そこに疑問を投じてしまった三日間の体調不良が、一体何によるものだったのか。

「家族ですわ。特に下の弟のシルヴァンが心配で」

 私は意図的にまなじりを下げながら、胸に手を当てる。

「弟君が?」

「我がクリスト家が狙われているとなった時、最も危険なのはシルヴァンなのです。彼が安全な領地に帰った今、憂いはありませんわ」

 アイカのことは、リズヴェルトには絶対に言えない。

 前世の記憶だなんて、頭が本気でおかしくなったと思われるのがオチだ。
 私自身の評価ならまだしも、気が狂ってしまった娘がいるなんて家族が思われてしまうのは絶対に避けたい。

「寝込んでしまうほどに、弟君の身の安全が心配、と」

「寝込んだと言いましても、少々外に出歩く気力がなかったくらいですわ」

 どうやら家の外の人達には、私が意識を失って魔力を暴走させていたことは伝わっていないらしい。
 後で家に帰ったら、そこら辺の情報の擦り合わせもしなくてはならないなと思いながら、私は本音を隠すための微笑を顔に貼り付ける。

「兄上は過保護ですから、きっと過剰に伝わってしまったのですわ」

「……ははは、確かにクリスト家のご兄妹の仲の良さは、私も聞き及んでいるところです。なるほど。お教えくださってありがとうございます」

 少し間を置いてから告げられたその言葉と、緩められた彼の空気で、どうにかこの関門を突破できたことを感じた。

「では、私はこちらで失礼いたします」

 リズヴェルトはそう言って優雅に一礼すると、カツカツと踵を鳴らしながら去っていった。

 まるで狩猟者のような目つきをしていた彼がいなくなったことにほっと息を吐くと、ふと視線を感じて横を向く。

「……ん?」

 私の方を無言で見つめていたラインハルト様と目が合う。
 何かあるのかというように首を傾げた彼に、私は小さく微笑んで首を横に振った。

「申し訳ありません。私に関することで待たせてしまって」

「いや、構わない。……レーミルは、いつも君に対してああなのか?」

 わずかに眉を顰めながら投げかけられた問いに、私は苦笑を返す。

「そういうわけではありませんよ。……彼にも彼なりの、立場や役目がありますから」

「そういうものなのか」

「えぇ。そういうものです」

 貴族社会に疎いラインハルト様からすると、ひょっとしたらその時その時の状況によって人間関係が大きく変化するというのは、飲み込みづらいことなのかもしれない。

 これにすっかり慣れてしまっている私は生粋の貴族なのだなと思いながら、私は令嬢としての笑みではなく、自然に溢れたままの笑顔を浮かべる。

「隣にいてくださってありがとうございました。お陰で萎縮せずに答えられましたわ」

「それは君自身の力だ。……でも、僕が役に立てていたなら嬉しい」

 優しい声で返事をしてくれたラインハルト様が、チラリと視線を遠くにやった。

「そろそろ演習場に向かおう」

「えぇ、参りましょう」

 これは病み上がりだからと、誰にともなく心の中で言い訳をしながら、私は繋いだ手をもう一度確かめるように握り直し、一歩踏み出した。

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